生きる気力

この時の錬治の<拘り>を嗤う人間はきっと多い。


『偉そうなこと言ってて結局甘えてんじゃんよwwwww』


などと嘲笑うだろう。でも、そんな風に彼を嘲笑う人達は、もし彼と同じ立場になったら同じことができるのか?


ヤケを起こして周りの人間に当たり散らしたりしないだろうか?


結局は、自分がそうなってみないと分からないのじゃないだろうか。




錬治は、綾乃やアリーネに支えてもらいながら、みほちゃんやエレーンやシェリーに励ましてもらいながら、癒してもらいながら、怪物退治を続けた。


車椅子に座ったままでアリーネに押してもらって手で掃うだけなのだから、今の彼でも楽なものだった。


もっとも、実際には楽ではないけど。もう、こうやって座ってるだけでも辛いのだから。けれど、


『僕がやると決めたんだからやらなくちゃ……』


そう思い、自分自身を支えた。


『やらなくちゃ』という気持ちと、『もうどうでもいい』という気持との間で酷く揺れ動いてるのを感じながらも、ギリギリのところで踏ん張っていた。


気力や気合いや根性だけではどうにもならないことがあると思いつつ、どうにかなる間は気力だけででも自分を奮い立たせよう。そしてそれすら無理になったら、その時こそアリーネさんに任せよう。


なんてことを考えてベンチで横になってる彼に、綾乃が話しかける。


「…どうしてそんなに意地を張るんですか…? あのクォ=ヨ=ムイとかいうのがちゃんと約束を守ると本当に思ってるんですか?」


声は控えめでありつつ、苦しげにも聞こえる声だった。錬治を見詰める彼女は、眉をしかめて、何かに必死に耐えているのが分かった。


僅かに薄目を開けて彼女を見ながら、彼は答える。


「…正直…僕にもよく分からない…意地なのか…何なのか……


吉佐倉さんや…みほちゃんや…エレーンさんや…シェリーちゃんには…こんなこと…させたくないっていう気持ちもあるけど……それだけなのか…自分でも……」


すると彼女は首を横に振った。


「…神河内かみこうちさんはもっと他人を信用してください…! アリーネさんは確かに軍人だからこういうのだって対処できるかもしれませんけど、私だってもうここまで来たら覚悟はできてます。あとは私とアリーネさんに任せてください…!」


首を振って、俯いて、絞り出すように綾乃が言う。たとえ、彼と同じ癌で亡くなった叔父の姿が重なって見えてるんだとしても、彼女の声が悲痛なそれにも聞こえるのは事実だった。


だけど彼は言った。


「…ごめん……信じるとか…信じないとかじゃなくて……


なんて言うかな…ある意味じゃ…これがもう…僕にとっては…心の支え…みたいなものって…気もする……


これをやり遂げなくちゃ…て思うから…まだ耐えられてる…ていうのもある…気がするんだ……


…吉佐倉さん……吉佐倉さんの気持ちは…すごく嬉しい……


だけど…僕から…生きる気力を…取り上げないで…ほしい……」


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