頭を垂れて
「わたし、かいぶつやっつけられる? そしたらパパとママのびょーきもなおる!?」
みほちゃんでも怪物を倒せるみたいなことをクォ=ヨ=ムイが言ったものだから、口の周りにソースと青のりを付けたまま、みほちゃんがそんなことを言い出した。
「え? でも危ないよ! こういうのは大人に任せておいたらいいんだから」
「わたしもパパとママのびょーきなおしたい! かいぶつやっつけてパパとママたすけたい!」
両手をぎゅっと握り締めてブンブン振りながら、懸命に食い下がる。
「くかか! こりゃいい! お前よりよっぽどやる気ではないか。今からでも選手交代するか?」
「…く…!」
錬治は思う。
『確かに、これまでやってきた様子から何か危険なことがある訳じゃないのは確かかもしれない。最後までこれで済むのならみほちゃんにだってできるのかもしれない。でも、それでもこんな小さな子にやらせるのは違う気がする……』
と。
なのに、吉佐倉綾乃までもが、
「いいじゃないですか。本人がやりたいって言ってるんですからやらせてあげれば。私もやりますよ。手分けしてやれば手っ取り早いでしょ。とにかくこんなこと、さっさと終わらせたいんです」
などと言いだした。
「それは……」
この時、錬治の頭によぎった思考。それは、
『もしここで僕が切れて怒鳴ったところで、まったく事態が好転する気がしない……
むしろみほちゃんは泣き出して、吉佐倉さんは反発してっていう未来しか想像できない……
何しろ僕は、二人からまるで信頼されてないから。僕だって、信頼もしてない相手に怒鳴られて凄まれて大人しく従う気になることはないからね……』
というものだった。故に、
「ごめん……これは本来、僕が引き受けたことなんだ。だから僕にやらせてほしい。途中で僕にもしものことがあった時には、引き継いでくれたらいいけど、それまでは……」
二人の前で深々と頭を下げて、丁寧に言った。
それは、彼のこれまでの人生の中で最も真剣な<お願い>だった。
「え……」
「あ……」
すると二人が戸惑うのが見えた。自分達よりずっと年上の<大人>が、そんな風に丁寧に<お願い>をするのを見たことがなかったからだ。
特に吉佐倉綾乃にとって大人は、横柄で、年下、特に子供は大人の言うことには従うべきだって態度が見え見えの、傲慢な存在だった。腰が低いように見える大人も、内心では『こうしておけば言うこと聞いてくれるだろ』って目算を立ててるのが透けて見えていたから。
けれどこの時の神河内錬治は、本気で、相手が小さな子供とか自分よりずっと年下の若い女の子とか関係なしに、
大人なのに恥ずかしいとか、馬鹿にされるかもしれないとか、関係なしに。
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