人工環境

機械類についてはネズミ対策がされているようではあるものの、建物の壁や床までは十分な対策がされていなかったのか、それともネズミ共の執念が勝ったか、壁の一部に穴が開いているのが分かった。ネズミ共が齧って穴を開けたのだろう。


それを見るとせめてネズミになっていればと思わなくもないが、配られた手札にケチをつけても始まらん。


加えて、ゴキブリだからこそあの男の攻撃を躱せたというのもあるだろう。


それぞれメリットデメリットがあるのはどのような形に生まれようと同じだ。必要なのは配られた手札にケチをつけることではなく、それをどう活かすかなのだ。


とまあそれはさて置いて、私はネズミ共の隙をついて配線脇の隙間を通り、再び床下へと移動した。


この床下の空間は、ネズミにとってさえ狭く、自由には動き回れないらしい。齧って広げた限られた<通路>を通って行き来しているようだな。


それに比べればゴキブリの方がまだ自由度は高いか。


そこで私は、次は送気ファンの音がしている方へと向かった。しかしそちらは、通れるような隙間がまったく見付からず、侵入を諦める。


ただ、部屋自体がかなり暖められているのは床を通しても伝わってきた。おそらくは屋敷全体に送る空気を温めるための加熱装置の余熱で部屋全体が温まっているのだろう。


つまりこの屋敷の環境を維持するためには空気を温める必要があるということであろうから、外は非常に寒冷であるということが推察されるか。


ここの地球は、それこそ<全球凍結>レベルの極寒の世界なのかもしれんな。


ちなみに<全球凍結>とは、赤道付近まで完全に氷に閉ざされた、文字通り、


『地球全体が凍結した』


状態であり、地表付近でも場所によってはマイナス百五十度程度にまで気温が下がってしまう。温かいところでもマイナス五十度程度になる上に、上空ともなれば当然さらに温度が下がり、それによって大気中の酸素などまで多くが液化したり凍り付いたりして地表に降り注いで、酸素濃度も下がってしまうから、まあ、そのままでは人間など到底生きてはいけないわけだ。


となればスペースコロニー並の人工環境を用意しなきゃならん。で、この屋敷がまさにそれということなのだろう。


そうなると、他にもこれと同じような施設があったとしても行き来も容易ではなく、そもそも人間自体の数も相当減ってしまって、この感じになってしまったということなのかもしれん。


こちらの地球はなかなかにハードモードのようだ。


そんな世界で、あの男と少女はなんでああなってしまったのだろうな。


考えてみれば、あの少女が手足を失ったのも、あの男に切り取られたとかそういう感じではない可能性も出てきたな。


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