外伝・壱拾伍 十一歳の殺人鬼 その2
コンスタンティア・エリントンは、牧場に務める労働者の父と、炭鉱夫の家に生まれた娘である母との間に生まれた少女だった。
彼女の家庭は、一見するとどこにでもあるような平々凡々とした庶民のそれに見えていただろう。だがそれは表向きの姿に過ぎなかった。
彼女の父親が秘めていた悪鬼の如き偏執性がその家庭を支配していることを気付く者はいなかったのだ。それが何よりの不幸であっただろうと思われる。
パッと見は人当たりのいい外面だけを見て人柄を判断することがどれほど危険か、人間はなかなか学ぶことがない。
彼女の父親は、性的なそれも含めた暴力で、妻と娘を支配していた。それによりコンスタンティアは、それこそ物心つくかつかないかの頃には既にその純潔を実の父親によって散らされていたのだった。
それだけではない。
その性的嗜好はおぞましく拗くれて歪み、悪臭さえ放つかのようである。
なにしろ、彼は、女性の首を絞めながらことに及び、相手が苦しむ姿にこそ性的高まりを得るというものだったのだから。
そんな人間に支配されてきたコンスタンティアが真っ当な人間に育つと考えることの方が無理があるのかもしれない。
実の父親の異常な価値観に触れて育った彼女は、僅か十一歳ながら既に悪鬼の貫録を有していたと言えるだろう。
ネズミをビンに詰めて窒息死させることなど、彼女にとっては文字通りの児戯に過ぎない。
だから彼女は目を付けてしまったのだ。
「あれならネズミよりもっと面白そう」
と。
そんな彼女が目を付けたのは、近所に住む六歳の男の子だった。
その子の両親はいつも仕事で帰りが遅く、普段は耳の遠い祖母と二人で両親の帰りを待っていた。
だから、祖母の目を盗んで家に侵入し、男の子の首を絞めて殺すことなど造作もなかった。
普通ならそのような行為にはためらいを持ち、逡巡することで逆に思わぬ失敗をするものだろうが、彼女の行為は、一点の曇りもないほどに迷いなく確実に行われ、僅か数分でことを終わらせてしまったのである。
後に残されたのは、ベッドの上でただ疲れて寝てしまったかのように事切れた幼い男の子と、それにまったく気付くことのなかった祖母だけであった。
そして男の子の死は、夕食の時間が来ても起きてこないことに心配した祖母がたしかめにいったことでようやく判明したのだった。
その突然の死に当然のように警察も捜査に乗り出したが、不可解なことに、現場に不審な痕跡がまるで残っていなかったことで、事件性のない、子供に時折みられる突然死として処理されてしまった。
どうやら、男の子の首を絞めたコンスタンティアの力がまだ弱かったことで、はっきりとした痣などが残らなかったことが、悪い方へと影響したのだと思われる。
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