唸れ! 無限ガトリングガン

『こいつ、力を得ると豹変するタイプだな……』


私の力の一部を得て、それによってガトリングガンを手にした広田ひろたは、先程までのヘタレぶりはどこへやら、「うおおお!」と雄叫びをあげながらホールを埋め尽くした怪物目掛けて銃撃を開始した。


確かに、ガトリングガンの形はしているが本来は私が与えた力が本人のイメージを借りて具現化しているだけなので、<銃弾が尽きることのない無限ガトリングガン>と思えばそうなるのだ。それをこいつは、手にした瞬間になぜか察したらしい。


恐らく、心底それを望んでたんだろう。そしてタイミングよく現れたから、そう思い込んだに違いない。


単純な奴だ。


「喰らえ喰らえ喰らえーっっ!!」


ああ、これはあれだな。ゲームの中のあれだ。こいつの好きなゲームの武器なのだ。しかも意外とこいつ、イメージだけは強いらしく、見た目の派手さを重視したゲーム内での演出通りの威力もしっかり再現されていた。銃弾の雨を受けた怪物は、見る間に弾け飛んで細切れの肉片と化していく。


一発一発がほぼほぼ対物ライフルのそれに等しい威力なのだろう。明らかに生身の人間が機械などの補助もなしで扱えるものを超えているようだ。


だが、大きく重いそれは取り回しは決して良くなかった。背後から襲い掛かる怪物に対しては、反応が遅れる。


「!?」


しかし、蜘蛛に似たその怪物は広田に飛び掛かる前に両断されて床に落ちた。今川だ。


「俺は拳銃よりはこれが得意でね。特に居合についちゃ免許皆伝なんだよ。まさかこんな風に怪物相手にそれを披露するとは思わなかったがな」


そう言った奴の顔は、どこか楽しげだった。


「それはそれは。なら、向こうじゃ発揮しきれなかった特技を、存分に振るうがいい」


と声を掛けた私の背後で、


「私の鞭は痛いよ! 味わいたい奴はかかっておいで!!」


などと、怪物共を、棘の付いた、しかも表面がヤスリ状になった鞭で打ちのめしつつ声を上げたのは、赤島出姫織あかしまできおりだった。なるほど見たままのドSキャラだったか。


「……!!」


一方、竜の首と化した自分の両腕を振るい、右の竜の首からは火炎、左の竜の首からは冷気のブレスを放ち怪物共を薙ぎ払っていたのが新伊崎千晶だった。だが意外とこいつはさっきからやけに無口で、ただ黙々と攻撃を行っていた。まあ、喋る余裕がないだけのようではあるが。


大きな威力で一度にたくさんの怪物を倒せるがその分だけ隙も多い広田と新伊崎千晶を、小回りの効く武器でカバーする今川と赤島出姫織という組み合わせが自然とでき上がっていた。これはいい。


私は肉弾戦だ。飛び掛かる怪物共に容赦ない拳と蹴りを食らわしてやり、叩きのめす。一度に飛び掛かってくれば体を回転させ、髪の剣で薙ぎ払う。


しかしやはり一番張り切っていたのは広田だった。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉーっっ!!」


雄叫びを上げながら無限ガトリングガンだけで片付ける勢いで蹴散らしていく。その様子に今川も苦笑いを浮かべていた。


「まったく、普段もこれくらい働いてくれりゃな」


誰に聞かせようというのでもない独り言が、私の耳には届いていた。だがまあ、その気持ちも分かる気がするな。この変貌ぶりを見れば。


ただ、私は別のことにも気付いていた。それが悪い方に働かなければいいがなとも思ったが、私にとってはどうでもいいことか。


などと考えているうちにも、ホールにいた怪物共は綺麗さっぱり片付いていたのだった。


いや、『綺麗』と言うにはいささか酷い有様かもしれんが。何しろ血の海だしな。実体があるタイプの怪物共ばっかりだったから当然こうなる。


それでも一応は一息つける状況にはなった訳で、私達は集まって次の出方を窺った。が、反応がない。そこで取り敢えず周囲に対する警戒は行いつつ背中合わせになり、今のうちに今後の対応を決めることとなった。


「で? お前達の力を封じてるとか言う封印の石とやらはどこにあるのかな?」


私が問うと、赤島出姫織は面倒臭そうに応えた。


「確か、そういうのは学長室で管理してる筈だけど…」


だけど……って、貴様、その程度のことすら把握しとらんのか? どこまでバカなんだ? 頭を抱える私に対して、今川が問い掛けてきた。


「これが俺の夢でないってことを前提にして話すけどよ。お前、月城こよみだよな?」


こいつはこいつで、今それを訊くか? まったく、どいつもこいつも。


「ああそうだ。今は別々だが、元々は私も月城こよみだ。今は日守かもりこよみと名乗っている。だから日守こよみと呼べ」


私の答えに、今川はくくくと笑った。


「なるほどな。お前もこんなデタラメな化物と同類ってことか。おかげで合点がいったよ。化物がらみってことになればそりゃ辻褄も合わなくなるよな。俺がおかしい訳じゃなくて安心した」


そうかそうか。自分が刑事としてポンコツになった訳じゃなかったってことが分かったのがそんなに嬉しいか。そうだ。貴様はまともだよ。おかしいのは貴様の周りだったってことだ。


「で、これからどうすんだ? 日守こよみさんよ。俺としちゃあ、こんな漫画みてえなことに付き合ってる暇はないんで、向こうに帰してもらいたいんだがな。心配しなくてもお前らのことにはもう構わんよ。俺は刑事だ。法律で裁ける奴らしか相手にできないからな」


さすがにこんなことに巻き込まれては分をわきまえてるだけに物分かりもよくて助かるが、残念ながらそれはちょっと無理そうだ。


「そうしてやりたいのはやまやまだが、さっきのクローゼットを通り抜けた時の感じからすると、ここは貴様らの地球からはざっと二千万光年ほど離れた惑星だな。私だけならすぐに戻れるが、お前達人間も一緒となると少し事情が違う。専用の通路を作らないとお前達の体ではこれほどの空間跳躍には耐えられん。私自身、この肉体のままじゃ帰れん距離だ。通路を使わず帰るとなれば捨てていくことになるな」


私の言葉にやれやれと今川が頭を振る。私の言ってることが理解できるのだろう諦観してるのが伝わってきた。


「つまり、その通路とやらをここの連中に開けさせないと俺達は帰れないってことだな?」


「ご名答。そういうことだ。私が通路を作るにも多少の準備はいるから、どっちにしてもその間は帰れん」


すると広田が「ええ~っ!」っと情けない声を上げた。


「無断欠勤とか、勘弁してくださいよ…」


さっきはノリノリだったくせに、何を言ってるのやら。ま、確かにそれも一理ある。だから私は、力のみ空間を超えて地球に干渉し、私達がいた例の部屋に、こいつらの<影>を作った。それは、記憶と意識と実体を持った影だ。人間では見抜くことはできん。また、影自身、自分が影であることを気付くこともない。本人がいない間、十分に代りをしてくれるだろう。取り敢えず解散し、仕事や家に戻るように意識を操作しておいた。


「心配要らん。お前らの影武者を用意してやった。留守中はそいつらがよろしくやってくれる」


私がそう言うと、今川がヒュ~ッと唇を鳴らした。


「そんなこともできるのかよ。便利だな」


「ふん。おだてても小便くらいしか出んぞ」


私の軽口に広田が頬を染め、今川と赤島出姫織は苦笑いを浮かべた。新伊崎千晶は無表情で睨み付けてくるだけだ。


それには構わず、私自身については、折角だからまたもう一人の私を作った。別にいつものことだ。ショ=クォ=ヨ=ムイのような存在が他にいてもおかしくないくらい何度もやってることだからな。これで、最悪、今のこの肉体を捨てて向こうに戻っても私には何の問題もない。こいつらも、影がちゃんと人間としての人生を送ってくれるから、もしここで死んでも誰も困らんぞ。とは、敢えて言わなかったがな。


だが、今はこっちで生き延びることが先決だ。お前達としては。


「仕方ない。まずはその学長室とやらに案内しろ。貴様らもとっとと終わらせて帰りたいだろう? こちらから打って出る」


と、赤島出姫織に向かって言った時、ホールの出入り口が開き更に怪物共がわらわらと雪崩れ込んできた。


「なんだ、他に出し物はないのか? いい加減、飽きるぞ」


私は少々げんなりとしていたが、逆に広田はまたテンションを上げてガトリングガンをぶっ放していたのだった。


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