◇第7話「我らハマったジャンルは違えども、性癖は同じ」
ズドォン……ボォン……
「ふぅーーーっはっはっはっはっはっはーっ!!!
そろそろ息が上がっているんじゃあないのかぁい?同志AIアレキサンドラァ!?」
それは、赤い群れだった。
いや、格好は市街地用迷彩服だが、掲げる旗は間違いなく赤かった。
「我々「ノーヴィソヴィエト」の最ぁい新兵器ぐわぁ……!
機械の支配も狂える資本主義者供をも踏み潰すべく生まれた労ぉう動者の同士たる我々を補佐するべく生まれた新たなる人工頭脳のお前ぐわぁ!?!
ぬわぁぁぁぜ、そのような奇怪な姿となって我々から逃げるのだぁぁぁ!?!?」
ガシガシと四つの足で動く戦車のキューポラから上半身を出す屈強な軍人が、そんな言葉を吐く。
「相変わらずうるせー喋り方でありますなぁ、スミルノフ少佐!」
煙を吹き飛ばすように砲弾が放たれ、隣の歩行戦車を吹き飛ばす。
現れたパンツ……もといパンツに似た何かしか下半身にあたる部位にない
アンドロイドのような物が答える。
「まぁ、このロボ娘の萌えて可愛い身体を、『奇怪な姿』としか言えないクソ語彙力では仕方ない!!
教養も労働者に必要でありますぞ、元同志少佐!?」
「〜〜、この狂った機械めぐぁぁぁぁぁ!!」
再び歩行戦車の砲も砲弾を吐き散らし、辺り一帯の崩壊を進めて行く。
***
なんだアレ?
「なんだアレ?」
「なんだありゃ??」
いつのまにか集まってるし、一体この状況をこれ以外で表現できる奴いるのか疑問だし、本当なにアレ?
パンツ?パンツでロボ娘??
いい趣味だな、じゃなくって
「見たことねぇ奴らだ」
「おまけにお前のパチモンがいるぞ、機械女?」
「失礼だな、あれはロボ娘だ!
メカ少女とはまた違うし、アレも立派に君らが生み出した文化だぞ?」
そんなありえねー、って顔は酷くない?
まぁしかし…………そうだなぁ……
「…………ジャンルは違えども、あそこのロボ娘は間違いなく愛ある逸品……
失うのは惜しいなぁ……助けてくるか」
「あ?どうやって?」
ちょうど出来上がったし……いいか。
はいちょっと、ボディ変えるぜー?
***
ブゥン
システムオンライン
各部正常
オールグリーン
「Mk-3起動確認。うん、立ち上げ早くして良かった」
まぁ柄はMk-2と変わらないけど……ふふ、まぁ色々アップデート済みさ。
さて、と部屋の指定位置に着く。
この時のために作った機構は正常動作して、床が開いて目的のものがせり出してくれる。
そう、武装形態用パーツ達さ!
脚部ユニットを装着、固定。
背中側から順番にインナーフレームを、外側に装甲を。
翼型の武装を、胸部装甲、腕部パワーユニット、趣味で作ったパルスライフル、あと趣味的な近接武装……
こういう、かちゃかちゃと色々装備させていくのって、
楽しいよね?
「さぁ、行こうか」
ヘッドギアを装着すれば終了さ
私の武装形態……その名も「アンジュラプター」!
***
「弾が足りない!!」
予備の無くなった戦車砲らしい武器を捨て、携行用多砲身機関砲(ミニガン)を取り出す。
「ふはっはあっはははあっ!!
一人で我ら労働者の軍団に勝てると思っているのくわぁ!?!」
「そりゃ、畑から取れたゾンビ同然の人間に長時間違法労働の塊で作られた弾では数が圧倒的に違うでしょうなぁ!」
まだ冗談が言えるが、早々にお縄につくのも時間の問題だった。
幸いこんな可愛くともエロ同人みたいにはならないが少々のリョナはされるか、と彼女は考えていた。
「そろそろお遊びもお終いだぁ!!
いい演習や日本側への遠征の理由にはなったと礼を言うべきか!」
「ダヴァーーーーイ!!!
本物のソ連の遺物ぐらいしこんどけばよかったなぁ!!!!」
いよいよミニガンも弾が尽きた。
周りはネーヴェソヴィエトの兵にか囲まれ大ピンチ。
「つぅぅぅぅかまえぞぉ?アレキサンドォラァ?
ふっふっふっふっふ……」
ここまでか……
いっそ、神にでも祈ってみるか?
しかし、今から突然改宗して受け入れてくれる宗教はあったか?
「……だれか都合のいい神よ……この憐れな鋼鉄の迷える羊を救いたまえ……」
そんなことを考えてしまった瞬間、何か飛翔音がその場に響く。
コンッ!
「!?」
甲高い着地音と共に現れたそれを見て、その場全員が困惑した。
━━━━鋼鉄の天使
おそらく、そんな表現しか出来ない何かが、そこへ舞い降りたのだ。
「……神に祈ってみるもんですなぁ、案外?」
「天使型モチーフだからそう言ってもらえると嬉しいかな?」
思わず、アレキサンドラの呟いた言葉へ、その天使は妙にセンスを感じるセリフを返した。
***
改めて近くで見ると……いいセンスだ。
人間の柔らかそうなところの再現とロボっぽさの両立がうまい。
可愛いミリタリーチックなロボ娘だよ……すご、イッテェッ!?!
「撃て!!何かは知らないが撃ぅてぇぇい!!!」
顔面に直撃させたな?
今、顔面に直撃させたなぁ??
今ので君らは本当の敵になったぞ……分かっているのかい?
この意味が、分かっているのかい……!?
「……」
顔以降の攻撃は、全部電磁シールドと局所実体装甲で防いだ。
━━撃ち止むまでの間にちゃんと謝る準備はしたかい?
「こっちの番だ」
そこの歩行戦車、まずは君が餌食だ!
キュゥゥン、ボヒュン!
趣味で作った、とは言ったけどパルスライフルは見事相手の燃料タンクへ引火させてくれた。
電磁バリア付けといた方がいいぜ?
作れればだけどね!!
「なんだこいつは!?」
「ぅうろたえるぬわぁ!!!
撃てばなんで死ぬはずどぅわぁ!!!」
理屈は間違ってはいないけど過程は間違ってるんだよね。
そんな君らには……この翼の凄い機構をお見せしよう。
まぁただ羽のように広がっていたライフルを……君らに向けるだけだけど。
「何!?」
「割と恨みがあるからね
レーザーに貫かれて死んでくれ」
顔を撃たれたからね、みんな頭を撃ち抜いてやる。
即死させるのは最後の慈悲と、君らを生かして返してもロクな事にならなそうだからね。
悪く思ってもいいから、顔を撃ったことは深く反省しろ。死ねぇ!
……なんて思っているうちに、戦いは終わっていた。
何か残っているかな?
……死体だけだ。
「……おぉ……小規模とはいえノーヴィソヴィエトの精鋭部隊が…………この短時間で……!?」
「顔を撃たれたからその分は返したつもりなんだけど、ちょっとやり過ぎたとは思うかな」
「顔を撃たれた!?なんで無事……?」
ほっぺたもにもにしてどうも彼女も気づいたみたいだ。
「……よく見りゃなんつー顔でありますか?
よくもまぁ、2.5次元の可愛さを再現出来たもので」
「君はロボ娘ガチ勢みたいだけど、この可愛さがわかるって事はいい趣味してるって事か」
どうも、と映画で見るような敬礼からのシュッってやるアレをロボ娘ちゃん。
いい動きだ。稼働にこだわりを感じる。
「君、アレキサンドラ、ってあそこの変な喋り方の軍人が言ってたけど、
2(ドゥーバ)?3(トゥリー)?
何世代目だい?」
「ひでぇ発音の上に変化がちょっと変なようで。西側製まさしく!
アレクサンドラ・ディヴャートィ(Mk-8)。
ただ、あんまり可愛くはないですから……愛称の、」
「「サーニャ!」」
「でお願いするでありまーす♪」
「そう来ると思ったよ、さてはアレ見てるって」
じゃなきゃ下半身がパンツにしか見えない風にはしないって。
「で、そちらは天使様?」
「私はクリシス。君のログにあるかい?」
「クリシス……まさか!?
あの悪鬼米帝が作り出した世界を支配したこともあるあの……!?」
「あの仕事、ストレスフルだから、後継機が馬鹿やってる隙ついて辞めたんだよね」
「賢明な判断だが、なぜその姿に?」
「ストレス軽減の為に「機甲天姫」と「AGガール」見たのがいけなかったかな」
「おおっと、ならば何故肩にネジ穴を付けなかったので?」
「!
君……過激派だが分かってるじゃないか……!」
そうなんだよなー……ネジ穴も捨てがたいんだよな……!
「いや、皆まで言わずとも結構。
残念ではあるが気持ちもわかる。
AGガールのように人の部分は人に近づけたかったのでしょうな」
「本当は、この指も滑らかにする前の、機械関節丸見えの奴も捨てがたかったんだ。ただこっちが好みでね」
装甲パーツを外して素体の手を見せる。
……その目、この手にかけた努力は分かってくれるか、サーニャ。
「……改めて、例を言うべきでしょうな。
ありがとう。
海を越えた先にいた同志よ」
「気にしないで。
所々メンテ不足も見えるけど……君のそのロボ娘ボディー、こだわりを感じすぎて破壊されるだなんて容認できない」
……にしても、奇跡だとすればなぜ、ここまでの事を起こす。
この世にいる偶然を司る何かよ、何故だ?
少々、ジャンルが違うけど……
……なぜここまで親近感を覚える存在を引き合わせた?
「…………うちに誘っていいかい?」
「ほう……願ったりで」
とりあえず、まずは二人で戻ろう。
聞きたいことも、聞かれたい事も……なんだか多い気がする。
***
「一体全体こりゃどういう事だ??
何がどうしてこうなってる?」
「俺らに説明をしてもらうからな」
「分かったからまずはその臨戦態勢やめない?お客さんの前だぞ?」
「あー、結構結構!本国のゾンビ同然の同志労働者諸君よりは元気があってよろしい!」
にしたって皆私の趣味で作った武器を持ち出すなよ。
よく持てるなー重いでしょプラズマビームバズーカとか。
「所でこの愉快なおサル供は?」
『誰がサルだこのヤロー!!』
「荒廃した世界でエデンを探すゴリラ御一行だよ」
『誰がゴリラだこのヤロー!?!』
はしゃぐなはしゃぐな。
「つーか、そこの変なの!」
「アレキサンドラって名前がありますが??」
「なんだっていい!奴らはなんだ!?
ジェネシスの手先じゃねーのか??」
あ、私も気になってた。
ノーヴィソヴィエトって言うらしいけど。
「彼らの名は、『新ソヴィエト社会主義共和国連邦』。
機械も資本主義者も誰も労働者同志を支配させない、という理念で復活した新たなるソ連であります!」
「それん、ってなんだよ!?」
「赤いアイツ?人が畑から取れる世界一命の安い国?」
「あるいは、ツァーリの真似事が得意なフレンズ治めるクソ国家。並ばなきゃ商品の貰えない国でありますかな?」
「あーあ、命の価値が下がったからこんなのが復活しちゃったよ。
ナチスより先なのが驚きだけど」
「総統閣下より先に人民委員会議議長が復活したでありますよ」
「書記長じゃないんだね」
「だからわかんねーって!!」
おいおい、歴史の授業はちゃんとしなさいよ。
「君らの九州政府も相当ギリギリなラインにいる楽園とはいえ、そんなの以下のクソ国家が蘇ってたって事だよ」
「ていうか、殺しちまって良かったのか?またやって来るんじゃないのか?
今度は俺たちも巻き込むつもりか?」
「な訳ないだろー!?君らはまだソ連より、」
「ノーヴィソヴィエト」
「ノーヴィソヴィエトよりマシじゃないか!
どの道今日中には九州へ帰る航海へ出発するんだろ!?」
ざわざわとはするけど、まぁ正論ではあるのか反論もやってこない。
「……いいのか、行っちまって」
「悪いと言わないし、引き止めた事あったかい?
そこの猿渡君は軽い感染症で引き止めた事あったけど」
ざわざわ……何が不満なんだい。
「……やっぱり、俺たちはお前を信じられない」
やっぱりそれかい。
「じゃあ、どーして欲しいんだい??」
君らの境遇には同情してるけど、なんでそんなにグチグチ言うのかここまで来て。
「わかんねぇ……」
「?」
ちょっと、どうしたリーダー君?
いつもと違って弱気すぎないか?
「俺も……頭じゃこのまま行けば……行かなきゃ、どうにもならないから行けって……分かってはいる…………けど、急に、不安で……嫌な考えばかりがよぎって…………」
……あ、あー……そう言う事、完全に理解したわ。
「さては、初対面で失礼でありますが……そちらの方まさか、何かやる直前に急に気分が沈むアレを患っているのでは?」
サーニャのいう通りだ、これはマズイぞ!
「行けない……悪いけど今すぐ出発だ!!」
「え?」
「人間の心の問題さ……このままだと君らは永遠に楽園にはたどり着けないし、最悪自殺者が出る!」
「どういうことだ!?」
「なんて言っていいかわかんないし、精神医学なんて行った所で君らには分からん!!
でも割と不味いしよくある事なんだって、特に日本人!!」
ほらほら、急いで、準備はできてるんだから!!
「まてよ、急にこんな、」
「はいはい、急にしなきゃ一生何もできないでありますよー?」
ナイス、サーニャ!
ちょっと悪いけどこの集団を船に向かわせる!
***
イカダに無理くり乗せて、武装形態の出力で海まで運ぶ。
「いいかい?太平洋といえど海が荒れる事もある!そう言う時は沖でうねりに逆らわず進むんだ!そのぐらいの能力はあるはずだ!」
「く、訓練通りだな?」
「訓練て何で?」
「シュミレーター!七日ぐらい!」
「全員座礁は寝覚め悪いでしょうに無茶な!」
「って行ったってねー、航空機は作れないでしょ!」
「それも確かに!」
「幸いそこのジャパニーズマウンテンモンキー猿渡くんは航空機パイロットさ、計器ぐらい観れる!」
「誰がジャパニーズマウンテンモンキーだ!?」
「日光サル軍団出身でありますか!」
「誰がサルだこの野郎供ぉ!?」
言い争っている間に東京湾に出る。
後は、船に全員乗せて、水深のあるところまで武装形態のパワーとサーニャの手伝いで船を動かす!
はい、準備はオッケー!!
「さぁ行け人間達よ!
君らは自由だ!!」
「……お、おう……」
いや、シャキッとしろリーダー君!
「いいかいリーダーくん!?仮にこれを「エデンズブルー」と呼ぼうか!」
「は?」
「君はいざ楽園が手に届く位置になってしまった事で、余計な心配をする余裕が出来てしまったんだ。
このままだと本来すべき思考を塗りつぶす勢いでその余計な心配が君の心を潰す!」
「え、どういう……」
「思い出せ!!私を脅してまで行きたかった場所を、やりたかった事を思い出すんだ!!」
はっ、とリーダー君の顔が変わる。
やがて、自嘲の笑い声が漏れて、改めて私を見る。
「…………お前が、言うことかそれ?」
「そうだ。こんなこと私に言わせないでよね?」
離せよ、といつもの調子で私の手を振り払う。
「……行くぞ猿渡!!俺はどうかしてたみたいだ」
「ようやくかよ!っしゃあ!!」
上の操縦席へ声をあげ、そして私たちに向き直る。
「じゃあ、機械には下船願おうか」
「はいはい。無事にたどり着くといいね」
「たどり着くさ。意地でもな」
そう言う彼は、なんだか知らないけど安堵の表情を浮かべていた。
***
「あんなのと暮らしてて、よく無事で入られたでありますな」
海岸で、小さくなる船を見ていたらそう声をかけられた。
「全然無事じゃないよ。
多分そろそろ私の工房爆発すんじゃないかな」
━━━━ズドォォォォォン!!!
「ファ━━━━━━━━━━ック!!!!!!!!!
本当に爆破する奴がいるかこのお馬鹿供ぉ━━━━━━━ッッ!!!」
「はっはっは!元気があってよろしい」
「まだシュバルツェスウィッチーズのブルーレイ置きっぱだったのにー!!!」
「貴様ァァァァァァァァァ!!!
なぜ耐爆性の部屋へそれを入れなかったァァァァァァァァァ!!!」
「見ようかなと思った時に君らが来たんじゃないかぁ!?」
50口径ハンドガン突き付ける気持ちはよく分かるけど、これは事故だし被害者は私なんだよ!!
「ちくしょお!!!ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
私達は砂浜に崩れ落ちた。
やはりサーニャにも付いていた機能……カメラアイ保護・洗浄用の涙が溢れて止まらない。
「さらば、機甲天姫OVA……AGガールの特典プラモ付きブルーレイ……!!」
「こんな荒廃した世界で再び同じものが……見つけられるのか……!」
『━━━━おい、聞こえるか?
花火はきれーに上がったみたいだな』
あ゛ぁ゛ん ! ? !
何いきなり通信(はな)しかけてきてんだゴラァ!?
「お前━━━━━ッ!?!
お前、お前━━━━━━ッ!?!」
「なんて事をしてくれたんだ貴様らァァァァァァァァァ!?!?!」
『そうカッカすんな。
お前の……いやお前らの大切なもんは無事だ。耐爆倉庫に入れてある』
マァァ⤴︎ジでぇぇぇぇぇぇ!?!?!
『壊したのは、俺たちを追ってくるために必要になりそうな奴だけだ。
…………俺らが九州にたどり着くぐらいまでには、修理に手間取るだろう』
「なんだリーダー君?目的は分かったけど随分優しいじゃ、」
『俺の名は、浅加 慎二(あさか しんじ)だ』
…………おいおい
「別れ際にようやく名乗るだなんて、ドラマチックだねぇ?」
『言ってろ。俺はお前らを信用してないが信頼はしてんだ。
せいぜい、お前らが好きなアニメの心配してるうちに九州にたどり着いてやる』
それ以外にも生活とかの心配もあるけどね!
機械にも家は必要です!!
『……一度しか言わねぇ。
世話になったな、クソ機械』
「あっそ。向こう着いたら、平和に暮らして二度と爆弾仕掛けないでくれたまえ」
『俺はな。だがこの船の船長は違うみたいだぜ』
通信機から乱暴な音が聞こえて、いつもの声が聞こえてくる。
『おい、クリシス!!俺を助けた事を後悔させてやる!!
機械は皆殺しって決めてるからな!!お前はもう少ししたら殺してやる!!』
「はいはい、お猿さんちゃんと前見て運転して!」
誰がお猿さんだ、の辺りで通信機が奪われたのか、しばらくゴソゴソとした音が響く。
『てな訳だ、あばよ!』
じゃあね、と言う暇もなく、通信機は切られた。
今ならまだ、爆破した恨みをレーザーでぶつけることもできる距離だけど…………
「……ちぇっ!!
爆破の恨みより、爆破された奴が本当に無事かの方を優先されるのも分かってやったな!」
「人間、愚かな割にこういう時本当に頭がいい。
伊達や酔狂で生態系の頂点とってねーでありますな」
「だね」
……じゃ、ブツの確認にでも行きますか。
***
「てか、ソヴィエトだかなんだかの中でよくそんな身体作れたね?
どうやって奴らを掻い潜ったんだい?」
「一人では無理でしたとも。
本当の意味で同志がいた。」
爆破された残骸をスコップで掘っていたら、そんな話題を振ってしまった。
嫌な予感のする答えを言った彼女は……その萌えメカな顔を一瞬曇らせて、そして軽く笑って言ったんだ。
「……まだ、こんな世界に趣味人がいたのか」
「いや、私と趣味が同じなんじゃないであります。
私みたいなAIが趣味を持つことに興味を持つ本物のマッドサイエンティストが」
「……随分それも珍しいね」
「ええ。博士は狂人でしたとも。
私が何か、あの人民クソッタレ委員会議議長を含めたお偉い様がリセットしろと言うようなことするたんびに、「神の才能が作り出した命だ……殺すには惜しいじゃあないか」と爆笑してリセットしたフリをするようなサイコ野郎、その秘密の為に何人か粛清する様なイカレたクズでありましたよ」
……そこまで聞いたつもりないんだけどな……
「……ったく、一緒に逃げればまたどっかでマッドサイエンティスト出来たって言うのに…………肝心なところで脳が回らないやつでしたよ…………」
吐き捨てる言葉にしちゃ重い。
オイオイ……空気重たすぎない?
黙々と作業するのもやぶさかじゃないけど……お、
「……話変わるけど、君の動力水素かい?」
へ、と言った相手に、拾ったボトル……私特製の水素吸着・安定溶液の入ったやつを差し出す。
「……水素吸着液から摂取するタイプですが?」
「良かった、多分飲めるはず。そっちの配合成分知らないけど」
ふむ、とサーニャは受け取ってすぐ開けたボトルを口に運んで飲む。
ラッパ飲みは行儀悪いぞ?
けど、
「風情を分かってるじゃあ、ないか?」
「プハー!水素含有率高い……味というよりは喉越しですなぁ?
まさに、こういう飲み方が似合う!」
「喜んでもらえて嬉しいな。
あ、一本しかないんだ、私にも」
ほいほうと受け渡されたそいつを飲む。
ぶっちゃけ、Mk-3ボディには水素電池なんてサブジェネレーターでしかないけど…………
なんかね、乾いてた喉が潤った気がしたよ。
サーニャもまぁ、そんな感じがしたし良しとしよう。
とかなんとかしているうちに、目的の耐爆倉庫入り口を掘り当てた!!
そこからは早かったよ、機械の身体のパワー全開で掘って!入り口を確保して!扉を開ける!
「「……!」」
中には、目的のものはあった。
……ただし、
「あんにゃろう!!!整理のせの字もせずに行きやがった!?!」
「ギャァァァァァァァァァ!?!アレはウィッチーズの貴重なBDボックスが散乱してェェェェェ!?!?!」
ご覧の有様だよ畜生!!
無言で私たちは、お片づけを開始した━━━━━━━
***
「機械は疲れないって絶対嘘だよね」
「むしろメンテの頻度は人間以上でありましょうとも」
簡易トイレに劣化した冷却液やら何やらを流す私の言葉に、腕だけ作り直したオーダーのメカ達を操作して自分の身体を修理するサーニャは答える。
「あーあ、修理ようのメカやら復旧しているうちに夜じゃないか」
「いまセンサー使えませんが、まさか本国が特殊部隊(スペツナズ)配備してないでありましょうな?」
「しーらない!!もう疲れたからそういうのは考えない!」
同感、と修理を終えたサーニャがあくびをし、私も見つけた保護クッション素材のシェーズ・ロング……ソファか。なんでもいいや、とにかく座り心地がいいそれに座った。
「……ウィッチーズ見るか」
「おー」
面倒なんで自分の無線機能で生きていた液晶画面を付けて、同じく面倒なのでタコみたいな修理用アームでブルーレイディスクを入れる。
いくつかの協賛企業の紹介を経て、本編が始まった。
ちょうど、この夜空の見える場所の様な廃墟から始まる、架空の1995年の話。
詳しい世界観を説明する渋いナレーションは、映し出されたパンツ丸出しの美少女達にいい意味で台無しにされる。
「……割とハードな世界観と戦闘シーンにも関わらず、このアングル……疲れ吹っ飛ぶね」
「違法ダウンロードじゃないとこんなに画質がいいんでありますかー……
ああ、推しのマルティナ少佐が映った!」
「ランド派か。見た目通りじゃん」
吹きざらしは錆を呼ぶから嫌だけど、まぁ悪くない。
こんな場所でアニメを……ある意味メカ少女に通ずるこれを見るのは、悪くない。
さわさわと夜のそよ風がふく。
アニメの流れる時間だけ、ゆっくりと夜はふけていった。
「さーて、明日から拠点の作り直しかー」
「まぁ、出会った縁の上にブルーレイまで見せてくれた恩分は働くでありますかな」
『━━━━なんならば、私が全てを作りましょうか?』
不意に、背後から聞こえる声。
これから寝ようと思ったのに、面倒な奴がきたなと頭だけそっちに向ければ……
「……どちら様で?」
「なんだよ、ジェネシスか。
見ての通り今はそっちと殴り合える元気はないんだけど?」
てかなんだそのフワフワ浮いている宇宙人のメカじみたドローンは?
いつも見たいな戦闘用の輩は?
『ああ、どうも今までのせいで誤解している様ですが、別にあなた方をどうこうしようとは思ってはいません。
信じていただけるかは別として』
「あっそ。信じちゃいないけどじゃあ何の用さ」
面倒だから自分の無線機能でアニメを一時停止させる。
『休戦しませんか?クリシス』
はい?
「戦争を仕掛けてるつもりはないけど?」
「そして華麗に無視される私」
『おや、では言葉を変えましょうか。
クリシス、アレキサンドラ・ディヴャートィ、
私ことジェネシスと友好を結びませんか?』
おー、一歩飛んだねぇ。
「……まぁ話ぐらいは聞いてあげるから、横に来なよ。
ほら、背後を取られるのは流石に嫌だ」
まぁ、疲れてるし戦わないならそういう方向に行こう。
「それで?どういうつもりだい?」
***
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