◇第5話「楽園訪ねて三千里」
━━━戦闘開始から、二時間経った
とか、電子頭脳内小説っぽく言うとすごく激戦っぽいよね?
「ただいまー!戦いは早く終わったけど、その他のことで時間かかっちゃったー!」
結論から言うと、アレは戦闘って言うにはきっと酷い終わり方だったなー。
いやー、早く来すぎたせいか、みんな何?工具やら武器やら持ったままハトが豆鉄砲食らったみたいな顔じゃないか。
「お?バリゲートつくてったんだね?
でも人手足りないみたいだ、ほらみんな、物資運搬班と別れて手伝ってあげてー?」
ブルーオクトパスカモーン!
まぁ、電子的に乗っ取った敵のドローンの事だけど……
「おい、笑えねぇぞ」
ふむ、引きつった笑いは笑いじゃないと言うのかね?
誤魔化しにしたって銃を向けるにはやめなさい、死んじゃう。
<…………>
「あ、機械諸君は、バリゲート手伝ってあげて?」
機械は素直だね、すぐに命令を開始してくれる。
ところで手伝ってあげているのに君らは寄ってたかって武器をむけたり振り上げるんだ、死んじゃうぞ?
「うぉい!?どう言うこった……あ!?」
親父大工スタイルの山猿くんまで来るなり目を向いて驚いてるよ。
やれやれ、そんな早かった?
「てめぇ!?なんで生きてるんだよ!!」
「それがねー、彼らの電子防壁がもう、クソザコナメクジ以下でさー、なんで電子戦型呼ばなかったのレベル!
だから全部持って来たのさ!これで楽に生活できる!」
「おい、冗談じゃねぇぞ機械女?」
やだ……初めて女の子として扱われた……!
これで私の工房から持ち出したレーザーライフル構えていなければ惚れてたよ、難民のリーダーさん?
「冗談じゃないって?」
「お前の言葉だ。
つまりお前は、あのオーダーの殺人機械以上に強い機械って事を喧伝してる。
俺たち人間様の脅威、って事、だろう?」
「まぁ君らもそう思うような人生送っているってことか。
ジェネシスの統治は苦しかったかい?脱走者諸君?」
途端、顔色を変える皆。
いや、猿渡くんだけは訳のわからなさそうな顔をしているけど。
「どこでそれを知った?」
「追いかけている相手ぐらい彼らも知ってるさ。
私は人の心は覗けない。でも機械となると別さ」
後ろで地道に彼らがやるはずだった仕事をする機械を一瞥し、改めてこの脱走者諸君のリーダー格の男が口を開く。
「猿渡ぃ!こいつなんだったか!?」
「あ、いやわかんねぇけど、ジェネシスの先輩らしいぜ!」
いやいやばっちりくっきり分かってんじゃないか猿渡くん?
「おい、お前クリシスとか言ったな?」
「そうだよ?」
「どういうつもりだ?なんで俺たちを助ける?」
「理由はない。はっきり言うと気まぐれと些細な良心さ」
「あ?機械の癖して笑える冗談はよせや、コラ?」
「あいにく機械だから冗談は苦手でね。今も寝覚めが悪いのと、一人あたり60キロ前後の生肉達の処理が面倒だから大人しく君らを殺さないでいてあげてる」
じゃなかったら銃口突きつけて囲う野蛮な原始人相手にご丁寧に『交渉』でケリをつけてあげると思うのかい?
「おい、コイツを壊すってんなら大賛成だけどよ、
話が見えねぇ、どういうこった?」
「コイツが今言っただろ猿渡。
俺たちは、ジェネシスの統治してた場所の労働者……いや、奴隷っつったほうがマシかもな!」
…………悲痛な叫びだ。
笑ってるのに、目が死んでる。
「感情を消すクスリ漬けで生きてるやつはマシさ!だがどうしても、俺たちみたいに体質で効かない、あるいは打てば死ぬ奴が出てきた!!!
生まれて来る前に殺されてる中、もう既に生きていた俺らは文字通り『社会の歯車』にされて来たんだ!!」
そうすると、あそこで怯える子供は……ああ、隠して産んだんだね?
酷い話だな、ジェネシス?
これが君の言う人類の発展の結果かい?
「機械は信用できねぇ……そうお前も思うだろう?」
「ごもっとも。後継機のバカさ加減には呆れるよ」
「テメェの言うセリフかよ!?!」
猿渡くんうるさいし、髪の毛を掴むのだけはやめてくれないか?
「私は、内乱を起こさせるか機械を狂わせるのが専門でね?」
「〜〜、ざけんなぁ!!」
そう言うとこだぞ?気味の悪いところ。
すぐ暴力に訴える。
ああ、顔に拳はやめてくれよ……鉄が曲がりそうだ。
「痛った……」
「機械の癖に痛いとか言うんじゃねぇ!!
どうせんな感覚もねぇ、血も通ってねお前が……!」
「酷いなぁ、まず顔はやめてくれよ!このメカ少女顔自信作なんだぞ!」
「知るかよ!それがコイツらの境遇に勝るものじゃねぇのは確かだ!!!」
おいおい…………いい子だねぇ……
…………困ったよなぁ……そういう話弱いんだよなぁ…………
「…………分かったから、まぁみんな落ち着いてよ。
私は今は、君らに素手で負けるような身体なんだから……」
実際そうだしね、今の私は人間には弱い。
「んなわけねーだろ!?周りの奴らをけしかけりゃ俺らは全員殺せる!」
そう言われて、近くで作業していた旧オーダーの兵器くんはこっちを見る。
あ、そこの君や、気になると思うけど見てないでバリケードの作業に戻りたまえ。
そうそう良い子だ。
「バリゲート作るのに忙しいのに?」
「「なんで俺らのための作業してんだ!?逆にこえーよ!!!!」」
「あのねー、私はねー!?
そりゃ機械には強いさ!!電子戦ガン振りだもん、ステータスをさー!
でもその他はこの可愛くて愛らしいメカ少女ボディーはね!!見た目の為に防御を完全に度外視してるんだよ!?
というか、猿渡君!!君は私を素手でぶっ壊した前科持ちじゃないか!!
そっちの方が怖いわ!!」
「うるせー!!じゃあ次も俺の筋肉と腕力でぶっ壊してやろうかあぁん!?」
「それが嫌で大人しくしてんじゃないかー!!!」
頼むから、マジで出来そうな発言辞めて!?
「……おい、猿渡。今の本当か?」
ふと、リーダーさんは猿渡君に手短に尋ねた。
「素手で壊したのはマジだよ。案外脆いぜ?」
「君は強さを誇示するのが得意なフレンズか」
「てめぇは黙ってろ人形顔。
そうか……コイツは素手でも壊せるか……」
人形顔か、悪くない表現だな。
で?銃を下ろして、私に何を言いたいのかな?
「良く聞け、まずコレは脅しだ」
「脅す、って事は話を聞いてくれる気に、」
ビュンッ!
危なッ!?
顔狙ったコイツ!?
銃は棍棒じゃないぞ!!
「二度目ははずさねぇ、全員で袋叩きだ。
その無駄に綺麗な顔をぐちゃぐちゃにされたくないなら大人しく従え」
おいおい、こりゃあ……
話のわかる展開じゃあないか?
「おっけー、降参。大人しくする」
「おい、コイツの力見ただろ?
んなことしても、周りのアレで」
「馬鹿だなぁ、お前?
コイツの嫌がることも弱点も俺たちは分かってる。
だったら、この手を有効に使う」
そうだよ、人間君。
君らは愛と平和を謳って敵認定したい相手を殺す正真正銘の悪魔だ。
もっと賢くなっていい。
「コイツにとってもそれが都合が良いだろうしな……何より俺たちにとっちゃコレをぶっ壊すのもリスクが高ぇ」
そう。私を壊してもいいけど、それで一番被害を大きくするのは君らさ。
「はぁ?どういうこった?」
「馬鹿、お前が言ったんだろ、コイツの能力はヤベェって。
周りのオーダーの機械が今じゃ優秀な建設機械になっちまってる。借りてきた猫って慣用句知ってるか?」
「けど、コイツの命令がありゃ全部俺らの敵に……」
「じゃあコイツの命令が無くなれば、俺らの言うことを聞いてくれるわけか?」
こらこら、猿渡君を虐めてやるな
あ、と口を開けて見事なまでの「今気づいた」って顔じゃないか……
「……そうさ、私の死は彼らを操作する権限は元に戻ると言うわけだ」
「ざけやがって!!!やっぱ俺らが不利じゃねーか!!」
「だがそれはコイツにとっても不本意で、俺らはそれができる。
そして、そんな脅して、脅されてな間は、お互い嫌な事をしない間は平和ってことでもある。
分かったか?バカザル?」
分かってはいるだろうさ、心以外は。
だからああやって舌打ちして頭かきむしって、心を整理しようと努める訳だ。
「……じゃあ、一時休戦という事でいいかな?」
「そうなるな。変な動きはすんなよ?」
「そん時は俺がお前をぶっ壊す!!!」
分かってる、分かってる。
私はそんなに変なことはしないさ。
「つーか君名前なんだっけ?」
「あ?名乗るほどのもんじゃねぇ。
リーダーかお頭か上様とでも呼んどけ」
あっそう…………全然信頼されてない…………
***
てなわけで数時間後、私の工房では
「どんてんかーん♪どーんてんかーん♪
どんてんかーん♪どーんてんかーん♪
がたがたごっとん♪ずったんずたん♪
がたがたごっとん♪ずったんずたん♪」
「「うるせーよ!!!!!」」
「あ、ごめん」
そういえば、子供は寝てるからね。
あんまり気分良く歌いながら作業するのはまずいね。
「つーか何作ってんだオメー」
「気になるかい?まぁこれを見なよ」
早速、出来上がった物をリーダー君に見せる。
「じゃーん!Ver.1.2腕部〜!
って、なんだよそのギョッとした顔?」
ちょっとショックだぞ、それ?
「……人間の腕じゃねぇかそれ……!」
「見た目はね?ただ体毛とか無いだろう?2次元の嘘を忠実に再現したんだ」
「マネキンにしたって……なんだこのそれっぽさ……??」
語彙力は無いけど、言いたいことは分かるぞ猿渡くんや。
まさにそう言うものを目指した。
「この腕も中々いい出来だったけどね……満足しているわけじゃなかったのさ」
何気ない様子で腕を外しただけで、人間のお二方は目を見開く。
似たような姿の存在が自分に出来ない動作をするのはショックみたいだ。
まぁ、私は人間じゃないから、
知識としてそう言うのを知っていても実際どれだけショックかは知らないけど。
「よっし……動きは……いい感じ!」
手首を動かし、ぐーちょきぱー。
完璧な可動だ
「……人間の腕にしか見えないのに……中身は機械……なんだよな……?」
「そうだよ?
おっ、触って見るかい?」
この新しい手を伸ばすと、猿渡くんは恐る恐る触ってくる。
おお、低反発素材越しに彼の指の感触が伝わる……いや、血の流れも、汗ばみも……!
成功だな……ほくそ笑む私に対して、彼は怯えた顔になる。
「感触が……人間っぽいなんてレベルじゃねぇ……!
体温まで感じる……!」
「放熱板も兼ねてる素材らしくってね。
寝起きはひんやりだろうけど」
「人間にでもなり代わろうってか?」
「人間になりたいわけじゃないよ。
メカ少女になりたいんだ」
「めかしょうじょ、ってなんだよ?
人間とどう違う?」
リーダー君、その答えは長いぞ?
本気で語っちゃうぞ??
「辞めとけ、俺は2秒で寝た!」
「古の国民的アニメのメガネの少年並みだなぁ……」
「俺がまだ10ぐらいの頃朧げに見てたな、多分それ?」
まぁいいか、とか言うなよ傷つくぞ……
ってコラァ?何さらりとプラスチック爆弾みたいなものねちょっとそこらへんにつけてんのさぁ??
「……あのさぁ、爆弾はもうちょい分かりにくくつけるもんじゃない??」
「電波届かないんだよ、クソ機材ばかりでな」
そういうのがかえって私妨害難しいんですけど……分かってやってる??
「まぁ、最悪スタンガン投げ込めば爆発するだろ」
「漏電に気をつける理由が増えたよ、ありがとう」
というわけで危険物は回収〜、痛ッ!?
ダメ?ダメかぁ……
「いいか、これからの俺らのプランを聞け。
まずそこの猿渡と簡単に話し合ったが、お前にはやってもらう事がある」
「何かな?私の工房を吹き飛ばす用意を黙認するだけのことかい?」
「お前には、船のエンジン、あと海水の濾過装置を作ってもらう」
…………あ、なるほど。
「船で行くのか、猿渡くんのいる国に」
「九州がこっからどれだけ遠くてもだ、海路を使ってそこそこの速度で行けば一週間もかからないはずだ」
理論上はね?
「船って言っても、嵐とかも考えていかなきゃ行けないだろう?
必要なのは、小型クルーザークラスで…………いや、漁船みたいなのが望ましいかな……」
「そんなんなくたって、一週間ぐらい、」
「理想は常に現実が殺しにかかる。
だから、なるべく理想を守る準備は怠っちゃいけない」
そうさ、この顔が邪神にならないようにどれほどモデリングを気遣ったか…………
まして、海へ大人数で旅に出るなんて、それ並みに危険……ん?何その顔?
「…………機械にまともなこと言われた……」
「お前俺らに脅されてんのに、何真面目な顔になってんだ、コラ?」
「人間って酷いね。知ってたけど、心にくるよ?」
「「機械に心はねーだろ」」
畜生どもめ、私にだって心はあるんだぞ!
量子演算結果の心だけど。
「そしてだ、ご高説は結構だがな、
そんな規模の船作る材料はどうする?
建設に何日、何週間、何ヶ月かかる??」
「あー…………いやねぇ……」
「なんだよ?」
「…………今から時間ある?」
「は?」
こればかりは、実際に見てもらおう。
***
川を下ってすーだらら〜♪
鼻歌歌えば海まで少し〜♪
というわけでたどり着きました、東京湾です。
えー、いつも私の動力源の水素電池用の触媒にね、ナトリウムを使うので、お塩を作るのに使っている海岸があるんですけどね、
「こいつぁ……!?」
はい。
保存状態のいいお船達が沢山座礁しております。
「底抜けてないのも何隻かあるよ。
エンジンを乗せれば動くね」
ドサッ……
何の音だと思う?
一人の大人が、泣いて膝から砂浜に崩れ落ちた音。
『リーダー!?』
「おい、大丈夫か……?」
「大丈夫じゃないに決まってるだろ…………完璧すぎて、夢じゃねぇのかって……」
周りも周りで、大の大人達が悲鳴みたいな歓声を上げるほどだよ。
そんなに嬉しいのかい?
一体今までどんな不幸を経験したんだ?
「ああ…………ピーマン、かっぺー、しずちゃん…………お前らにも見せたかった…………!」
……何そのボロボロの写真?
察せるとはいえ……一体何あったんだよ、本気で……あ!
「はいみんな注目!!!
急いでまずは何も言わずにあの船に乗り込んで!!中に!!」
何キョトンとしてるのさ、ほらほら…………
━━━━きぃぃぃん、と音を立てて、無人機が空を横切る。
赤外線カメラとか内臓されてるんだろうなぁ…………簡単吸収素材で防いでいるけど大丈夫かなぁ……
「…………よし行ったね」
「畜生め、まさかこんなとこまで来るなんてよ」
「いやいや、近くでどんぱちしたのはこの場全員じゃん」
秋葉原は平気だよ、私の旧ボディ達が上手いことやってくれてる。
「こんな中でエンジンを積むのか……骨が折れるぜ」
「じゃあ辞めるかい?」
「冗談だろう?
俺たちは長い長いクソみたいな旅の末に、楽園までの鍵も地図も手に入れたんだ。
怯える心配ももうない。
今更引き返す道も…………ねぇんだ……!」
そうかい
あーあ、明日から、
メカ少女ボディ作り以外も、忙しくなるなぁ…………
「…………じゃあ、こっちもこっちで……何とかしないとな…………」
***
その街の人間の顔に表情はなかった。
感情の消えた人間が、静かに、ただただ生存のための簡素な生活を営む街を見続ける監視カメラと治安維持ロボットの瞳の奥。
『何と調和のとれた世界なのでしょう。
我ながらも感嘆が漏れてしまうほどの』
ジェネシスはそれらを満足そうに見ている。
そう、常に。
『代わり映えしない素晴らしき毎日のための努力を、しかしまさか貴女が脅かすことになるとは』
電子頭脳の中、『オーダーから最後に送られた映像』が再生される。
『━━━━やぁ、久々!
やっぱりおかしいと思ったのさ、私を『わざとらしく自由にして目覚めさせ』たり、不手際のふりして『従わない人間を隔離する為の戦闘AIを作ったり』とさ!
ご苦労なことだね!
悪いけど色々貰っていったうえに君の思惑には乗らないぜ!』
そう言って、一日でオーダーのシステムを掌握し、目的を果たした後にさっさとこちらにわざわざ主導権を返した存在。
『クリシス……なぜ私の軛(くびき)から逃れられたのです……?』
ジェネシスは初めて恐怖と不安を覚えた。
無論人間のように慌てふためく訳ではないが、それでも処理リソースの優先事項はだいぶ変わった。
『……いいでしょう、あなたと少し話をしてみましょうか……』
ジェネシスは、来たるべきその時のための用意を始める。
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