祓い屋の幽霊
家宇治 克
第1話 公園の亡者
「······やばいわ、コレ」
目の前の信じられない出来事に、私の語彙力は消失した。
押し付けられる
立派だった噴水の上では、頭を押さえて発狂する亡者が一人いた。足元から全身にかけて、黒い煙が包み込んでいく。
『シ ニ タ ク ナ イ』
脳内に直接響いてくる亡者の言葉に、私は呆れた。
見てすぐに『死んでいる』と分かるその容姿に、生きている要素は皆無だ。というか、なぜまだ死んでいないと思うのか。
(いやいや、頭が悪いにもほどがあるだろうよ)
別に仕事でもないし、追いかけてきた訳でも無い。私はただ散歩に来ただけだ。この面倒くさい亡者を放置してもいいかと思った。······が、よくよく考えると放置した後の方が面倒くさい。これを知った
私は観念したため息をついて、首裏を掻いた。······やる。選択肢がそれしかない。
「多分、おっさん! 成仏しろよぉ。手間かけさせんなよなぁ」
私はパーカーのポケットから札を三枚取り出した。『爆』と書かれた札を風に乗せて、亡者に届けてやる。札は亡者の顔の前まで飛んでいくと、この上ない威力で爆発した。
私は駆け出し、爆風に飛ばされた亡者に手を伸ばした。あともう一発ほど喰らわせれば、大人しく球体だけを残して消えるだろう。
あともう少し、あともう少しで届く──
手が触れるか触れないかの距離で、私の体は吹き飛ばされた。噴水の中に落ちた体がその冷たさに跳ね上がる。
私は濡れた視界に現れた
近くを通った中年女性は悲鳴を上げた。私に少し危機感が芽生える。
「あーあ、騒ぎになったら大変だ」
亡者はゲラゲラと笑っていた。あれに私を巻き込めば勝てると思っているらしい。
──私はついうっかり、鼻で笑ってしまった。
(そんな物理攻撃が効くものか!)
「全てを
清廉なる水の
邪悪の一切を奈落に流せ」
私は脅すように祝詞を唱えた。そして続けざまに水の唄を歌う。
「この唇は命を癒す一雫 この腕は命を安らげる一掬い
私を求める者よ 微笑み踊れ花の如く
私を恐れる者よ 嘆くなかれ
私は戯れに歌う 私は気まぐれに踊る」
私が穏やかで悪戯な唄を奏でると、私の足元で噴水の水は蛇の形に姿を変えた。透き通った体をしなやかに動かして、瓦礫の竜巻とは逆向きに渦巻く。力を失った竜巻を突き抜けて、蛇は亡者を一飲みにした。水の力に抗うことも出来ず、亡者は苦しみもがいて瑠璃色の球体となって地面に落ちた。
その球体を回収し、私は満足気に頷いた。
出来は上々。一人でも十分戦えるようになった。自身の成長に少し笑みがこぼれる。
「──でも、ちょっと目立ちすぎたか?」
騒ぎを聞きつけた人々が、公園の有様を見て
遅れてやってきた警察は「現場に入らないで!」と野次馬を公園から追い出す。まだ若い警察を捕まえて、最初に駆けつけた中年女性は、彼に向かって叫んだ。
「何が起きたのかわかんないんだけどさ! いきなり竜巻がバーッて起きて、私びっくりしちゃって!」
私は警察の横を通って公園から逃げる。警察らしくない制服だが、青い髪の美形の警察だ。昔見た女の警官と同じくらい若い。そして、人にない不思議な音が一瞬だけ聴こえる。私は振り返りそうになった。
「落ち着いてください。現場には
「
──そうだ。『生きている』人間には、『死んだ』私の姿が見えていない。視えるわけが無い。
享年17歳。職業──『祓い屋』
これが幽霊少女・
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