ニセモノの宇宙樹は根を腐らせた

 崩壊するケイ素生物を眺め、アニスは、どうやら巨人が『中枢』を破壊したらしい、と思った。

 そびえ立っていた壁は、すでにその輝きを失い、天から差し込む薄明かりに、貯水タンクの内部が照らされていた。

 アニスのいる場所からは、外の様子は見えなかったのだが……実は、天に向かって伸びる超大型のケイ素生物は、すべてこの『中枢』に繋がっていたのだ。あれは、ここから伸びる八本の肢が、絡まりあって屹立きつりつした姿だった。


 自らがえぐった大穴の中央で、青い巨人が立ち尽くしている。

 すでに霧は噴出してないようだが……落ち着いたのだろうか?

 真っ白に凍りついた氷上をトテトテと歩き、その背に近づく。

 巨人は反応して、アニスの方へと体を向ける。

 さて、どうしたものかと思ったが……結局、自分にできる手段は、これひとつしかない。

 リアクターを差し出すと、巨人は跪いて、首の穴を差し向けてきた。そこに突っ込み、意思を読み取ろうと努力する。

 いくつかのパターンを重ね合わせ、問いかける。

 どうやら、巨人は苦しいらしい。


 ――ぽいずん――


「……どく?」


 アニスの問いかけに、巨人は返事を返さなかった。アニスは必死で背伸びして手を伸ばし、その背をポンポンと叩いてみる。確か、空那はこれで喜んでいたはずだ。

 しばらく叩いていると、巨人は胡坐あぐらをかいて座り込んだ。

 アニスは思う。


(どうやら、自分の行動は多少の緩和になったようだが、根本的解決には至らなかったようだ)


 こちらに上体を傾けた胡座は、大きな身体が窮屈きゅうくつそうで……まるで、そのまま消えてしまいたい訴えるようで。

 これが、自分の適当な判断がもたらした結果だと考えると、なんだか悲しくなってくる。

 アニスは、少し考えた後で……彼に掛かっていたロックを、掛けなおす事にした。

 起こしてしまった謝罪の意を伝え、それから再ロックの了解を得るために問いかけるが……反応がない。

 巨人は、疲れきっているようだった。

 しばらく待った後で、仕方なしに強制的にロックの命令を下す。

 最後に流れたパターンは、おそらく感謝。


 ――ありがと――


 アニスは呟く。


「どういたしまして」


 と言うか、危ないところを救っていただき、こちらこそありがとうなんである!

 だから……ロックを掛けてしまった彼には、それはもう届かないと知っていたけれど。

 アニスは、その場から一歩下がると、ゆっくりと頭を下げて言った。


「ほんとに、ありがとうございました」


 外から流れ込んだ空気中の湿気が凍り、キラキラとダイヤモンドダストの舞い散る中で、アニスの腹からキュルルと音が鳴る。


(しかし、困った。もう、空腹で……今にも、倒れそうだ!)

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