桜の降る頃に。

東雲 彼方

会ったこともないお父さんへ


 拝啓、花吹雪が舞うこのごろ、お元気でしょうか。



 …初めましてなのにお元気でしょうかもおかしいか、初めまして、貴方の娘です。




 桜が舞うこの季節、母は何故か季節感のまるで無い、青いネイルをしてお花見に行きます。お父さんになら分かるのかな?



 そしてとある桜の木の下で母は泣きます。

 以前、「何でここで泣くの?」と尋ねた事があります。母は決まって、

「ここでお母さん転んだから、お父さんここにいると思うの」

 と言います。私はまだ幼いのか、ちょっとよく分かりません。なんで転んだとこで…(笑)






 でも、母から貴方のことをちゃんと聞かされた時、この意味が少し分かったような気がします。

 お母さんは約束をちゃんと守ってるんだね。お父さん幸せじゃん!こんな良い女捕まえて、やるね!


 私もお母さんみたいな強い女の人になって、お父さんみたいなステキな人といつか結婚したいな。







 お母さん再婚とかもしてないんだよ。シングルマザーで、私を高校まで通わせてくれてる。あ、そうそう、お父さんの遺したお金には手をつけてないみたい。




 小さい頃はお父さんもいないし、お母さん仕事ばっかりで正直恨んでた。何で私だけ?って。






 でも、この前17になった時、お母さんが教えてくれました。お父さん、貴方のことを。あの手紙も見せてくれたんだ。





 …今ちょっと何で17で、って思ったでしょ?忘れてない?


 お母さんとお父さんが出会ったの17の時なんでしょ。違う高校だったけど、志望校一緒で同じ塾に通ってたとか。









 …なんなの、リア充め!私は彼氏すらできないわ!それで同じ大学で再会とか、ドラマみたいでちょっと羨ましいよ。












 まぁそんな事はさておき、私は今幸せに暮らしてます。




 一応進路決めたから宣言しておくと、

 私、ネイリストになるよ。



 いつかお母さんに綺麗な青のネイルと桜の花のネイルをしてあげるんだ。

 そしたら青いネイルの秘密を教えてくれるかな?


 給料とかは低いかもしれないけど…それこそお父さんの口座から抜いておくよ(笑)



 …っていうのは嘘だけどね。











 たまにはお母さんのとこに帰ってあげてね。お母さんいっつも泣くの我慢してるから。案外寂しがりだからね。




 この手紙、どこに送っていいか分からなかったから、あの桜の木の下に埋めておくね。


 またいつか、夢が叶ったら同じところに手紙を送りたいと思います。




 そういえば伝え忘れてたけど、お母さんの一番好きな季節は春なんだって。思い出の季節みたい。

 私も春好きだよ、私と同じだしね。




 では、また会う日まで、私(とお母さん)の幸せを願っておくように!ばいばい!


               敬具

         貴方の娘、春より

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