パルクール・サバイバー《カクヨムエディション》

桜崎あかり

第1章

エピソード0《アナザーエピソードログ》


 この物語は、別のアカシックレコードにも記述されていた物に新たな加筆調整を加えた物となる。

どれが真実なのかは分からないが――フィクションなのは変わりないだろう。

過去のARゲームに関して題材にしている関係上、現在のルールと異なる箇所も出てくるかもしれない。

それに加えて――これは可能性の中の一つである事も、ここで付け加えておく。



 西暦2017年1月某日、草加駅より若干離れたビル街、そこではパルクールと思わしきパフォーマンスを行っている人物がいた。

その人物の装備は生身や軽装備という訳でもない。その装備は、まさかの重武装だった。まるで、警備隊を思わせるような物である。

しかし、数キロ走った所で転倒し、そこをネット上で大々的に取り上げられ、ネット上で炎上する事になった。

【新型ゲームか? ロケテスト中に転倒事故】

 ネット上のまとめサイトでは、このような見出しで紹介されたのだが――実は、この時期にロケテストをしているような機種は存在しない事が後に判明する。

そして、この時に行われていたのはARゲームではなく、一種のガジェットを使用したパフォーマンスである事も調査の段階で判明した。

この時に大きく拡散されたARゲームと言う単語は、まさかの形で世に出回る事になり――ネット上のまとめサイト住民は困惑する事になる。

その後、これを取り上げた最初のサイトは別の事件を取り上げた際に炎上し、サイトが閉鎖に追い込まれた。

何故に閉鎖へ追い込まれたのかは――別のまとめ記事がフェイクニュースだったという説もあるが、真相は定かではない。

単純に今回のニュースを取り上げたことで、他の記事がフェイクニュースである事を疑われて連鎖的に閉鎖したという見方もあった。

 実は、この一件に関していた人物――それが後のある人物だと言う事も判明するのだが――それは後ほどに触れられる。

些細なきっかけが、大きな動きを呼ぶ事になったこの一件を、人々はARゲーム元年のきっかけと呼ぶようになったのは――それから数カ月後の事だったと言う。

それより以前にもARゲームはあったのだが、名称が定着していなかった事もあり、新型体感ゲームや新型VRゲーム等と呼ばれていた。

ARゲームと言う名称が固まったのは、実はごく最近だったのである。

その数日後――パルクール・サバイバルトーナメントの告知がネット上で拡散する事になった。



 西暦2017年2月中旬の午後7時45分、西新井某所にある組織の運営するガジェット修復工場。

ここには、いくつかの試作型ガジェットが置かれており、その中には現状では未発表のガジェットも存在した。

半数以上は未組立、あるいは途中まで組んだ物、コンテナに収納されたまま――状態は様々である。

「やっぱり。輸送されていたガジェットが奪われている」

 白衣の男性が他のスタッフと思われる人物の連絡を受け、即座に出撃指示を出そうと考えている所だった。

一部のスタッフは異変に気付いていたようだが、それどころではない状態になろうとしている予兆も見られる。

周囲が慌ただしいのも、その証拠だが――。

「輸送されていた物はランニングガジェットの試作タイプか」

 男性の前に姿を見せた人物、それは部外者とも言えるような黒マントに黒い軍服の外見をした青年だった。

黒い軍服は明らかにこちらに出入りしている人物の着ている物とは規格が違うので、そこは見破れたのだが――。

「君は運営の人間か? それとも――」

 男性の方は、彼の外見を見て運営側の人間と考えていた。しかし、それを思わせる証拠は全くない。

彼以外――その人物が不審者である事にも気づいている人物もいたのだが、通報が遅かったとも言える。



 そして、彼は次の瞬間に黒色の試作型ランニングガジェットの方へと走った。

狙いがガジェットだったとして、何をしようと言うのか? 単純に強奪であれば、ここまで警備を突破した理由も分からない。

何も言わずに走ったという事は――?

「誰か! あの人物を止めろ! ランニングガジェットはARガジェットよりも扱い方は厳重で――」

 男性は叫ぶのだが、周囲に動けるような人物は見当たらない。既に一連の事件で出撃していた為だ。

通報しようとしていた人物も、こちらへ向かえるような位置ではなく、絶体絶命のピンチと言える。

『了解した……』

 他にも男性は言う事があったのだが、次の瞬間に別の声が聞こえた事に驚き、何を言うのか忘れてしまった。

「あの機体は、教習所へ運ぶ予定だったランニングガジェットか」

『ご心配なく。自分は既にランニングガジェット用のライセンスを取得済みです。テストパイロットよりは動かせます』

 暗闇の中から姿を見せたオレンジ色のランニングガジェット――この機体の武装は一切装備されておらず、ガジェットの調整も完了していない。

本来であればCG加工のアーマーが装着される部分にも、アーマーはなく――最低限のセーフティー部分のアーマーだけである。

安全は保障されるかもしれないが、戦闘力が期待できるような状態ではないのは明らかだ。

「君の事を疑う気はないが、その機体をどうするつもりだ?」

『黒マントの人物を止めればよいのですね』

 オレンジ色のガジェットは調整が完ぺきではない為か、動きもスムーズとは言い難い。

その関係もあって、黒マントの操るガジェットよりもスピードは数段劣る。

これは、調整レベルの問題もあるかもしれないが――。

「何だ、このガジェットは。ロボットバトル用の物と違って、操縦も思うように……」

 しかし、黒マントの方はスピードがオレンジ色の方よりも速いのに、動作に慣れていない為かすぐに転倒する。

おそらくは向こうに乗っていたのはライセンス未収得か操縦が未熟なプレイヤーなのか――?

「向こうが自滅をしてくれたか。本来であれば、ランニングガジェットは専用ライセンスを取得し、初めて動かせるものだ」

 男性の一言は、黒マントの人物にある疑問を抱かせるきっかけになった。それは、オレンジ色のガジェットに搭乗している人物についてである。

ロボットを動かすのに免許が必要なのは分かるかもしれないが――ARガジェットはゲーム専用のはずだ。

ゲームをプレイするのにライセンスが必要なのか? プロゲーマーのライセンス制度に関しても議論された事はあるのだが――それを繰り返すのか?



 午後7時50分、数人の構成員が帰還、黒マントの人物は御用となる。その一方で、彼は男性をにらむ事はなかった。

「君は何を目的にして動いている?」

 彼の質問に黒マントは数秒の間を置いてから答えた。

「コンテンツ流通に不満があった。超有名アイドル商法を公認し、それを利用して税金を回収するようなやり方を押し通す政府に……」

 黒マントが話している間に、オレンジ色のガジェットから降りてきたのは、白い提督服を着た男性である。

おそらくコスプレの可能性もあるが――周囲は誰も衣装に疑いを持たない。

「超有名アイドルが地球上の権利を全て独占し、コンテンツ流通を掌握しようと言う理論――まだ、それを事実と言う人物がいるのか」

 そして、機体から降りてきた彼はハンドガン型のガジェットを黒マントに突きつける。

それを見た他のスタッフたちは止めに入るのだが、それを制止したのは男性の方であった。

「まるで、炎上勢力の様な発言をする。それが君の目的なのか?」

 男性は黒マントに対して、その真意を聞こうとするのだが、次の瞬間に銃を天井に向けて撃ったのだ。

「まさか――!?」

 気づいた時には既に遅かった。突如として、周囲のスタッフが持っているガジェットが機能停止、男性の持っていた特殊ガジェットもフリーズをしたのである。

これだけのジャミング技術を持っている黒マントの正体も気になるが――。



 その後、黒マントの姿は消えていた。どうやら、マントにステルス迷彩のような機能が付いていた可能性がある。

「あの人物は、我々の想定している敵と違うのは分かった。この場所を襲撃したという事は、開発されている物を知っているという事」

 小松(こまつ)提督はランニングガジェットの開発者でもある。そして、いくつかの工場等で密かにランニングガジェットの量産も行われており、その現場指揮も担当していた。

しかし、ランニングガジェットは現段階で公表されている物ではなく、その実装も先の話だ。

それなのに、ピンポイントで襲撃してきたのには何か理由があるのだろう。あのガジェットには、どのような機能があったのか?

「このガジェットが作られた理由……そう言う意味か」

 オレンジ色のガジェットを操って見せた人物、彼の名は花江(はなえ)――。

しかし、彼は襲撃の数日後には運営所属の提督を辞職していたのである。その理由は謎に包まれていた。



 パルクール・サバイバー、それはネット上で噂だけが飛び交っている単語でもあった。

そこに所属する提督が超有名アイドルファンに対して魔女狩りとも言えるような行動をしている……というのはネットを炎上させる為の煽りにすぎない。

この段階ではスポーツの一種である事、ロボットを運用するらしいという事しか分からず、運営の存在も確認出来るか怪しい存在だったのは間違いないだろう。

マイナー競技故の宿命――と言うべきなのか、真相は謎のままだ。

ネット上の不確定情報に踊らされ、そこから炎上させる為に炎上請負人や一般ユーザーが目立ちたい為に動くのは、どの世界でも一緒である。

それを動かしている黒幕がまとめブログの管理人と組んだ政府、アイドル投資家等と言う流れも――。

今回の事件をWEB小説の見過ぎとも言う勢力がいるのだが、それを信じるようなネット住民がいるのか――?



 その数日後の2月下旬、数か所で発生した無人ガジェットによる暴走事件は有名アイドルグループによるCDのPR活動が暴走した物――という形で決着する事になった。

この事件を受けた訳ではないのだが、パルクール・サバイバルトーナメントでは数例の危険なアクロバット行為に関して厳重注意をするとともに、新システムを導入すると発表したのである。

「パルクールとの差別化、協会等からの要望もあって、このようなシステムを実装する事にしました」

 動画での記者会見で発表された物、それはパワードスーツを思わせるような新型ガジェットの投入だったのである。

新型ガジェットの存在には賛否両論あるかもしれないが――安全対策は必要だと納得する意見もあった。

「このランニングガジェットを使用すれば、大怪我を起こすような事故を防ぐ事も可能になります。見方によっては、運動未経験者でもパルクールを行う為のプロテクターとも言えるかもしれません」

 会見でガジェットの説明を行っているのは小松提督であり、それ以外の人物が姿を見せる事はない。

こうした会見には社長の様なポジションを持った人物もいるはずだが……発言権がないのだろうか?

「1月には開催告知も行いましたが――それから暴走するようなユーザーは、予想通り出てしまった。それを踏まえての対応です」

 この装備に関しては小松提督の独断と言う訳でもなく、運営側の総意で決まったと明言する。

それをネット上のユーザーが信じるかどうかは別問題だが――。



 この会見後、3月1日にはランニングガジェットを使用する為のライセンスを取る為の施設が西新井を含めた都内数か所でオープンする。今後は50か所以上まで増やす予定だが、今の所は数か所と言う事の様だ。

パルクール・サバイバルトーナメント以外でライセンスが必要なARゲームは少なく、大きな危険が伴う物でない限りはライセンスが必要ない事になっている。

ただし、それもライセンス制度を正式導入と言う事になれば、色々と仕様を変えるのかもしれないが。

【ARガジェット自体、ライセンスが必要らしいが……これも必要なのか?】

【こちらは別々で取る必要性があるようだ。普通車免許とバイク免許の関係か?】

【それでは語弊があるな。ARガジェット自体にライセンスが必要なのは、過去の事件で悪用した犯罪が起きたからだ】

【敢えて言えば、普通免許とロボットの免許位には違う物と言っていい】

【そこまで違うとなると、ランニングガジェットに需要があるのか問題だな】

 ネット上では既に取ったARガジェットの免許を取ればランニングガジェットに乗れるのか……という疑問に対し、さまざまなつぶやきでの回答が流れた。



 しかし、ネット上の不安を払しょくするかのようにライセンス施設には大勢の客が殺到する流れとなった。

元々のパルクール・サバイバルトーナメントをプレイしていた参加者が殺到した訳ではなく、逆に新規勢力が駆け込みした形である。

これに対して、受付時間に余裕を持つ、平日は比較的に空きがある、すぐにパルクール・サバイバルトーナメントへ参加出来る訳ではない等のお知らせを追加し、混雑緩和をしているのだが……。

【新システム導入は3月から開始しているが、スコア集計自体は2月から行われているな】

【一部のプレイヤーがランニングガジェットのトライアルをしていた事による影響か】

【営業の告知自体がされていたのは2月、本格的なCM解禁がされたのが3月1日、ネット上の反応が急上昇したのはCMが放送されて2~3日後の話か】

【どちらにしても、ランキングの現状的に駆け込みをしても……無駄になるかもしれないが】

【ランニングガジェットの場合、使用後はショップ返却必須。そこも解消されれば】

 ランニングガジェットは基本的にレンタル扱いであり、個人所有は出来ない。この辺りは他のガジェットとは大きく異なるようだ。

個人所有は出来ないが、カスタマイズはフリーになっている物も存在し――この辺りはARゲームのジャンルによる所が大きい。



 その一方で、ARゲームのフィールドの裏方で支える人物もいた。

ARリズムゲームの楽曲制作をしている人物、複数のARゲームでガジェットのテストをしている人物、運営側でチートや不正行為等を調査する人物――そうした人物の存在も、ARゲームでは重要な位置にある。

そう言った人間を募集している個所はあると思うが、堂々と告知している訳ではない。

アンテナショップに置かれている端末で募集を調べる事が可能と言う形式で情報公開をしているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます