自分対自分

◆イヤ、イヤ、イヤァァァー!!!◆

それは、まるで黒板でガラスを擦る時のような甲高く不快な奇声。


『ガシャーン!!』

奇声の後すぐ、

今度は教室の窓ガラスが一斉にバラバラと砕け散るような音。

巨大な脳は割れたガラスのように砕け散り、

中からは謎の物体が溢れ出してくる。

物体というよりも人かな?

それぞれの姿はみんなあたしそっくり。

だけど、全身クラゲのような透明色で正直気味が悪い。


そして、その謎の物体は一瞬のうちに

あたり一面に拡散した。


◆認めない!アタシは認めない!◆

無数に散らばった謎の物体のうち、真智の一番近くにいる一体が話しかけてきた。


「ついに正体をみせたわね!

あなたは何者?」

クオリアさんはそう言って言葉を発したソイツに詰め寄った。


◆アタシはヘルティック・マチ。

真智の心よ◆


「あたしの心?」


「真智、もうあなたの出番は終わり。

これから先は危険だから下がっていなさい!」


「え、でも……」

あたしの反応には気を止めず、

クオリアさんはソイツ、ヘルティック・マチに向き直って話し出した。


「二度は言わないわ!

よーく聞きなさい!

真智を苦しめるのを今すぐ辞めなさい!

今すぐによ!」


◆え?

どうして?

アタシ自身が苦しんでいるだけなのよ。

どうして自分のプライベートなことに

他人からとやかく指図されないといけないわけ?◆


◆真智の命がかかっているのよ!!◆


◆知ったこっちゃ無いわ。

だって、それはアタシの……真智自身の意志なんだもん◆


「ふざけるのもいい加減にしなさい!!」


◆ふざけてなんていないよ!

そんな言い方酷ーい!!◆


「あなた、少し感情を抑えるってこと知らないの?

まるでお……」


「お!?

誰の事ですか?」

あたしは誰の事を言っているのか気になってクオリアさんに質問した。


「何でも無いわ……。

それより真智?

さっき私はあなたにこれ以上は危ないから

口を挟まないように言わなかったかしら?」


「ご、ごめん……」


「ねえ、ヘルティック・マチ?

どうして真智だけじゃなく、真智の友達にまで悪夢をみせて巻き込むの?」



◆巻き込んだつもりは無いよ!

ただ、あいつら最新のテクノロジーとかを使って記憶を共鳴させて繋ごうとしてくるから……。

アタシの記憶に共鳴して、入ってきてほしく無いの◆


「なるほど、

つまり怖がらせて追い返そうという訳ね?」


◆そうよ。

アタシのやっていること、

すごく筋が通ってるでしょ?◆


「間違ってるわ!」


◆あんた何様!?

アタシの事何にも知らない癖して、

よくそんなコト平気で言えるわね?◆


「まあ、確かに余計なおわせかもしれない。

だけど、私もあなたには幸せになってもらいたいのよ!!」


◆え?え?

あんた正気!?

ちょっと意味がわかんないんだけど?

どうしてアタシが、今から殺されようとしている奴から幸せを願われなきゃいけない訳ー!?◆


『グラグラグラグラ』


「地、地震かな?」

あたしはしばらく辺りの様子を伺っていた。


◆アタシは苦しんでいる。

早く消してあげなければ◆


「消す?

真智のこと?」


◆そうだよ。

アタシは真智を殺すなんて一言も言ってない◆


「じゃあ、ヘルティック・マチ……あなた、

もしかして!?」


◆アタシは真智の生まれてから今までの記憶を消すの◆


「ふざけないで!!

そんなことさせない!」


◆何度も言わせないでよ!

これは真智自身の意志なんだよ!!

それにもう今更手遅れ。

もう間もなくチェックメイト!◆


「させない!」


◆ねえ、今更どうしようっていうの?

それにアタシ……、自慢じゃないけど強いよ◆


「心技 メアリーズハウス!」

そう言い終わった直後、

クオリアさん体からは真っ白い球状の 覇気オーラが吹き出し、それは一瞬で巨大に膨れ上がった。


「ま、眩しいっ!」

あたしの視界は、その 強烈に白く光る覇気オーラに取り込まれてしまった。


・・・・・・・・


極端に明るさの違う光景に目が慣れるまでに

少なくとも5分はかかってると思う。

あたしは自分の目が慣れとすぐに

急いで辺りを見回した。


「ここは……どこ?」

辺りは見渡す限りただ一面真っ白な世界だった。


「クオリアさんどこー!!」


◇真智、危ないからそこから動かないで!◇


◆クオリア、そこにいるのね?◆


「……」

あたしは押し黙り、クオリアさんの声がする方向へ駆け出そうとするのを思い留まった。


◆あれ、おかしいわ……、

確かにさっきこの辺りから声がしたはずなんだけど……◆


◇こっちよ!◇


◆そっちね◆


◇くっ!!

素早いわ!◇


◆これでどうかしら?

11次元のリアル、あんたの脳みそでしっかり味わいなさい!!

超絶知覚!!◆


◇イタイ、イタイ、頭が壊れそう◇


「クオリアさん!?

大丈夫ですか?」


◇真智、近づいちゃだめ!◇


「え?

だって、クオリアさんを見捨てておけないよ」



◆チェックメイトだね。

本当はあんたに危害を加えるつもりは無かったのよ。だから、もう一度『超絶知覚』をしてあげる。

クオリア?

あんたが真智のSOS信号に気がついたところから以降の記憶を上手にすっぽりと抜きとって帰してあげる。

さあ、さようなら◆


・・・・・・


「クオリアさん逃げて!!!」

あたしは目を瞑りそう叫んだ。


◇この警策きょうさく、耐えられるかしら?◇



◆え? どうして!?◆


◇残念。今気付いても手遅れ。

私のメアリーズハウスは

結界内を黒と白の二色で自由に塗り分けることができるのよ。

あなたはわざと発した私の声を手がかりにしていたみたいだけれど、

あなた自身も含めて本当に単色の世界相手だと、座標が定まらないから方向感覚さえも簡単に狂ってしまうのよ!


さあ、浄化してあげるわ!

"心技 ゾンビ・ワ~ルド!"」


クオリアさんはそう言い放った。

すると、

クオリアさんの背中から無数に散らばったヘルティック・マチ目掛け、数え切れない本数の心の槍が寸分の狂いもなく襲いかかった。


———————————————————————

【登場人物】

•クオリア

•ヘルティック•マチ

真智まち

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