第18話 白い蛇が朔に語ること
朔は、
蛇が口を開いて言葉を発しても、別段驚かなかった。
今にも話しだしそうだ、と思った矢先に、蛇が喋ったからだ。
朔は——これは神さまのお使いだ、と思った。
そうでなければ、ただの蛇が喋るはずもない。
蛇は、
「今日こうやって姿を見せられたのは、月が上弦から下弦に移ったからだ。もっと君が色々自覚してくれれば、すぐにでも会えたのに」
急にそう言われて、朔は何と言えばいいのか分からなくなる。
しかし同時に、この遠慮のない態度をどこかで知っている、という気持ちがあった。
一体どこで、いつ会ったのだろう。
その考えを見透かされたのか、蛇は再び言った。
「子どもの頃に、会ったことがあるよ。でも、突然会えなくなってしまった。君はすべてを忘れてしまったから」
朔はハッとした。
それでは、この蛇の形をした使いは、すべてを知っているのだ。
そう思うと、朔は目の前が急に拓けたような気持ちになって尋ねた。
「教えて。あなたは、一体何を知っているの。どうして私に会いに来てくれたの」
「僕が言えることは、ただひとつ。明日、牛車には乗らない方がいい」
その言葉に、朔は困惑した。
「でも、もう行くことになっているの。小萩も一緒についてきてくれるし……」
「それなら、その子に代わりをさせればいい。これは計略だ。君は、まさに生け捕られようとしている」
朔はもう、二の句が継げなかった。
足元がぐらぐらと揺れる心地がした。
ここにいてもいいと思い定めた気持ちが、どんどん崩れてゆく。
すると、
蛇は徐々に、その体の光を弱めていくようだった。
焦慮にかられて、朔は声を上げた。
「それなら私は、一体どうすればいいの」
蛇は、
赤い舌をのぞかせて、笑ったようだった。
「
——“一緒に還れる”
朔には、蛇がそう言ったように聞こえたが、
直後、
蛇は、青白い光を僅かに残して、散るように消えてしまった。
そうなると、今見たものは夢か幻のように、頼りないものに思えた。
だが、蛇の発した言葉を信じるなら、悄然と佇んでいる時間は、もうあまり残されていなかった。
朔は、袿を単衣の上に羽織り直すと、庇の隅にある妻戸をそっと押し開けて、音をたてぬよう簀子縁から
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