15-5 星の光
炎と雷は二手に分かれた。
炎は人々を救う為に、雷は敵を討ち滅ぼす為に。
二つの力が戦場を駆け巡る。
涼が「味方の傷を癒し、敵のみを焼き尽くす」という我侭な炎を放ち、囲まれていた兵達の上を飛ぶ。
怪物が空に浮かび上がり涼へと襲い掛かるが、放たれる炎の前に灰となって消えていく。
その炎を抜けて20mを超える怪物が二体、強力な闇の波動を涼に向かって放った。
闇の中に涼が飲み込まれるも、闇を破りながら巨大な炎の手が出現し怪物達を掴み持ち上げる。
「爆ぜろ!」
闇を突破した涼の叫びと共に手が大爆発を起こし、怪物が粉々に砕け散った。
だが巨大な怪物を倒しても敵の勢いは止まっていない。怪物達の中には涼達の力に誘われる物も居るが、まだ増殖を続けながら兵士達を襲っている。
「とにかく数が多いな……愛莉、一発デカいのやるぞ!」
(はいっ、限界一杯までレッツゴーです!)
涼が天に手を掲げ巨大な魔法陣が展開され、
「焼き、尽くせぇ!!」
グライズ戦の時よりも更に巨大な炎の塊を投げつける。
地上に着弾した炎塊から灼熱が大地を走り、神の炎が「誰かを助けたい」という涼の願いを叶えていった。
レオは敵のど真ん中を風を纏って翔けて行く。
強烈な雷が大地を抉り、怪物が放つ攻撃の悉くを潰した。
星の剣はまだ抜いていない。素手で怪物を砕き、引き千切り、嵐を起こして暴れまわる。
「お前達には嫌な思い出があるんだ」
怪物達が作り出した戦場の惨状を見て、過去の凄惨なる世界と、リーナが殺されてしまった記憶が蘇っていた。
「お前達にこれ以上……」
膨大な魔力のうねりが巨大な魔方陣を作り出し、戦場を覆う竜巻に怪物達が巻き上げられる。
「殺させるものかァ!」
天へと迸る眩い轟雷が竜巻を貫き、破壊の音が鳴り響いた。
絶望に染まっていた戦場が圧倒的な力で切り開かれていく。
涼の炎に包まれて目を覚ましたアンセルムが頭を抑えながら立ち上がった。
「わしは……まだ生きておるのか?」
気を失う前、あの巨大な怪物に叩きつけられ、骨も内臓もぐちゃぐちゃに潰れた感覚があった、なのに今はこうして無傷で立てている。
それどころか何時もよりも体の調子が良く思える。
周りの兵士達もこの状況にあっけに取られていた。
「これは、奇跡なのか……?」
兵士の一人がぼそりと呟いた。
その兵士の目線の先を見ると、マントを靡かせ赤く燃え上がる少年が大も小も関係なく怪物達を薙ぎ払っており、更に向こうでは荒れ狂う嵐が敵を粉微塵に還していた。
「これは、あやつが放っている炎か」
周りを包む温かな炎。
見た目は炎で違いないが危害は無く、寧ろこの炎が生命の活力を分け与えている。
最早魔法とも言えない高次元の力にアンセルムが考えを巡らせるも、怪物たちが再び発生し始めた。
「まだ来よるか!」
アンセルムが魔方陣を展開し、風が怪物を切り裂く。
次の敵にも魔法を放とうとすると、怪物が後ろから真っ二つに潰された。
「よぉう、大賢者!生きてたか」
炎の大斧を担いだラウロが笑顔で向かってくる。
「お主もな……その斧はなんじゃ?」
聞かれてラウロが何故だか自慢げに斧を掲げた。
「こいつはな、さっきリョウのやつが作ってくれたんだぜ」
「リョウが?そうか、あやつはリョウなのか。ならこの炎は神の力か」
空を行く少年の正体を知ってアンセルムは合点がいった。
「おう、なんかマジですげぇ力を貰ったみたいだな。それであいつが撤退の援護をしてくれるから、俺等は逃げて体勢立て直すぞ」
「逃げると言っても何処がある?」
またも湧き出てくる怪物を倒しながらアンセルムが尋ねる。
「それは今から……来た!」
ラウロ達の前に光の結界が目の前に現れた。
(リョウさん、お待たせしました。ここなら怪物は出てきませんし、皆さんを守れるだけの大きさはあると思います)
エイミーが神に近しい存在と繋がっている涼へと祈り伝えてきた。
エイミーは神器によって大幅に強化された力で、光り輝くドーム状の結界を一人で作り出した。
大きさは軍の人々全員を収容するに十分な広さがある、少々張り切ってしまい大きすぎる位にはある。
「おっしゃ、後はこっちが何とかすれば!」
爆炎を放ち続けながら結界まで人々を逃がし、一応の安全が確保できた。
結界を囲む怪物の相手はしなくてはならないが、結界を利用した防衛戦ならリーナ達と協力すれば大分楽になるだろう。
「……いや、そうでもないか」
遠く佇んでいたテュポーンが遂に動き出した。
地面も空も揺らしながら巨人が進んでいく。
その巨人の中で、美しい赤いドレスを纏った四天フラウは戦場を見ていた。
「魔王様から頂いた水晶だけで殲滅出来ると思っていたが、まさか二人で戦況を変えてしまうとは驚いた」
底知れぬ量の魔力が詰った水晶は、魔王の魔力から生まれる怪物を作り出す装置であった。
その魔王の魔力が詰った水晶の中身が尽きようとしている。
「しかし、こうでなければこのテュポーンを出した意味が無い。ストレッジはただ進むだけで良いと言っていたが、やはり力は強い者にぶつけてこそ!」
テュポーンに備え付けられた無数の砲台が光り輝く。
「さあ、その神の力を見せてみろ!」
空を焼く光が砲台から放たれた。
「やらせるか!!」
涼が幾多の炎の壁を空に作り出し、レオが飛来する光に向かって雷を放つ。
それらがぶつかり合う音と衝撃が鳴り響いた。
「くお……重い上に、数が多い!」
光の幾つかが炎の壁を突き破り、結界に着弾する。
エイミーの結界は何とか耐えてはいるが、何度も何度も耐えられるような威力の攻撃ではない。
レオが巨大な魔方陣を展開し暴力的な嵐をテュポーンに向かって放つが、その巨体はビクせずに進撃を続ける。
どうする?そう悩む前に、レオが周りの敵を一掃してこちらに飛んで来た。
「僕があれを斬る、その準備の間の足止めをお願い」
「は?あれを斬るって……いや、分った。エイミー、そっちは何とかなりそうか?」
俺の声にエイミーが答える。
(はい、こちらは私達で何とかしてみせます)
結界の中で皆がエイミーの強力な加護を受けて怪物相手に奮戦している。
バルトロが翔け、ラウロが突撃し、アンナとアンセルムの魔法が敵を薙ぎ払っていく。
ロンザリアも前線で加護によって光り輝くゴーレムを駆って、楽しそうに暴れまわっていた。
(例え巨人の光が来ても、私が皆を守って見せます。リョウさんはあの巨人との戦いに集中してください)
顔は見えなくとも、その言葉に確かな決意と強さが感じられる。
「ようし、じゃあ任された!」
涼がテュポーンに向かって飛ぶ、レオもリーナの元へと飛んだ。
光り輝く杖を掲げ、魔法を放ち続けているリーナの元へと降り立つ。
「リーナ!」
やって来たレオに気が付き、リーナが杖を下ろして尋ねる。
「さっきエイミーからあの馬鹿デカイやつを斬るって聞いたわ、やれるのよね?」
「うん、この剣なら、僕とリーナの力ならやれる」
リーナの問にレオが真っ直ぐに即答した。
その返答を聞いてリーナの顔がニッと笑う。
「その言葉を信じるわ。アイツも何時まで持つか分からないし、急いで準備するわよ」
レオが頷き、鞘から星の剣を抜き構えた。
涼が炎の壁を作り出しながらテュポーンへと迫っていく。
「こんなデカブツだと中に入って暴れるってのも難しそうだな。でも、こういう相手に合う戦い方ってのもある!」
(何かマスターには良い方法があるんですか?)
中に居る愛莉が首を傾げた。
「あるさ、デカブツにはデカブツをぶつけんだ!」
涼が正面に拳を構える。
「変っ身!イフリート!!」
特に意味の無い叫びと共に涼の体が炎となり、魔力任せにその身を拡大させ、50mを優に超える炎の巨人へと変身した。
「これでも大分サイズは盛ったんだが、それでも相手の方が5倍以上あるな。だけど、これなら戦う事は出来るだろ!」
放たれる光を掻い潜り、炎剣を構えて飛ぶ。
フラウが迫る涼相手に口角を上げ、手を前に出した。
「自身を大きくしてテュポーンに白兵戦を挑むか、面白い発想だが簡単には近づけさせん!」
フラウの手に連動するようにテュポーンの両手が持ち上がり、指から光が放たれる。
「そんな見え見えな攻撃を当たるかよ!」
横に回転しながらその光を涼が避けていくが、
「当てるのさ!」
フラウの手に合わせて、テュポーンの手ではなく光が涼を狙って曲がった。
「まじか!?……でも、行く!」
自身を狙って曲がり誘導してくる光の中を強引に突破を試みる。
避けきれぬ攻撃は切り払い、激しくなっていく各種砲台の閃光の中を駆け抜けていく。
だが、テュポーンの光が涼を捉えた。
閃光が炎の巨人を貫き、切り裂く。
「一発ぐらいなら……!」
両断された巨人がその身を再生させながら、炎剣を構えて続く閃光を正面から押し切った。
「うおおおりゃ!!」
元から巨人サイズの炎剣を更に強化し振り上げ、テュポーンの右手首を切り落とす。
テュポーンの右手は魔力によって修復されていくが、巨大過ぎる故に直りが遅い。
「この調子で左手も切り落としたいけど……」
しかし、涼もまたこの巨体を維持する為に多くの魔力を浪費し、体に大きな負担が掛かっていた。
(次ぎに攻撃が当たってしまったら、このイフリート状態の維持は出来ません。それにマスターの体を考えたら解除した方が)
心配そうな愛莉の声が頭の中に響いてくる。
(いや、これはそのままだ。解除してしまったら、相手の動きをこっちに引き付けられなくなる。後もう少し耐えきるぞ)
涼の言葉に少しだけ愛莉がぐずるも頷いた。
(……わかりました。マスター、ファイトですっ!)
(おう!)
無理な接近はもう出来ない。炎の巨人が宙に炎の剣を幾つも作り出し、テュポーンに向かって射出していく。
「戦い方を変えてきたか、しかし、そんな攻撃はこのテュポーンには通用しない!」
テュポーンが炎の剣を受けながらも物ともせずに直進し、涼に向かって幾多の光を放った。
迫る敵から距離を保ちながらも、決して逃げずに涼は閃光の雨の中を立ち向かい続ける。
その姿を見て、フラウは考えた。
この敵は時間稼ぎを行っている。
この炎の巨人こそが相手の切り札なのだと思っていた、しかし今はこちらを倒すのではなく、引きつける様に戦っている。
先ほどのレオ・ロベルトが放つ嵐程度では、このテュポーンに傷を付けることは出来ない。
それに神器も強力な力とはいえ、それを補うほどの力は出せない。
ならば何故、敵は時間を稼いでいる……
「そうだ、あのレオ・ロベルトは!」
その答えに気が付き、テュポーンが涼から目を離し、遠くに光る結界を見た。
そこに居る少年が剣を正面に構え、少女が杖を掲げて凄まじい魔力を生み出していた。
「そうか、あれが狙いか!」
砲台を涼から光の結界のほうへと向ける。
「お前の相手は、まだ、俺だぁ!!」
涼がイフリート状態を解除し、それの維持に使っていた魔力の全てを使って100m規模の炎の剣を生み出した。
「くらい……やぁがぁれぇえええ!!!!」
振るう腕に合わせて特大の刃がテュポーンに振り下ろされる。
ガードの為に持ち上げられた左腕と衝突し、巻き起こった爆風でテュポーンの左肘から先が消し飛んだ。
衝撃によろめくテュポーンの中で、もうもうたる土煙の向こうに光が上がるのをフラウは見た。
「よし、これで行ける!星よ、アタシ達に力を貸して!!」
リーナの持つ星の杖が眩い光を放ち、広大な魔方陣と共に星の魔力が光の柱となって、レオの掲げる星の剣へと集まっていく。
神器二つの力を合わせた世界を揺るがす魔力に柄の模様が光り、刃の部分が展開される。
これは僕だけの力。人として生まれなかったから、魔王の器として、人でも魔物でもない化け物として作られたからこそ使える力……
人ではこの魔法剣を使う事は出来ない、魔物では神器を使う事は出来ない。
理を超えた化け物として生まれながらも、勇者として生きる事を選んだレオ・ロベルトだけが放てる、必殺の一撃!
「僕はこの力で、僕が生きる世界を守ってみせる!星の光、受けてみろおおおお!!!」
踏み込み放った力が空間すら捻じ曲げる極光となり、テュポーンを貫いた。
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