第三章

8-1 旅の目的地

「あー……どっと疲れたー」


 俺達は無事にバルレッタ行きの船に乗ることが出来ていた。


 しっかし、荒波に飲まれて、過去に飛んで、何か色々と知って、正直もう寝てしまいたい。


 どうせだからと甲板に出て海風に当たって居るのだが、折角の船旅を楽しむ余裕が無い。


 一緒に来たエイミーも隣で疲れた様子をしている。


「折角の船旅だけど、部屋に戻ったら眠ってるうちに終わってしまいそうだな」


「予定では明日の朝にはバルレッタに着くみたいですね」


「あと半日か」


 もう直ぐ予定していた旅は終わる。


 だけどあの島で聞いた世界の真実や、アデルさんが言っていたレオの運命とやらが気になる。


 もしも許されるなら旅に同行して答えを得に行きたいが、肝心のレオ自身が旅の続きに乗り気ではない。


 まぁ過酷と言われて行きたがるのも変と言えば変か、元々レオは旅には反対派だったしな。俺を送り届ける為に態々付いて来てくれただけで。


「海、綺麗ですね」


 悩む俺を察してか笑顔をエイミーが向けてくれた。


「そうだな」


 遠くまで青い空と海が広がっている。


「俺、みんなと旅が出来て良かったよ」


「私も最初は勢いで飛び出した様な旅の始まりでしたけど、皆さんと旅が出来て、リョウさんに出会えて良かったです」


 エイミーの銀髪が風に吹かれて靡いた。


「髪、綺麗だな」


 風に揺れるエイミーを見て、思わず出てしまった言葉に「えっ」とエイミーが驚いた。


「もう、いきなり言われると照れてしまいます」


「はっはっはっ、いや本当に綺麗だなって思ってさ」


「……リョウさんはずるいです」


 エイミーが顔を赤くして困ったような顔をしている。


「さてと、そろそろ部屋に戻るか」


「はいっ」


 部屋ではリーナが船の揺れにやられてぐったりとしていた。


 この前のと比べたらまだ大丈夫そうだが、ベッドで力尽きている。


 それ以外には特に何がある訳でもなく、船内での料理を楽しみ部屋に戻って就寝し、目が覚めるとバルレッタに船は到着していた。


「やっと着いた……」


「リーナ大丈夫?」


 船から下りてもリーナはゆらり、ゆらりと揺れている。


「とりあえず今日は宿に止まって、軍に呪いの道具とかの話をするのは明日にしようか」


「そうだな、どうせリーナが本調子じゃないと、俺たちじゃ分らない事も多いし」


 レオの提案に賛同し、今日は宿でゆっくりとする事にした。


 とは言っても、俺は俺でやる事をやらないとな。


「魔法の学校って、普通に行けば編入試験とか受けられるんだろうか」


「分んないけど、アンタのマント見せたら無下にはしないんじゃない……」


 宿のベッドに寝ているリーナが辛そうな顔で答える。


「そんなに凄い物なんだな」


「当たり前でしょ……」


 そう言われてみると、旅の途中ではこのマントを着た魔法使いは少なかったし、居てもここまで精巧な物では無かった気がする。


「そうか、改めてありがとうな」


「はいはい、気をつけて行ってらっしゃい……」


 リーナに見送られて宿を出て魔法学校へと向かう。


 街の人に聞いて非常に大きな建物の前に着いた。


 歴史を感じさせ、いかにもと言った雰囲気の建物だ。


「これどうすりゃ良いんだろう」


 正面をウロウロとするも入る度胸が中々沸いて来ない。


 うろついていると、周りの学生らしきローブを着た人達から何やら注目を集めてしまっている気がする。


 興味の対象は俺というよりも、俺が着けているマントの方だろうが。


「ええい、なるようになれ」


 意を決して門をくぐり建物内に入っていき、案内窓口の係りの人に話しかける。


「すみません、ここで魔法を学びたいのですが」


「次の編入試験は3ヵ月後になります。もしくはこの学校への推薦状などはお持ちでしょうか?」


 うーむ、そんな物はお持ちではないな。


 ここは諦めるしかないだろうかと思っていると、窓口の奥からぱたぱたと男性が走ってきた。


「ああ、居た居た。君、この子はうちに何の用があると言ってたんだい?」


「ここへの入学を希望しておりましたけど」


「そうかそうか、それは素晴らしい。それで君、ちょっと良いかな?」


 恐らく教師らしき見た目をしている男性がこちらに話しかけてきた。

 

「ここに入学する前に色々と試験や書類を書かなきゃいけないんだけど……あったあった、それでこの書類に、えー欄にあるのを全部書いて欲しいんだ、ペンはこれね。そこの部屋で書いていてくれ、準備が終わったら面接とかもするから」


 畳み掛けるように書類とペンを渡され、部屋に案内された。


 何だかよく分からないが、とりあえず書類の欄に記入していくか。


 書類は特に変わりのない個人情報の記入用の書類といった具合だったが、


「出身地とかどうしようか」


 いっそ地球生まれとでも書いてしまうか……いや、流石に止めておこう。


 一先ず出身地はレオ達の故郷のニジーア村と書いておくか。


 後も幾つか困る部分もあったが、突っ込まれない程度に適当に書いておく。


 書類が書き終わったところで白髪の男性が部屋に入ってきた。


「遅くなって申し訳ない。ちょっと急に呼ばれたもので、急いでは来たんだが」


 入ってきたのに気が付き、椅子から立って頭を下げる。


「入学希望で来た涼 真田と言います。今日はよろしくお願いします」


「これはご丁寧に、私はここの学長のオーレリアーノ・ウベルティと言います。椅子に座って楽をしてもらって大丈夫ですよ」


 言われたとおり椅子に座るが、楽になんては当然出来ない。


 老人が正面の椅子に座り、書類に目を通していく。


「えー、リョウ・サナダさんね。ニジーア村と言うと結構遠い所から来たんだね」


 目を通し終わったようで、書類を置きこちらを向いた。


「それで、そのマントをちょっと見せてもらって良いですか?」


 言われて外して横に置いておいたマントを手渡す。


 学長は驚き感心してマントを見て調べていく。


「俺がここで面接を受けれたのはマントのおかげですか?」


 俺の質問に学長が笑顔で答えた。


「そうですよ、これは恐らく貴方の師が編んだものでしょう?とても素晴らしい出来のエーテル織りのマントです、その弟子も相応の能力を持ってるというのが自然と期待出来ます。ならば入学を是非にと思うのが当然の事ではないですか?」

 

 その答えにばつが悪くなり頭を下げた。


「すみません。捻くれた事を聞いてしまって」


「いえいえ、自分の力を認めて欲しいと思うのは学生の領分ですから大切にしてください」


 そう言ってマントをこちらに返してくれた。


「ちなみに貴方の師はどのようなお名前の方でしょうか?」


「リーナ・エスカロナって名前です」


「ふーむ……何処かに所属してたりは?」


 所属?軍や魔法の研究機関にだろうか。


「いえ、特にはしてないと思います」


「そうですか、是非我が校にお招きしたいものですが……おっと、今日はリョウくんの話でしたね。それで魔法はどの程度出来ますか?」


 言われて魔法陣を出してみる。


「おー、これは中々。正確で速い……そうですね、リョウくんはこの学校で何か学びたい事などはありますか?」


「えっと……」


 正直な所そんなに考えていない部分だった。

 

 書類にも動機の欄はあったが「誰かが傷ついたり、困っている時に助けられるような魔法使いになりたい」とかなり曖昧な事を書いてしまっている。


「来歴を見るに、リョウくんは中々に戦闘をこなして来た魔法使いのようですね。この動機の、助けられるようなと言った部分もそこから来ているのではないですか?」


「……はい」


「ふむ、でしたらここで学ぶよりも軍の訓練施設に行ったほうが君の進路にあっているかもしれませんね」


 学長がそう俺に提案した。


「先程の魔方陣を見ても、君は基礎部分をかなりの密度で叩き込まれているのでしょう。戦闘面だけで言うならここで学べる事はあまりないと思います。それなら訓練施設で戦う術を学んだ方が君の目標に近づけると私は思います。勿論、リョウくんがこれからも魔法について多分野に渡り学び、研究したいと言うのなら、私共は理想に届くように応援させて頂きます」


「どうしますか?」と学長が聞いた。


 軍の方に、確かに戦うとならそっちの方が適任なのかもしれない。


 しかし、考えても簡単に答えの出るものではなかった。


「すみません、また考えてから出直そうと思うのですが」


「はい、じっくりと考えてみて下さい。リョウくんの人生ですから」


 学長に見送られ、最後に礼を言って学校から出て行く。


「俺の人生か……」


 戦う道を選び始めた旅。


 その旅はとても楽しく充実した旅であったが、それもゴールに着いた。


 なら、次はどうしようか……


 軍に入り戦い続ける事に不満はない。どうせこの世界では故郷も歴史も持っていない身なんだ、最後まで戦い続けようと思ってる。


 でも、一つ我侭を言うのなら、出会った仲間達の事が気がかりだった。

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