最終話。欲しいものは…!

最終話


Q:恋と愛の違いはなんですか?


俺ならこう答える。


A:文字通り心の位置だ。

恋は下心、愛は真心。


…だとしたら。

三浦に殴りかかった俺の行為は

ナナに好かれたいとか言う下心ではなくて、ナナを想う俺の真心。愛だったんじゃなかろうか。(なかなかポエマーな俺)


俺は今生徒指導室にいる。

城島先生が怖い顔をして俺を睨んでいる。

なぜか?

時間を30分前に戻す。


放課後。

「金井先輩」

俺は部活のために体育館に向かう途中でナナに声をかけらえた。

ちょっと嬉しい俺。

でも人目を気にするナナだから、体育館裏に呼んだけど……それが裏目に出た。

「どした?」

ナナがちょっと困り顔で、紙の包みをくれた。

「ハンカチとちょっとしたお礼です。」

「あ、ああ。ご丁寧にありがとう。」

俺はちょっとドキドキで受け取った。

飾り気のない袋だが、女子がよくプレゼントに使うような包装。さすが女の子だなっと思う。

「で、ではッ」

「ナナ」

「?」

「試合見てってよ。」

「ピアノの習い事あるんで。」

と言われた。

「お、金井と入江?」

そんなところに、ジャージの三浦が現れた。

手にはゴミ袋と火挟が握られていてどうやら清掃中らしい。

人気のない体育館裏。

男女が2人。

俺の手にはプレゼントのようなもの。

誰がどう見ても告白と勘違いされて当然の光景。

ナナとしてはこの状況下で1番会いたくない人物だろう。

それがいくら誤解だとしても…。

「いいなぁ、青春だなぁ!」

三浦がふざけて言う。

俺はナナの顔を横目で見た。

唇を噛み締めてへの字の口で困った顔して俯くナナ。


ナナごめん…。

俺がこんなところに連れて来たばっかりに。


そして三浦が言った。

「金井もモテるなぁ。」


はぁぁぁぁあ?

お前、ナナの気持ち知ってんだろ?

お前、ナナの前でよくそんな口聞けるよな!

お前、今のナナの気持ち考えねーのかよ!


いろんな感情が怒りになって俺はーーーー。

気づいたら三浦のジャージの胸ぐらを掴んでいた。振り上げる拳。


「先輩!」


ナナの声で冷静になった。

殴っちゃいかんな。

殴っちゃいかん…!

くそ…!!

胸ぐらを掴んで拳が下がるまで自分に言い聞かせた。

「おい!金井何やってる!?」

生徒指導の城島先生も参戦。

取り押さえられる俺。


〜〜〜〜〜


俺はこの通り、生徒指導室で黙秘を貫く問題児。

ナナと三浦がどうなったかは知らん。

「何があったんだ?言え。」

「…。」

「理由によって処分も軽くなるぞ。」

「…。」

ナナの名誉があるから言えるはずない。

処分にならないように言い訳したところで情けないのは変わらない。

「金井、進路にも響くぞ。」

「…。」

コンコン。

ノックと共に三浦が入ってくる。

「城島先生、今回は大目に見てやってください。」

「いやいや、教師に殴りかかるなんて許しがたい事ですよ。」

「いや、私も悪かったんです。ちょっと冷やかしついでに軽率な事を言ってしまって。」

俺は肘をついて窓を眺めていた。

グラウンドが見える。

野球部のボールを打つ音。

「金井はチャラチャラしててどうも気が気じゃなかったんですよ!そしたらこれです。厳しく言わないと。」

城島先生と三浦がもめているが俺はどうでもいい。早く帰りたい。

「今回は全面的に私が悪かったという事で…お願いします。金井は外見はあんな感じで誤解されやすいですが、校則違反もしないし、ちゃんとまじめにやるやつですーー…。」

とか聞こえる。

情けないなぁ。

ナナにあんなところ見せて。

ライバルの三浦に庇われて。

情けないったらない。


俺は無罪放免で釈放された。


三浦に

「悪かったな。」と肩を叩かれた。

「すんませんでした。」

俺はとりあえず謝った。

三浦はそれ以上何も言わなかった。

ナナは帰ったらしい。

俺は部活に向かう。


ナナ『今日はすみませんでした、ありがとうございました』


ナナからのメッセージに返信を戸惑う。

この戸惑いはなんなのか。

ナナのにやった事なら、ありがとうという言葉に喜びを感じるんだろうな。

でも違う…。冷静に考えたらこれはナナを思う「愛」じゃない。俺が勝手に三浦に嫉妬して感情的になっただけに過ぎない。


ジン『三浦のおかげで処分なしで釈放!気にしないで。』




その後俺たちは、文化祭の準備やらで秘密基地で会うことがなくなった。

ほとんどナナの方が忙しくて秘密基地は閉鎖中。俺は今まで通り、鬼ごっこや、UNO、雑巾野球をしている。


「ジーン!今日バスケしようぜ!」

篠田が来る。

「おう!負けねぇ。」

「3組のやつらも混ぜて。」

「ミカもサヤもやる?」

「やるー!」

「島崎と山田も来るだろー?」

「行く行く!ジン手加減しろよなー。」

「しねーよ!?」

ということで、今日はバスケで決定!


体育館の床が擦れるキュッキュッという床がこすれる音。ボールが床をつく音。

騒ぎ声。

「わー外したぁ!」

「ばかばか、パス出せ!」

「篠田反則だろ!?」

「ジン手加減しろ!」

「するか!悔しかったら戦え!」

で、俺は気づいた。

壇上にナナがいる…!デキスギ君と、生徒会の数名。明日の生徒総会の壇上準備らしい。

試合の5分の休憩タイムに篠田がコートの真ん中で壇上の方を向いて横になっていた。

「何やってんだよ。篠田。」

俺は聞く。

「ここからあの子のパンツ見えないかなっと思って。」

視線の先にはナナ。

「しね!さっさと立て!」

ボコッッ

「いて!」

俺は腹が立ってボールをぶつけた。

で、篠田が投げ返したボールを取り損ねて壇上に飛んでいくボール。


ボールを取って、暗幕の奥を見た。

ナナとデキスギ君が何やら揉めている。

「入江さん…!」

「いえ、あの離してください。」

ナナがデキスギ君に何やら迫られているようだ。後ずさるナナの手を引くデキスギ君。

おいおい。デキスギ君…場所を選べ。


俺はナナのもう片方の腕を引いて、デキスギ君からナナを離す。

「!?」

ナナの背中が俺に倒れこむ。

俺を見上げるナナ。


「女をこまらせるもんじゃぁない。」


「じゃあね。」

と言って俺は立ち去った。

ナナに散々つきまとった俺が言えたもんじゃないと後から考えたら笑えた。


「ジーンやるぞー。」

「おー!」



俺はナナが好き。

ナナは三浦が好き。

俺は「三浦が好きでも構わない」と言っておきながら、三浦の影が見え隠れするたびため息をつくわけだ。(モブはどうでもいい。引っ込んでいろ!何度も言わせるな!!)

三浦はどうせ今年までしかいない。

まぁ俺もだけど。


ジン『明日秘密基地いく?』

ナナ『秘密基地行けません』


秘密基地以外での接点はほとんどない俺たち。


〜〜〜〜〜


ある日の6限の終わり。

「ジンー。何見てんの?」

廊下で篠田が声をかけてきた。

「なんでもねー。」

俺の視線の先。

ナナがグラウンドで友達に腕を担がれて戻って行くところ。

足を挫いたらしい。

……ピアノって両足使うんだっけ?


帰りに玄関でナナと遭遇。

「ナナだ。チャリ?」

「チャリです。」

俺は電車通学。

「チャリこげんの?」

湿布を巻かれた引きずる左足を見て言う。

「…。」

「家どこ?」

「向敷地ですけど」

「大橋越えんじゃん。」

向敷地は橋を越えてすぐ。

ただこの橋がこの街一番の大きな橋で大きな坂がある。

俺はもっと先の焼津。

「よし。俺がチャリこいでやる。」

「え!?」


半ば強引にナナをニケツ(二人乗り)して帰ることにした。

「いいですって!」

「いいよ。俺安倍川で電車のれるし。」

ナナの荷台に体操着をくくりつける俺。

ナナは恥ずかしそうに立っている。

「よし行くぞナナ!捕まれ!」

渋々(?)観念したように乗るナナ。

「お客さん、代金はサービスしときますんで!」

阿漕な親父風に言う俺。

「あ、安全運転でお願いします。」

ナナが俺の学ランの脇を掴む。

ちょっとにやける俺。

「発進!!」


〜〜〜〜〜

俺は人目を気にするナナを気遣って小道の抜け道を選んで走る。

「ナナ。元気?」

「元気ですけど…。」

「デキスギ君に告られた?」

「ち、違います!」

「ふーん。」

「あ、ナナ!ちょっと坂だ捕まって!」

ナナが俺の学ランのを握る。

「先輩。ポケット満員。」

「篠田からチュッパチャプスいっぱい巻き上げた!持ってっていいよ!」

「いりません!」

言い方はきついがナナの声はちょっと笑っている。

「ナナ!正直俺のこと最初嫌いだった?」

思い切って聞いてみる。

「なんか変な人が踏み入ってきたって思いました。」

まじか。まぁそうだろうな。

「今は?」

です。」

「そう、俺、!」

「ぷ。」

ナナが笑ったのを背中で感じる。

「ーーー最低じゃないって言ってくれたこと…。」

「え?何聞こえない。」

「なんかっ!先輩がいるとっ!悩みがちっちゃく思えますぅっっ!!」

躍起になって叫ぶように言うナナ。

「なにー!?きこえないー!」

わざと言ってみる。

背中に頭突きを食らう俺。

もうすぐこの街で1番大きな橋だ。


「♪駐車場のネコはアクビをしながらぁー

今日も一日を過ごしてゆくー」


「ちょ、恥ずかしいです!」

「いーんだよ!」

坂に差し掛かる。

俺はちょっと勢いつかせ

立ち漕ぎをしながら歌う。


ゆずのナツイロ。


「♪何も変わらない 穏やかな街並みー」


「いつも聴かせてくれてるからたまには俺が歌うんだよ!」

「先輩音痴!」

「うっせ。」

ちょっと息が切れる俺。


「♪みんな夏が来たって浮かれ気分なのにぃー

ネー」


「♪そうだ君に見せたい物があるんだぁー」


「♪大きな五時半の夕やけ 子供の頃と同じように

海も空も雲も僕等でさえも 染ーめてゆくからぁ!」

坂のてっぺんに着く。

右側に電車が走る。

風は追い風。

「ナナ行くぞ!捕まれ!!」


「♪この長い長い下り坂をーー」


「♪君を自転車の後ろに乗せて


ブレーキいっぱい握りしめて


ゆっくりゆっくり下ってくーーーーーーーーーー!!」


「ふぅぅぅううう!ひゃほぉぉぉぉ!!」


「ブレーキかかってませんーー!きゃあああああ。」


猛スピードの自転車。


「ナナぁぁぁぁ!!」


「すきだぁああああああああ!!」


「!?」


で俺は2度目の告白をした。



ナナを送って別れる時

「返事は別にいつでもいい」

とさらっと言って別れた。


青春(笑)



数日後。


俺は数日考えて、フラれようが普通でいようと思った。だからもう返事なんてむしろどっちでもいい。楽しければいい。

ナナが楽しそうにピアノ弾くならそれでいい。


昼休み秘密基地。

ガラ。

「ナナー。」

俺は大量のお菓子を抱えて音楽室に入って行く。

ナナはピアノの椅子に座ってこちらを見ている。

「なんですかそれ?」

近くの机の上に広げるお菓子たち。

「賭けの戦利品!」

「またUNOですか?」

「せいかーい。わかってんね!」


「ナナどれがいい?たけのこのやつとか、飴もあるぞ!チロルもいっぱい!!」





ナナはピアノからちょっと呆れたように微笑んだ。

そしてピアノを弾き始める。

ゆっくりした曲調。

今までナナが弾いたことがない曲。


でも、多分有名で、誰もが一度聴いたことがある曲。


ーーーーーー。



「ナナ、それなんて曲?」

弾き終わりにいつものように聞く俺。



ナナはちょっと照れたように笑う。



「 エリックサティのJe te veux (ジュ・トゥ・ヴ ー)です。」



「ふーん。いい曲だな!」






その直訳の意味知ったのはもうちょっと後になってからだった。





Je te veux

あなたが欲しい。











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