第4話 心の余裕


あれからストレージにジェネラルを入れた事によりラックスもあわよくばとオーク一体を入れることは出来ないかと頼まれ、メルは即答で「良いですよ。」と返し、ストレージに一体二体とオークをしまい込んで行こうとすると、ラックスに止められた。


「おいおい!いったいどれだけ容量を持ってるんだ?ってよりもそんなに要らないぞ。」


「え?」


「俺達はそんなに活躍もしていないし、お前がジェネラルだけなら俺達だってオーク一体でいいんだよ。なぁ皆んな。」


ラックスがそう言って皆を見ると皆も同意見の様だ。


「まぁオーク一体でも結構なお金になるからね。」


「全然構わないぜ。」


「そうですか。まぁでもこんなけの巨体がいれば5体ぐらい持っていっても十分でしょ。」


そういって無理を通すようにメルはストレージにオーク五体をしまいこんだ。


「おいおい。」


呆れたような表情をするラックス達だがメルは反面、この4人が本当に良い人達だと分かった為、満面の笑みを浮かべていた。


どの世界にも人間なら欲はあって当然だと思う。だけどこの4人はその欲に駆られるような汚い人物達では無かったのが嬉しかったのだ。


それにジェネラル合わせて6対をストレージにしまい込んでも残り26体もいるのだ。


しかも一体一体の大きさは2メートル程で重量は200キロはゆうに超えている。


人口が減り、今では100人程の集落からすれば充分すぎると言えば充分以上とも言える量だろう。


そして翌朝。


この世界の時間はメルの元いた世界と同じく24時間だ。


メルは待ち合わせ時間より随分と早い5時に目覚めた。


陽はすでに部屋に入りこんでいた為、眠気も無くなった。 なので先に下の酒場で時間を潰そうと思い部屋を出た。


(確か酒場は5時から空いているって言ってたもんな。)


ラックスの部屋はちょうど下へと下る階段の前にある。


予定より2時間近く早いからまだ寝てるだろうと思いながら何事もなく通り過ぎようとすると、何かの鳴き声がラックスの部屋から聞こえ立ち止まった。


何の音だろうと、興味本位でエリックの部屋に耳を当てたメルの顔は一気に赤く染まり上がる。


「あぁん!ラックス!ラックス!もっと!もっとよ!」


「サラ!サラ!俺もう…!!」


「あぁぁぁぁあん…!!!!!!」


ドアの前から一歩、二歩と後ずさるメル。


赤面し動揺する気持ちを落ち着かす様に額をペシっと手の平で叩き深く深呼吸した。


(朝から元気なこって。)


ラックス達に罪はない。だってホテルの一室に2人で居るんだから男女の関係が行われていても問題は無い筈だ。


盗み聞きした自分が悪い。いや、でももっと声を控えるなどはして欲しいと言うメルの願いは間違っては無い筈。


メルはそう思う気持ちを振り払い、何も聞かなかったことにして、下へと降りたのだった。


降りるとパタパタと仕事をこなす15歳くらいの赤髪の少女がメルに気づく。


「あっ、君は確か鷹の団の…えっと」「メルです。おはようございます。」


鷹の団とはラックスのグループ名だ。そして今回のこの事件についてたが、メルの様な子供がそんな大それた事が出来たとは誰も思わず、鷹の団の奮闘で事が収まった事になっている。


始めその誤解を解こうとラックス達は皆を訂正しようと言う意見もあったのだが、シズネがメルの異常なまでの強さと、その特殊とも言える戦い方を考えると、あまり公にするのはマズイのではないかと発言し、メルと相談してから答えを出す事となった。


メルは勿論の様に同意見だった。


それ故にメルは鷹の団の下っ端と言う事になっていた。


「メル君っていうのね。OK覚えたわよ。私はチャコよ。宜しくね。」


チャコは明るい笑顔をメルに向けるとメルも笑顔を返し「宜しくお願いします」と頭を軽く下げた。


「へぇ、改めて見ると君ってとても可愛い顔してるんだねぇ。」


チャコは好奇心旺盛な表情でメルの顔の彼方此方の角度を確かめる。


流石にこれはテレ臭かったメルは苦笑いしながら話しを逸らす。


「あ、あの。紅茶はありますか?」


メルのこの言葉でチャコは我を取り戻した。


「あ、そ、そうだったね。仕事しなくちゃ。あるわよ。砂糖とミルクはどうする?」


「無しでお願いします。」


「へぇ。以外と大人。了解。じゃぁそこらへんの席に座って待ってて。」


メルは指示通りそこら辺の席に座り暫く待つと、紅茶が前に置かれた。


独特のメントール系の香りが立ち、飲み口も少しの清涼感と口の中で渋みとコクが広がる。


自慢ではないがメルは紅茶に一時期とてもハマった時期があり、少し詳しかった。


「…ウバか。」


メルのその発言に驚くように目を丸くするチャコ。


「分かるの?」


どうやらこの世界でも名前は同じの様だ。


「えぇ。昔紅茶にハマった時期がありまして、ウバはこの独特の清涼感が特徴ですからね。」


「すごーい!その年でそんなこと分かるだね!大正解だよ。うちはウバは自分の所で育ててるやつだから自身あるんだよ。好き嫌いはあるかもだけどなかなかでしょ?」


自慢気にチャコはニコっと笑う。


「えぇ。とても美味しいです。また来たいと思える味です。また来てもいいですか?。」


メルの一言にチャコは顔を真っ赤に染め上げる。


「い、いいよ!か、必ずだからね!」


「はい。」


メルはニッコリと笑顔を見せたのだった。


そんなこんなであっという間に時間は過ぎ、何事も無かった様にサラとラックスが酒場に降りてきた。


「おう。早いな。」


ラックスが爽やかにそう言うとメルはぎこちなく苦笑いぎみに答える。


「おはようございます。」


(さぞかしスッキリとした素晴らしい朝なのでしょうな。)


そんなメルの表情に首を傾げるラックス。


「ん?何かあったのか?」


(ありましたよ!!見てませんけど声が響いていましたからね!)と叫びたい気持ちを抑えラックスから目線をそらす。


「おいおい。何だよそれは?」


「私達、何かした?」


(お前も同罪だぁ!!!)


「何もないですよ。」


〇〇〇〇。


暫くして、皆が酒場に降りてくると、皆で朝食が済まされる、すぐに馬車屋で馬車を借りに出た。


だが馬車という名前はメルの常識と同じなのだが、引くのは馬ではなく二足歩行の大きなトカゲだった。


だがメルの心情はそんな事よりもいよいよファンタジー感が出てきたと目を輝かせていた。


ここ数日で色んな事が身の回りに起きて、自分の生活は以前と比べ物にならないまったく違う物となり、始めこそ余裕があったものの、オークとの戦いでこの世界の見方も一変した。


その為、他の物に目を傾ける余裕が無かったのだ。


改めてメルは辺りを見渡した。


木で建築されたコテージが建ち並ぶ光景や草木にどこまでも広がる青空。そして、集落を歩く人々の中に武装をしている冒険者風の人達などが様々でメルの中二病の心を震わせるには充分過ぎるほどの夢の絶景だった。


「おーい、早く乗れよぉ。」


ツネオが馬車に早く乗るようメル指示する。


「あ、はい。」と急いで馬車に乗り込むメルだった。



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