第18話 勝手に推します③

さて、久しぶりに推します!

林野火災という言葉はご存知ですか?

ようは山火事なのですが、あまり使わない言葉ですね。この名の詩にぼくはガツンとやられました。清水川涼華さんの『詩集〜春を待ちわびるうた』の一編で『林野火災』という詩です。


まず

ピンポンパンポン…から始まり林野火災が起きました、というアナウンスが流れます。このアナウンスを使うのが秀逸ですね。実際にそんなアナウンスを聞いたことがなくても、ぼくらはアナウンスという形だと耳に入ってきます。それは現実的にあり得るシチュエーションだからです。これが林野火災を知らせるアナウンスが流れた、とかだと説明的で遠い感覚になります。詩に引きこまれる一連目です。あまり解説とかすると面白くないから、これぐらいにしましょう。


清水川さんが暮らす東北の町ではこれが春を知らせる、春を感じるシグナルなわけです。火事というのはよいイメージはありませんね。この詩でもだれのせいでもない、などの言葉で語られながらもやるせなさが、見えます。春のイメージは暖かで、始まりで……と

兎角、綺麗なイメージや言葉で詩を作りがちですが、生まれ来るものがいれば死に行く物や、失われるものもある。当たり前なんだけれどイメージに惑わされると忘れてしまい、口当たりの良い言葉だけで春を語りがちです。


この詩はそうじゃないよ、と語りかけてきます。それは火事だけでなく幸不幸は表裏一体であるし、なにかの犠牲なくしては訪れないことがあること。或いはそれに気づいて惑う人の在りようが見えます。その問いかけは真摯な祈りのようだと思いました。まさに詩を読んだ!という満足感のある作品だと思います。ガツンとやられました!

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