第156話 何度でも何度でも


 吹き荒ぶ強風に守られし戦場。

 竜巻の中では、鉛の銃弾と鉄色の閃刃が飛び交う。

「はははははッ!」

「くっ……!」

 哄笑する男と、睨む少女。

 その少女ノアは現在あまりにも劣勢であった。精霊の力を使わない彼女は、あまりにも無力だったのである。

 風の力のないノアは銃弾の軌道をそらすことは出来ない。どうにかかわそうとするが、八割以上は当たっている。

 才能はあっても使えなければ意味がないのだ。

 また、銃使いの男ラジウムが獲物を変えたのもまた大きい。

「その手元のものはなんだ!」

「拳銃さ。片手に収まる程度の大きさだが、人を殺すのには十分すぎるほどさ」

 懐に忍ばせていたそれは、先ほどよりも初速などが高く、当たったときの傷も大きい。

 無力な少女にはあまりにも強力な武器。援軍はない。

 少女は、もはや満身創痍であった。


 **********


「なるほど……本当にひどい」

「ああ。人のすることじゃねーよ」

 俺こと純也はアリスに夢の中で見た今の状況を語る。

 あの闘技場には魔獣たちが解き放たれている。その下手人はラジウムという教師。俺を気絶させた男だ。

 それによって、生徒たちは大量に殺されていった。

 ラジウムとノアが闘技場の中心に渦巻く竜巻の中で今も交戦中。

 というわけである。

「さて、これからどうする?」

「どうするも何も、助けに行かなきゃ!」

 ……やっぱ、そう来るよな。

 俺は口端をゆがめた。

 今なら、助けられる力はある。全部を救うことは出来なくても……。

 もうすでに失われたものは取り戻せない。けれども、これからなるべく犠牲を減らせるように動くことは出来る。

「じゃあ、行こうぜ。俺たちなら、どんな困難だって越えていける。そうだろ?」

「えっ、初耳」

「あはははは……」

 ……一度言ってみたかっただけだったんだけどな。俺は笑ってごまかす。

 しかし、アリスは目を細めた。

「でも、本当にそんな気がしてきた。一緒に行こう」

「ああ」

 アリスが手を差し出し、俺はそれを握る。

 俺たちは一度笑いあって、それからドアを開けた。


 **********


 そのころ。

 テネシンは純也を狙撃した狙撃手を探していた。

「こ、ここにいるのはわかってるです……で、でてきなさい……」

「声が震えてるよー。腹から声出しなさいッッ!!」

「ぼげふっ」

 ルミナの強烈な腹パンを食らってうずくまるテネシン。

「いだいでず……」

 彼が涙目で訴えるのに気づかずに、ルミナたちはのんきに話す。

「でも、どうして見つからないんだろう」

 スズの疑問に、どうにか回復したテネシンが呟く。

「嫌な予感がします……。そもそも、もともと、可能性は二つに一つだった……。こうでこうでこうだから……」

「ええっと、つまり?」

 セレンが首をかしげると、天才策士は青ざめた表情でとても重大な可能性を告げた。


「……間違えたかもしれない、です」


『は???』


 **********


「うう……。何度見ても気持ち悪いよね……」

「ああ。不謹慎かもしれないけど、確かに……」

 目の前に広がるあまりにも凄惨な光景に、俺たちは二人で青ざめる。

 闘技場に戻ってみると、やはりそこは地獄であった。

 命の価値があまりに低く感じる。生命が冒涜的に抹殺されていく。壊されていく。

 そんな光景に、俺はやはり嫌悪感を示すのであった。

 しかし、その中でも、救える命が少しでもあるならば――。

 そういって周りを見渡したそのときであった。

「誰か、たすけて」

 か細く助けを求める少女がいた。

 小等部の生徒なのだろうか。まだ幼い少女であった。

 まずは手始めに彼女を助けよう。

 決意して手を伸ばした瞬間。


 突如、彼女の体が何かに貫かれた。


 吐血する少女。俺は回復魔法をかけるが。

「効かない……」

 それは、すなわち。

「……また、助けられなかった」

 俺は深いため息をついて、うつむいた。

 少女を殺した虫型魔獣がケタケタと笑うように近づいてくる。

 俺なんかが人を助けるなんて、傲慢だったのか……?

 蟷螂のような腕を振り上げるその魔獣。俺はそれでも自分を守るために剣を抜き――瞬間、その魔獣は爆散する。

「それでも、悲しんでる暇はない。そうでしょ」

「……ああ、そうだな。アリスは強いな」

 俺を諭す少女の頭をなでると、彼女は顔を赤くして少し微笑んだ。

「えへへ……」

 照れくさそうに笑う彼女は、俺の暗くなりかけた心を、あたかも暖かな暖炉の炎のように照らしてくれる。

 ――この光、失わせはしない。

 決意を新たに、俺たちは歩き出した。


 *****お詫び*****


 執筆用のパソコンが壊れてしまい、続きを書くことが出来なくなってしまったため、しばらく休載させていただきます。次回更新は未定となりますが、なるべく三月中の連載再開を目指してまいります。


 物語の続きを待ち望んで下さる読者様方に、作者として、お詫びを申し上げます。


 最高の物語を描くよう、全身全霊努力いたしますので、どうか、純也たちの旅路の続きを期待してお待ちください。お願いいたします。

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