外伝 ツミビトはバツを望む

episode01 罪を知らぬあの頃


 何が罪で、何が罰なんだろう。

 ずっと、考えてた。


 何が正義で、何が悪なのか。

 ずっと、分からなかった。


 僕は、ずっと、何かを秘めてた。

 凶暴性か、悪魔か、狂気か。自分にも、分からない。


 ただ、一つだけ分かるのは。


 僕は、罪人だという事実ことだ。


**********


 僕たちは、エンテの町を発った後、ゆっくりと旅をしていた。

 聞けば、王都への中間地点まであと十日はかかるそうだ。

 まあ、馬車を借りる事ができただけまだましか。

 そして、一日目の夜。同じテントに泊まることになった友人が話しかける。

「そういえば、あなたって何で転生することになったんですか?」

「ああ、気になる気になる~」

 純也とラビ。若い男子二人である。

「純也には説明したよね」

「そうだったっけ」

「まあいいや。詳しく説明しよう」

 そういうと、ラビが身を乗り出した。

「おっ! ありがとうございま……」

平静サニティ睡眠スリープ

 僕は、ラビだけを眠らせた。

「何でラビを眠らせたんだ?」

「今から話すことは、異世界人が聞くとSAN値チェックが入っちゃいそうな内容だからね。こういうことは同郷の者にしか話せないよ」

「ああ、そういうことか」

 僕が生まれた世界は、ここではない。僕は、読者の皆さんがよく知る地球、それも日本で生まれ育った人間である。そのことはさまざまな理由で、この世界のさまざまな地域に伝わっている。

 そして、いま隣にいる純也も同じ国で生まれ育ったのだが、彼の場合はそれを知られてはいない。また、諸事情とかで隠している。

「どうせだし、僕の向こうにいた頃のことも話そう。懐かしいな」

「ああ、確か、ヤンキーをやってたんだろ?」

「なんだ、覚えてるじゃないか」

「あはははは~」

「まあいいや。そのとおり。僕は、不良グループの頭だったんだ。話すと長くなるけど、いいかい?」

「ああ。そもそもそのつもりだし」

「じゃあ、語ろう。一年近く前になるかな。2016年ぐらい。僕、血臭ちぐさ ゆうは、横浜のとある地域を統べる不良グループ“菩殺ボサツ組”の組長をしていたんだ――」

「いや、名字がものすごく剣呑だな!?」


**********

 

 僕はヤクザの息子なんかじゃないけど、気はすっごく強かった。喧嘩っ早くて、小学校の頃から気に食わないやつと喧嘩して、舎弟にしてたな。懐かしいことだ。

 そんなこんなで中学生になった頃、その舎弟たちとともに他校に殴りこみにいって、さまざまなやつらを仲間につけていった。

 ヤクザの息子だったり、政界に強いコネクターを持つ高校生だったり、暴走族を丸ごと味方につけたり。

 次第に仲間は多くなり、僕のグループは大きくなっていき、高校生になったときには、自然に巨大不良グループができていた。それが菩殺組である。ちなみに、その名前にした理由は「かっこいいから」である。

 高校は入って一週間で全校生徒を味方につけ、地域の不良たちのほとんどが僕に従うようになった。つまり、それはその町を統一してしまったということだった。

 その頃のあだ名は、「人脈と悪評には定評のある化け物」とか、「無敗の喧嘩屋高校生」など。そのとき、僕は負けた事がなかった。

 僕は、少年漫画のヤンキー主人公のような奴になりたかった。強くて、かっこよくて、やさしくて、人望もある。そんな最高の人間に。

 だから、自分は弱いものはなるべく傷つけなかった。仲間がやってもなるべく咎めていた。

 でも、よく人を殺していた。倒すべき者や、殺したいと本気で思った者などは、何も考えずに殺していた。今考えると愚かなことだったと思う。

 だから、僕は罰を受けた。


 ある日、僕はツーリングをしているとき、とある駅の駅前広場を通りかかった。その近くのコンビニで飲み物を買おうとしていた。

 そんな時、改札の前で知らない男が僕を殺そうと突進してきた。包丁を持ち、そのは先を僕の腹部に突き刺そうとするように。

 僕はとっさにかわした。

「何の用だ。俺は今忙しいんだよ」

「ははっ、そんなの関係ねぇぜ。殺してやる……」

「それは、相手が悪かったようだな! ちょうどいい、そっちがその気なら、俺は全力で殺し返してやろう!」

 そんな言葉の掛け合いをして、僕はその人生で最後になった殺し合い(けんか)を始めた。


**********


「その頃のお前って、今とは口調も何もかも違ったんだな」

「うん。なんか、不思議な気分。そのころのことを思い出してみると、自分じゃない誰かの記憶を思い出しているような気分。でも、それは紛れもなく自分の記憶なんだよ」

「へえ、そうなのか。でも、殺戮形態ジェノサイドモードの時ともまた違うな」

「そうなんだよ。それは、僕の罪と罰の末に出来てしまった、禁忌の人格なのだから」

「…………」

「では、続きを話そうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る