五月四日

 早くに目が覚めたので散歩。下弦に向かう月が白いすがたで西に、出て間もない日が東の雲間にある。ふたつの星は静かに村の道を見つめている。

 西から吹きおりてくる風で、日かげに入れば肌寒い。なにも考えずに歩いているうちに、日も思い出したか、新鮮なひかりを寄越よこして空気の輪郭りんかくまでをぴかぴかにする。じわりとぬくもるのがありがたくて立ちどまり、背で日向ぼっこをする。

 水田に自分のかげが長く落ちる。青い空と杉山が映っている。いったい如何どうして描いた水彩だろう。よく見ると咲き残るミズキもある。


 庭に戻って草取り、いくつか花後の剪定せんていをする。涼しいうちに終えるつもりが、あれこれとよくって昼過ぎまでかかる。

 ちゅう、妹夫婦が寄っていった。この連休に出掛けたとかで土産を置いていく。焼き菓子とハーブティー、花苗、ボディミルク。美味しいもの、綺麗なもの、いい香りのもの。

 家のひとが花苗をさっそく植えつける。いま、これを書きながらカモミールティーをいただいている。


 夜。視界いっぱいにまたたく星。あれは過去のひかりだけれども、現在に届く生身でもある。わたしたちはたしかに触れ合う。そこに偶発的贈与としての永遠がある。

 (……わたしは化石や鉱石に、そしてつづられた文字に、これと等しいものを感じる。地層やページをめくるとき、そこに生息いきている過去かつてと生きる。)

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