第41話 偽りの神
ジュネーブ 国際連合本部1F大会議場
「只今より、国際連合定時総会を開会致します」
大会議場は人に溢れかえっていた。加盟国全ての代表が揃うその様はいかにも荘厳なものに感じられる。
「始まってしまったか……… 」
フェルディナンドは工場の控え室にかけられた壁型テレビで会議の様子をライブで見ていた。その結果を知っているにも関わらず、その茶番を見ずにはいられなかった。
「世界は変わるだろうな、しかしそれはどう転ぶかすら分からない」
恐怖からである。彼はこれから起こることを未だに把握しきれていない。
「一体どうやって議会を掌握するつもりだ? アルバートさんも劉さんも不祥事騒動の渦中だというのに」
フェルディナンドが気になるのはその一点のみで他は正直どうでもよかった。
「それではまず、緊急の議題としてアルフレッド=ゴードン理事からお話が上がっておりますのでそちらの方からお願い致します」
緊急の議題だというのに、議場は一切のざわつきを見せることなく会議が進行していき、慌てているのはむしろ他の理事たちの方である。
「ではまず私の方から一点。これはかなり緊急性の高い議題であると判断したためこの場でお話しすべきと思い、失礼をおかけしていることを先にお詫びしておきます」
アルフレッドが中央にある壇に上がり一礼する。そして待機人員を使って資料を全員に配布し始めた。
「まずはそちらの資料を皆様にご覧頂きたい。それは国連の会計監査局が作成した過去5年分の交際費のデータです。明らかに私以外の9人の交際費が高いのが分かるかと思います」
我々としか会わないのだから当たり前だろう、と毒を吐きながらフェルディナンドは画面とにらめっこを続ける。
「さて、この違いはなんなのか。私は恐らく『贈賄』だろうと践ふんでおります」
他の理事は一斉に「ふざけるな! 」、「貴様だって大企業とつるんでいるだろうが!! 」
と叫ぶが、アルフレッドが原稿台を叩き場は静寂を取り戻した。
「私個人が企業人と食事をするのと国際調停力を持つ国連理事が国家の代表と私的交流をするのは訳が違うと思いますが? 」
ぐうの音も出ない正論に理事たちは静まりかえる。
「資料二枚目には各国大使による証言を掲載しております。それを見る限り、彼らの傲慢さを理解して頂けるでしょう」
場の空気が一色に染まったのがテレビ越しのフェルディナンドも瞬時に理解した。そして、正しくフェルディナンドの予想した最も危険なシナリオがアルフレッドの口から放たれた。
「己の地位を守るために賄賂を使うなど言語道断! 私はこの場を借りて彼等の弾劾投票を実施したい!! 」
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そこから先は速かった。恐らくは他の理事よりも多くの金を積んで大使たちを丸め込んだのだろう。通常二回行われる全員投票は満場一致により一回で終わりとなり、当面の理事長をアルフレッドが勤めることすらその場で決まった。
「やはりか、流石と評価すべきなのか……… 」
その時、手元においてあった内線機が突然鳴り始め、フェルディナンドは慌てて受話器を取る。
「なんだ? 」
「やぁフェルディナンド君、私だよ」
「あぁ劉さん、お久しぶりです」
アルフレッドからの直通電話ではないことを安堵しつつ、フェルディナンド劉に話のは続きを促した。
「次の会議でHiveに対する武力制圧が承諾される。一週間以内にも攻撃を開始したいそうだ」
「量産型第五世代ですか? 今からなら90が関の山ですかね。残りは揃えられますか? 」
「任せたまえ、40ならばどうにかなる。パイロットの方が危ういくらいだな」
なぜこんな話をしながら笑えるのか、とフェルディナンドは恐怖を感じた。劉が電話を切ったのを確認して、フェルディナンドは更に別の場所に電話をかけ始めた。
「あ、フィリップさんか? 私だ、フェルディナンドだよ。緊急に連絡したいことがあるんだが、今空いているか?…… 」
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