第28話 捨ててはいけないもの

面制圧用弾頭の威力はすさまじく、たったの数発で研究所とその周辺施設を更地に変えた。


「これも任務よ、許してね」


勿論、フォックスに慈悲の二文字は通用しない。任務と決めた以上は全力で破壊するのが彼なのである。


「そろそろ頃合いかね」


まるで巣穴を潰された蟻のようにわらわらとギアが現れ、フォックスの乗るゼロを目指して丘を登ってくる。


「ダッシュホバーか。そうそう、それでいいのよ」


敵がこちらに向かってくることを確認して、ゼロが微速後退する。そしてフォックスが陣取っていた場所を越えようとしたその時、敵の隊列が突如炎と爆煙に包まれた。


「ほんと、なんにでも使えるよな面制圧用弾頭あれ」


要はワイヤートラップである。界人が照準を定めている間にワイヤーを巻いていたのもこのためで、フォックスの抜け目のなさを暗に意味していた。


「さてと、じゃあこれで……!! 」


突如、爆煙の向こう側から繰り出されたナイフを腕の装甲の丸みを使っていなしつつバックステップで間合いをとるフォックス。そこには、もはや原型を留めていないようなギアの残骸の山を踏み分けながらゼロに近付くギアがあった。フォックス機を意識しているのか、明らかに黒く塗り直しているのが見てとれる。


「仕方ない、このスタイルは好みじゃないんだが…… 」


今回、ゼロの腰には一見防御用のアーマーに見えるパーツが装着されている。フォックスがタッチパネルを操作するとアーマーから持ち手が展開し、一枚の板状だったアーマーは変形して刃となり小太刀の様な直刀へと変形した。


「……ん?なんぞこれ」


突如敵機から通信が来ていると画面に表示された。罠ではないことを確認して通信を受け取ると、そこには薄暗いコックピットに鎮座する一人の男の姿があった。


「!!! 」


そこに写る男の顔を見てフォックスは衝撃を受けたが、それもそのはずである。


「ロバート……お前変わったな」


画面越しにもわかるほどに血走った目は今の彼の異常さを物語っていた。フォックスはその目と周りの惨状を見比べて、一つの結論にたどり着いた。


「『人為調整』か、つまらんことをしよる…… 」


「中々いい戦いをするじゃねえか」


既にマチェットの片方は折れてしまった。今までの中でも最高クラスに緊張する中で、フォックスはロバートとナイフを会わせるたびに笑いが溢れた。


「フッ、ククク……ハッハッハッハ!! 」


「……何が可笑しい? 」


ロバートは突きを止めることはない。ただひたすらに、フォックスの命を一撃で止めうるだろう容赦のない突きを繰り出している。しかし、その突きは全てフォックスに捌かれ、いなされ、当たることはない。


「なにがって、お前の弱さに笑いが止まらねぇのさ。それくらい理解しろよ」


「そんナはずハない!私ハ…… 」


「『感情を捨てた』ってか?ハッ、馬鹿馬鹿しい事だ 」


突如ロバート機の動きを避けることに徹していたゼロがカウンターのハイキックを入れる。体勢を建て直そうとするロバート機に向かって更なる突進をかけ、マチェットの刃をロバート機の右肘に引っかける。反撃のために起き上がった相手の顔面に膝蹴りを入れ、地面に押し倒した。


「最後まで最良の一手にこだわったろ?コンピューターならいざ知らず、人間相手には一番やっちゃいかんことだと教えなかったか? 」


「……俺は……オレハァ!! 」


「俺の戦い方を否定したかったんだろ?甘いなぁ、ギアの戦い方に正解なんかねぇんだよ! 」


ロバートは諦めずに抵抗しようとするが、マウントを取られた状態から手出し出来るわけもなくゼロにねじ伏せられた。


「とどのつまり、人間の本当の強さは『感情』だよ。それを捨てたんだから弱いのは必然だと心得ろ、ロバート」


「ウウウゥゥゥ……アアアァァァァ!! 」


踏みつけでロバート機の両の脚をへし折り、腕の付け根の油圧ポンプをマチェットで破断するフォックス。その顔には、かつての部下であったはずのロバートに対する情の一片もなかった。


「己の戦い方を見つめ直せ。俺と戦いたければそっから出直せ」


「待て!マテェェェェ!! 」


暴れるロバートを尻目に通信を切り、無惨な敵の残骸を放置してフォックスはジェットパックを背負い上げ、夜の空へと消えていった。

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