ホドローヴナの昔語り

忌まわしいだろう、この老婆の目つき、うずうずしているんだ、お前たちの魂を永遠に呪い、穢し、縛り付ける、おとぎ話を語りたくて仕方ないんだ。忌まわしいか? 石を投げたいか? 今すぐくびり殺してしまいたいか? だがお前たちは聞かなくてはならない、耳を傾けるんだ、この婆さんの口から泣き叫んで飛び出してくる全ての単語が逃げ込めるように。言葉がお前たちの耳の数だけ分裂して増殖し、ますます力を増すようにだ。そうすればお前たちも俺と同じになる。さあ婆さん、話せ、話すんだ。今度こそ俺は死ぬだろう。お前のその声を聴くことに、耐えられるのは今日が最後だ。



「………………………………それは蝶だったよ。空を埋め尽くす何もかもが蝶、この世全部の蝶がそこにいたんだ。気が狂ったのかと思った。盗賊が連れてきたんだ。盗賊は残酷だった。あたしをご覧。とても神がお創りになった生き物とは思えないだろう? 絶対に癒えることはないんだ。蝶のなかで山賊だけがよく見えた。親子を無理矢理に交わせた。みんな貴族みたいなきらきらした服を着てた。血や泥や臓物だよ。あんなにきらきらするんだ。子供を容赦しなかった。変な虫を植え付けてね。体中の皮が破れたら、蝶が卵を産み付ける。あたしは盗賊の首領を見た。おっ母さんの首を両手で抱えて、鼻の穴から出てくる変な液を舐め取っていたら、奴の輿が通った。まるでミイラみたいな男だった。でも生きて動いてた。目がなかった。手を変なぐあいに動かして指揮を取っていた。おかしなオーケストラの指揮者ってところさ。蝶は喜んだ。首領が蝶の一番の喜びで、すべてなんだ。私たちは蹂躙された。蝶はそのことも喜んだ。幸せが村いっぱいに詰まってたよ。みんな笑ってた。蝶の笑いでいっぱいだった。世界で一番あたしたちの村が幸せな場所だった。幸せじゃないのは生きてるあたしと子供たちくらいなものさ。あとで知ったが、首領はチダーヂュヴォという男だった。三度絞首刑になっても死ななかった。終いにゃ火薬をしこたま詰め込まれて爆破された。それでも肉片は西へ西へと動いたそうだ。西へ、少しでもイツルァパーサの都から遠くへ。しぶとく従う蝶もいたという。一万か、二万か。あの男、今はどれくらい進んだかねえ、永遠に逃げ続けるのかねえ?…………………………………」


 ホドローヴナと紹介された老婆の話が進むにつれ、男は苦しんだ。話が終わると、男は自分の舌を目にねじこんで、耳から出し、首に巻き付けた。自分の舌で首の骨をへし折ったのが男の死因だった。最後の言葉は、イツルァパーサ。

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