人が恋に落ちるのは、万有引力のせいではない。ⅩⅠ
***
「皆さん班になれましたか? 次はここから公平を期して、くじで男女の混合班を決めていきます!!」
相変わらず動物園みたいに騒がしい教室が、静まる事はないのだろう。
深夜になると妙なテンションになることを深夜テンションと言うが、これも似たようなもので、ホームルームは通常授業と違って先生が黒板に板書する、それをノートに取るという作業がない為、生徒達も席に座っているだけだから世間話を始めたり、ふざけ始めたりしてこの状況を作り上げるんだ。
教卓の前の委員長がもう話を聞いてと身勝手なクラスメイトに地団駄を踏む。
その横では悠々自適に惰眠を貪る担任。てか、こんなうっさいのに何で眠れるんだよ、あの人。
「デュフ。今地団駄を踏んだ委員長、胸が揺れたね」
僕の横で腕を組んで教卓の方を見つめる佐藤が不敵な笑みを浮かべて言った。
「拙者も見たで候。流石Eカップ。元気がいいで候」
更にその横で腕を組む、というか脇の下に手を挟んで教卓の委員長を見る鈴木が続いた。
うちのクラス委員長、桃園さくらは委員長のテンプレの様な人だ。
委員長の手本。委員長の鑑。委員長といえば、桃園さくら。桃園さくらといえば委員長と語れる程に彼女という人間は委員長気質というか、委員長になる為に生まれてきたと言えちゃうくらいに委員長なのだ。
委員長のテンプレその一。
成績優秀。勉強も運動も出来る文武両道が委員長の基本となる。
委員長のテンプレその二。
品行方正。性格が真面目で曲がった事が嫌いな完璧主義者。
委員長のテンプレその三。
メガネ。委員長にメガネが多いのは、おそらく真面目=メガネが根強く印象づいているからであろう。
委員長のテンプレその四。
巨乳。これに関してはただの願望。貧乳の委員長もいるだろうが、世の男子生徒に夢は必要だ。
たった四点で桃園さくらがどんな人か分かってもらえたと思う。
すーぱーテンプレ委員長、それが桃園さくらだ。
「ほぉ、委員長がEカップですと。デュフデュフ」
「拙者の調べでは、先月がD。この一ヶ月でカップ数を上げる成長ぶりを見せているで候」
「それはけしからんですな。フンフン」
僕の横でぶつぶつ会話をする佐藤と鈴木は興奮気味に鼻から息をフンフンと出して委員長を見る。
何て下世話な話してんだこいつら。自分らが学園カースト底辺である自覚がないのか。そんな話上位カーストに聞かれでもしたら、学校生活終わるぞ。
(僕、こいつらと友達でいいのかな……)
かなり心配になる。
にしても委員長も大変だな。巨乳というだけで変な目で見られて。しかも委員長なかなかの美人だし。
まぁ、思春期真っ盛りの男子高校生なんてこんなモンだ。基本エロい事しか考えてない。
「静かにして下さい!! 今から班の代表を決めて、くじを引いてもらいます。同じ番号だった所が班になります」
必至に声を張り上げて説明する委員長。
何とか順番にくじを引かせるところまで来てクラスメイト達はくじを引いていく。このやたらうるさい動物園クラスをしっかり引っ張っている委員長はやはり僕達の委員長なのだ。
「ではここは不肖、この佐藤めがくじを引かせて頂こうかな」
順番が周ってきて、佐藤がそう言ってメガネをくいっと上げて箱に手を突っ込んだ。
「七番だ」
あまりにもくじを引く速度が早すぎる。僕にとってはリベンジマッチなんだ。もっと慎重に頼む佐藤。
といってももうくじは引いてしまったし、男子が先にくじを引いたから後は毒ヶ杜さん達の班が七番を引けばリベンジ達成。
晴れて修学旅行毒ヶ杜さんと同じ班になれる。
男子がくじを引き終わり、いよいよ女子が引く番になる。
もう後は神頼み。僕は祈って見守る事しか出来ないが必至に両手を組んで切に願う。
みれば毒ヶ杜さんの班は木下がくじを引くようだ。
(頼むぞ、木下七番引けよ……)
木下がぎゃあぎゃあ言って箱に手を入れる。
時間をかけてごそごそと箱の中をかき回す。
「これにするぅ」
そう言った木下は箱から手を出すと、くじを見て言った。
「七番」
刹那、僕の中の時が止まった。
えっ? 今何て言った? 七番? 七番って言ったの? 僕等何番だっけ? ……七番じゃん!!
(いえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!!!!!!)
僕は心の中で思い切り叫んだ。
ナイスぅ木下!! よくやった。お前の事少しだけ見直したぞぉ!!
「それじゃ毒ヶ杜さん達の班は目島君達と同じ班ね」
委員長がそう言って記録を残す。
遠くでは木下と冷百合が何かぶつぶつ言っているが気にしない。
「目島君、同じ班だね。よろしくね」
「うわっ!! 毒ヶ杜さん。いつの間に……」
気づいたら僕の横に毒ヶ杜さんが立っていて、素直に驚く。
「驚きすぎだよ。よろしく言いに来ただけなのに」
「ご、ごめん。こちらこそ、よ、よろしくね」
毒ヶ杜さんはうんと深く頷いて、にこっと笑った。
「じゃあ私戻るね」
そう言い残して毒ヶ杜さんは自分の席に戻っていった。
横を見れば佐藤と鈴木が下を向いてもじもじしている。
「何してるの?」
「毒ヶ杜さんが来て、恥ずかしくなってしまった……デュフ」
「右に同じ……候」
(いや、恥ずかしくなっちゃったって乙女か!!)
心の中で突っ込んで、はははと愛想笑いをする。
とはいえ、僕のリベンジは達成され、無事毒ヶ杜さんと同じ班を獲得したのだった。
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