第6話 ナルとメル、人気者になる
学校に行ったら、公園であったことをキャシーが皆に話したの。
あ、キャシーっていうのはキャサリンのことね。
これからはそう呼んでちょうだいって言ってたから、そう呼ぶことにしたの。
キャシーの話を聞いた男の子が、大きな声で言ったの。
「おーい、みんな!
ナルちゃんとメルちゃんが、テンペのやつらをやっつけてくれたんだって」
そうすると、みんなが集まってきたの。
「ナルちゃん、本当?
私、いつもあいつにイジワルされてたの」
「ボクもいつもお菓子とられてた」
「私なんかママが買ってくれたばかりの服をよごされたのよ」
あの三人は、みんなにイジワルしてたみたい。
それから、みんなは、自分がどんなイジワルされたか、いっぱい話してくれたの。
ファーグス先生が来ても、しばらく私とメルの机から離れなかったんだよ。
◇
その日、キャシーと三人で帰っていたら、公園の所で、また三人が待ってたの。
私を木の棒でたたいてきた男の子は、手に包帯を巻いてたわ。
公園の木から生えてた二人の男の子は、顔が傷だらけになってた。
そして、三人のほかにも、もっと大きな男の子が三人いたの。
背が大人ぐらいあるかしら。
「で、お前たちがやられたってやつは、どこにいる?」
大きい方の子供がケガをしている子供たちに尋ねてる。
「こ、こいつです」
「えっ!?
この白い髪の女の子か?」
「は、はいっ」
「お前らなんで、こんなちっちゃな女の子に負けてんだ!」
なんか、小さい三人がしかられているみたい。
「で、でも、すごく強くて……」
「馬鹿を言うな!
こんな子が強いわけないだろ」
「でも……」
「ほれ、こうやってちょっと押しただけで――」
その大きな男の子は、メルを軽く押そうとしたんだと思う。
でも、メルは、今朝の事があるから攻撃されたって思ったんでしょう。
その手をつかむと、ぽいって投げたの。
大きな足が、公園の木から生えた。
「な、なんだこいつっ!」
隣の大きな男の子が、メルを突きとばそうとしたの。
こうなると、私もだまっていられないわね。
その男の子の手を取って、ひょいって、木から生やしてあげたわ。
最後の一人は、ブルブルふるえていたけど、「わーっ!」て言って、急に走っていっちゃった。
その子がそういうことをしたのが、一番のナゾだったわ。
◇
次の日学校に行くと、体の大きな女の人や男の人がいっぱい教室にいたの。
「君達がブロワをやっつけてくれた子かい?」
「ええ、ナルとメルがやったのよ」
いつもは小さな声のキャシーが、胸をはって大きな声を出したから、少し驚いたの。
「君たち、本当にありがとう。
いつもあいつらにイジワルされてたんだよ」
「私からもお礼を言わせてちょうだい。
嫌な奴らをやっつけてくれてありがとう」
それからもたくさん大きな人がお礼に来たの。
キャシーによると、『じょーきゅーせー』って言うみたい。
いろんなお菓子をいっぱいもらっちゃった。
これ食べてもいいのかしら。
あら、メルは、もう食べちゃった。
その日は、たくさんの人と一緒に家に帰ったの。
ワイワイおしゃべりして、とても楽しかったのよ。
◇
次の日は、学校に行く途中に誰も出てこなかったわ。
でも、お菓子がもらえてメルが喜ぶなら、一人くらい出てきてもよかったけど。
そのかわり、帰りに公園を通るときに、たくさん大きな人が待ってたの。
「おい、ブロワ坊ちゃんにケガさせたってのはお前たちか?」
「だけど、ジークさん、こんな小さな娘っ子が本当に坊ちゃんをやっつけたんですかい?」
「それはそうだが、髪が銀色の女の子っていや、そうそういないだろう」
この人たちは、もう子供じゃないわね。
あごにおヒゲが生えてるもの。
騒いでいたから、たくさんの人が公園に集まってきたの。
「おい、そんな小さな子に何かするつもりか?」
そう言ったのは、いつかマンマが連れて行ってくれたパン屋さんね。
「年は関係ねえんだよ。
坊ちゃんがやられたからにゃ、ただじゃおかない」
ヒゲのおじさんが、言いかえしてる。
「あんたたち!
いい年して、なに寝ごと言ってんだい。
こんな小さな子に何かしようなんて、女王様が許さないよ」
この人は、最近食べに行ったカラス亭のおばちゃんね。
赤い柄がついたお玉をヒゲのおじさんの方に突きだしているわ。
あれ? 学校でそうじしてた、じーじによく似たおじいさんも近くでこちらを見てるわね。
「うるせえんだよ。
おい、そいつらも一緒にやっちまえ」
ヒゲのおじさんが、後ろに並んでた男の人たちにそう言ったの。
ココココーン
なに? この音。
あ、ヒゲのおじさんや、その後ろにいた男の人たちが、頭を抱えてうずくまってる。
そうじのおじいさんが、手に赤いお玉を持ってるわね。
もう片方の手にあるのは、ヒゲのおじさんたちが持っていた武器ね。
おじいさんは、それをパン屋のおじさんに渡すと、うなずいたの。
それからみんなは、うずくまったままのおじさんたちは放っておいて、おウチに帰ったんだよ。
あのおじさんたち、一体どうしてうずくまってたのかしら。
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