最終話 エピローグ/Alive
「行って来まーす!」
私、
今日から高校生!
危うく中学校に繋がる道を進みそうになりながら、高校へと繋がるこれからの通学路に引き返し、進んでいく。
桜は満開で、花びらがひらひらと、とってもきれいだった。
「遅いわよ、《ネコ》」
私をあだ名で呼ぶのは
「ごめんねハトちゃん、つい桜に見とれちゃって、えへへ」
「全く、アンタはいっつもそうなんだから、ほら行くわよ」
「ああ、待って待って」
「急がないと遅刻するわよ、入学早々そんなの嫌でしょ」
早歩きで進む私たち、高校が近づくにつれ、同じ制服の子達が増えてくる。
そんな道の途中で、もう一人の友達を見つける。
「おはよー、マチちゃん」
「おはよ、マチ」
「おはよう、ハト、ネコ」
なんだかまるで本当の鳩と猫に言うみたいな口調であいさつを返したのは
いつもこの三人で、過ごすことが多い。
だけど、たまに私ってばボッーとしちゃうこととかあって。
そんな時、ふと二人じゃない誰かのことを思い出しているんだけど――
「ちょっとネコ? アンタまた意識飛んでるわよ」
ハトちゃんのデコピン! 私に1ダメージ!
「わわっごめん! ってもう別に飛んでないってばー、ちょっと考え事してただけなのにー、痛いなーもう」
「ごめんごめん、だってアンタ危なっかしいんだもの、小学校のことだってあやうくドブの中に――」
「わーわー! その話はもうやめてよー!」
「へぇ、気になるわねその話」
「もうマチちゃんまでー!」
マチちゃんは中学からの友達だから、私の小学校時代の苦い思い出は知らないのだ……そしてこれからも知らなくていい……。
「後でこっそり教えてあげる」
小声でマチちゃんに伝えようとするハトちゃん。
「ちょっと聞こえてるからね!」
「あちゃあバレたかー」
「残念ね……」
マチちゃん、なんか本気でがっかりしてる?そんなに聞きたかったのかなぁ……。
「そういえばクラス一緒になれるかな?」
「さぁ、そんなのわからないわよ、神様でもあるまいし、マチ、アンタなら確率とか計算できるんじゃないの?」
「そうねぇ、一緒かもしれないし、一緒じゃないかもしれない。二分の一ってとこかしら?」
「計算してないじゃん! 絶対違うよそれ!」
そんな他愛もない話をしていたら、高校が見えてきて、あっというまに校門に着いた。
「おおー、結構大きいねー」
「いや、前にも見に来たことあるでしょ」
「あれそうだっけ、えへへ」
校門をくぐり、新入生を出迎える先生に挨拶してから、入学式の行われる体育館へと向かう。
「そういえば二人は知ってる?この学校の噂」
体育館に通じる渡り廊下のところで、マチちゃんが言った。
「なによ、七不思議かなにか?」
「えぇ、怖いのはちょっと……」
「違うわよ、ほらなんて言ったかしら不可侵の――」
「『不可侵の世界樹』! なになに! ここにあるの!?」
「アンタ、ホントにその話好きよねぇ、なにがそんなにいいんだか」
「だってだって、世界のどこかにあるたった一本の木、その下で眠ると願いが叶うって!なんか素敵じゃん!」
「はいはい、でマチ、あるの? 本当にこの学校に?」
「世界樹そのものじゃなくて、そこに通じる階段か、廊下か、はたまた扉があるらしいわ」
「なによその曖昧な情報は……」
「すごい!」
ハトちゃんは呆れているけど、私にとってはビックニュース!
これからは校内散策が私のライフワークになってしまう!
「ネコ、アンタ校内探し回ろうってんじゃないでしょうね?一年生の間くらいは大人しくしてなさいよ?」
「えぇー」
なぜバレてしまったんだろう……。
まぁやるけどね!
「ほら、そろそろ入学式始まるわよ」
いつのまにやら話の発端であるマチちゃんが先行している。
「置いてかないでー!」
「まったくもう……」
二人して、マチちゃんへと付いていく。
滞りなく進む入学式、その後にクラスの案内を見て、それぞれのクラスへ。
そう……なんと二人と別れてしまった……無念。
新しい友達出来るかなー、なんて思いながら席に座る。
普通なら五十音順になるであろう席順は、何故か私が窓際の一番後ろから一個前に。
何故だろう……いや廊下側を最初にして、順番に行けばハ行がこの位置は普通にあり得るか……。
私の後ろの子は、同じハ行だろうかマ行だろうかワ行だろうか……。
そんなどうでもいいことを考えているうちに私の後ろの席に誰か座る音。
思わず振り向いてしまって、目が合ってしまって。
そこにいたのはなんと
うちの高校は女子でもズボンの着用が可能なので、それで判別はできない。
ああ、男子がスカートをはくことについては知らないけど、まあ多分オッケー。
いやそれよりがっつり目があってしまっている。
「えと、あの、あはは、私、箱根音子……ていうんだ。えっとよろしくね?」
なんかドギマギしてしまった。
なんだろうこの気分、緊張とは違う、なんか久しぶり過ぎて、改めて挨拶するのが気恥ずかしい……みたいな。
「……僕は
開いていた窓から吹く一陣の風、桜の花びらが何枚か入り込んでくる。
「……けだま、ケダマ、毛玉。そっか、そうなんだ……ねぇ私もそう呼んでもいい?代わりに私のことは『ネコ』って呼んで」
なぜか、私の胸に去来した気持ちは、とても懐かしく温かく、そしてどこか寂し気だった。
普通なら、毛玉なんてあだ名、変だと思ったり、いじめかなにかだと思ったりするだろうに。
私はとっても素敵だと、まるで自分で名付けたような気分でいた。
「喜んで、ネコ」
その返事を聞いた時、私はきっと木漏れ日の下にいた。
本当は教室の中だけど、それでもきっと、願いが叶う木の下で、この子の頭を撫でながら微睡んでいたのだ。
だけどそのまま眠る必要はない。
だってもう願いは叶ったから――――――
進歩の道、微睡むことなく、止まることなく生き続ける。
その先に、きっと幸福がまっていると信じて。
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