第6話 Create And Trash
世界樹の枝にいつの間にか出来ていた鳥の巣。
それはとても巨大で、中にある卵もキャットが中に入れそうなほど大きく、だからこそ、なぜいままで気づかなかったのか不思議でしょうがない。
ならば答えは限られてくる。
もともとはこの大きさではなかった。
巨大化した。
成長したのだ。
いままでは小さかったから気づかなかった。
だがキャットと毛玉が山へと行っているその間にここまで大きくなった。
そして今、生まれようとしている。
ピキピキピキッ、と勢いよくひびが拡大していく、そしてバリンッというどこか小気味よい音を立ててそこから人間の手が飛び出した。
「あれは……」
突然の光景に息を呑んでいたキャットもたまらず声を出す。
毛玉は警戒し、毛並みを逆立たせている。
卵から出た手は、そのまま殻を内側から砕いていく、そして露わになるその中身。
それはまさしく少女としか形容できない存在であった。
青い髪は左右二つに束ねられ、緑の服はいわゆるワンピース、少し日焼けしたような褐色の肌。
なにもかもキャットとは違う、けれども少女には間違いない。
その黒い瞳がこちらを捉える。
「CAT! まさか、このアタシがこんな形で起動することになるなんて思いもしなかったわ!」
「しーえーてぃー?」
キャットは小首を傾げる、正直、その単語以外にも疑問は大量にある。
だが褐色の少女は続けて言う。
「あんたのことよCreateAndTrash! BOXの管理者!自分の役割も忘れたの!?」
信じられないものを見るような目つきと言い方でキャットを糾弾する少女。
「あなたは誰ですか? キャットのコードを知っているということは……」
箱の外、人類、もしくは人類側の使者。
「はぁ? あんたこそ誰よ‼ 生物の生成はアタシの担当なのに、なんでもう知的生命がいるわけ! しかもこんなへんちくりんな!」
「へんちくっ……」
流石の毛玉も少しショックを受けたらしい。
だが話は続く。
「まあいいわ、知らないなら教えてあげる。私の
「そうなのね、私はキャット、キャット・ライブス・ダイスよ、よろしくね?」
自己紹介し、頭を下げるキャット、しかしそれを見て聞いて、EGGは怪訝な顔をする。
「キャット……ライブス・ダイス? キャットはCATから来たとして、後ろのはどっから来たのよ」
そんなもの存在しないはずだわ、EGGは言う。
「メタがそう呼んだの、あとこの毛玉、話し相手を創るといいって言ったのもメタ」
そのメタ以来である毛玉以外との会話に、キャットは少し口が軽くなる。
しかし、EGGは未だ腑に落ちないようだ。
「メタ……ねぇ、まあいいわ、なんか突っ込んでも私に関係した情報なさそうだし」
そういって本当にキャットに興味を失くしたように辺りを見回すEGG。
「まだなんにも出来てないじゃない。道理で私が自己生成されるはずだわ」
「ちょっと待ってください!? 自己生成!?」
BOX内の全ての創造は一括してキャットが担っているはずだ。
それなのに自己生成とは一体全体どういうことだと毛玉は吠える。
「まさかまだわかってないの? BOXの自動更新機能が作動したのよ。アンタらがちっとも世界を生成しないから、そういう時のためのセーフティが動いたってわけ! おわかり?」
毛玉はキャット以外の者にあったことはない。
しかしこの少女は流石に他者に対して失礼な部類にはいるタイプだという印象を抱くのだった。
それはむしろキャットしか知らないから抱いた感情かもしないが。
キャットはいまいち話を飲み込めていないようだった。
情報リミッターの解除はされなかったらしい。
「それで、あなたのことはなんて呼んだらいいかしら、えんどれす?えぼるぶ?げのむ?」
「それは名前じゃなくてコードよ、アタシ、いやアタシ達の存在意義、でもそうね……あんたに倣えば『エッグ』ってところだけど、それじゃ芸がないわ!」
なぜか知らないがどこか楽しげな少女は、高らかに宣言する。
さっきからずっと世界樹の枝の上にいるので、まさしく高らかに。
「ピジョン! ピジョン・エボルブ・セオリー! 有名な進化論とその発端に敬意を表してアタシの名前とするわ!」
ここに、BOX第三の住人、ピジョンがその名を轟かせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます