死者の王国8

 それから一行はしばらく道のりに進んでいった。あれ以降、アンデッドはただの一体たりとも出てこなかった。


 相変わらずの凸凹道を抜け、上層にあった道と同じような周囲を木枠で補強された、整備された道にたどり着いた。

 その道の中ほどで菊池が立ち止まった。


「ここが封印の下端だ」

 菊池の隣に立った慎一郎が手を伸ばすと硬いものに触れ、それ以上手を伸ばすことができなかった。

 それは北高に閉じ込められた次の日に触れた北高を包む不可視の壁に他ならない。


 今、ここを越える。

 五月のあの日以降、初めて学校の外に出るのだ。


「この先は時間が正常に流れている世界――外は聖歴2026年5月16日 午後九時頃」

 慎一郎は彼の後ろに立つ仲間たちを見渡した。みな、どこか緊張しているように思えた。

 その緊張はこれからドラゴンと戦わねばならないことから来るのか、それとも――


「では、これから封印の一部に手を加え、外に出られるようにする」

 まだ北高全体を覆っている時を進める魔法は解除しない。今も生徒会で作成中のアイテムが完成していないからだ。


 菊池が呪文を唱えながら手を伸ばすと、今まで何も見えなかった境界面にうっすら波紋が広がっていくのが見えた。

 波紋は徐々にその数を増し、また範囲が大きくなっていく。やがて直径二メートルくらいの大きさになると一際大きく跳ね上がり、そして何事もなかったかのように元の何もない状態に戻った。


「さあ、行こう。この先はすぐ最深部だ」

 菊池が数歩を歩いたことで外に出られることを示した。半年以上探し回った外への出口は今目の前に開かれたのだ。


「それじゃ、あたしたちはここに残るから」

 慎一郎が外に出ようとした時、後ろで瑠璃が言った。

「松阪さん、よろしく頼むよ」


 瑠璃たちはここで待機し、生徒会室で作成中のものができあがった時に届けることになっているゴンを待つ。封印の内外を隔てて〈転移〉の魔法は使えないからだ。

 瑠璃は結希奈やこより、楓と別れの抱擁を交わす。


「がんばって。死なないでね」

「ありがとう、松阪さん」

 そう言って瑠璃とその眷属を残し、〈竜王部〉と菊池は封印の外に出た。




                       聖歴2026年5月16日(水)


 整備された地下道をまっすぐに進む一行。

 いくつかの曲がり角を経て、やがて教室ほどの大きさの広間にたどり着いた。


 奥には古びた鳥居と、その下には大きな石。これが“鬼”を封じていた最後の仕掛けだったという。

 菊池がその岩に触れると、岩は大きな音を立てて横にスライドした。岩の会った場所に現れたのは人ひとりが入れるほどの穴――入り口。


 人間たちと竜人たちはそのまま無言でそこに入っていった。

 その先は竜の住む巣。ドラゴンズネスト。

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