悪魔裁判 世界の終焉
お〇〇
第1話出会い
罪に問われている者を無罪としなければ俺たちが殺される。そんな理不尽な裁判。それが『悪魔裁判』。
目が覚めると見知らぬ天井が目に広がる。ただ白いだけで何もない天井に違和感を感じる。真っ白なのは分からなくもないが凹凸もなにもない。理由は分からないが照明の類がないのだ。
体は普通に動くようで両手を天井にかざしてみるが傷などは確認できない。
記憶が正しければ何の変哲もない高校生だったはずだ。得意な教科もなければ不得意な教科もない。モテる事もなければ嫌われることもない平凡な生活を送っていた。強いて挙げれば背が少し小さいくらいだ。目を覚ます前はいつも通りの生活を送っていたはずだ。
なぜこんな場所にいるのか分からない。
体を起こし、あたりを見渡す。この部屋の中にある物といえばベッドだけで、天井と同じ白い壁に床が目に映る。壁には窓も無く出入りするためのドアが一つあるだけだ。
起き上がり部屋を調べる……と言っても部屋の中にはベッドしかないし、とても簡易なベッドなため調べる箇所も少ない。そして、調べるのは無駄といわんばかりになにもない。
あと調べられる箇所はドアしかない。ドアのノブに手をかけようとしたとき、ドアの外から女性の声がした。ドアの外には誰かいるらしい。
「チョットいい? ここがどこだか分かる?」
「分からない。でも、なにか変なところよね」
どうやらドアの外の人たちも俺と同じ状況らしい。となるとここから脱出するための協力者となるだろうから早く合流した方がいいだろう。
俺はドアノブを握り回そうとするが金属がぶつかる音がして回らなかった。閉じ込めらていているのかと一瞬思ったが、ロックは部屋側についていたのでロックを外し部屋から脱出する事が出来た。
ドアを閉める際にロックが外から掛けられるかを確認したが鍵穴は無かった。しっかり調べた訳ではないが部屋には俺以外誰もいなかったはずだが、どうして鍵が掛かっているのか疑問に思うが照明がないのに光を感じている事などおかしな事ばかりだし、長居するつもりはないので深く考えない事にした。
部屋の外は廊下になっていた。廊下の壁も天井も床も部屋の中と同じで真っ白だ。
廊下は俺が出てきた部屋の左が突き当たりで右に一直線に伸びていて、その先に両開きの扉が一つと一直線に伸びた廊下の左右にそれぞれ3つずつドアがあり計7つの出入口がある。もう少し詳しくいうと向かって左の突き当たりの壁の下側には高さ10センチ、幅60センチ程度の隙間があるが、当然その程度の隙間から人が出入りする事など出来ない。
俺が出てきた部屋の右向かいのドアの前にセーラー服を着た二人の女性がこちらを見ている。制服が異なっているので同じ学校ではなさそうだし、俺の通う学校の制服とも違う。
一人は紺色のセーラー服でこのような事態にも関わらず表情に変化が見られない。何かを考えているのか指で顎をつまんでいる。
もう一人は女性としては背が高い方だろう俺とあまり変わらないくらいの高さだ。その体に灰色のセーラー服を着ている。顔も体系も大人っぽいがその顔は険しくこちらを睨んでいるようだ。
「ここがどこか知らないか? なぜここにいるか分かるか?」
俺はそう言いながら両方の手のひらを彼女達に見せ、近づく。日頃ジェスチャーなんて行わないので我ながら動きがぎこちないとは思うがこの際仕方がない。
「どっちも分からないわ。今部屋から出てこの人と話をしていたところよ」
俺の質問に答えたのは紺色のセーラー服の方だ。最初は視線をこちらに向けただけだったが俺の質問に答えながら顔をこちらに向ける。背中の方に流れていたセミロングくらいの長さの髪が胸の方に流れる。ドアの前にいるところを見るとこの部屋にいたのだろう。
「あなたはどちらの部屋で?」
俺は警戒している灰色のセーラー服にも声を掛けた。警戒を解いてもらうことが目的だ。
「アヤシイ。部屋を聞いてどうするつもり?」
女性は触っていた自分のショートカットの毛先から手を放し、両手の掌を俺の方に突き出す。
「え。いや別に」
俺は足を止めて答える。警戒を解くつもりで声を掛けたのに、余計に警戒されてしまったようだ。
女性は片手を下ろし、もう片方の手で俺を指さして言う。
「アンタが、私たちを攫ってここに連れ込んだんじゃないの?」
そうかこの異常に気が付いていないのか。照明がない事が異常だが、ない事には気付けなかった様だ。だからと言って俺を犯人扱いするのは飛躍し過ぎている。むしろこの女性が俺を犯人に仕立てようとしているのではないか……とは思うものの最初から事を荒立てるのは得策じゃない。
「そうじゃない。俺は各部屋に一人ずついるのではないかと考えただけだ」
「ソレは、あなたが犯人だからじゃない? ここにいる人数を当てて誘導しようとでもしているじゃないの?」
俺の言葉は、女性をヒートアップさせてしまったらしく指した指を上下に振り、声も次第に大きくなって更に追及してくる。
「普通、それくらいの予測はつくだろ?」
何を言っても無駄だと考えた俺はもう一人の女性に顔を向け同意を求める。
目の前の女性はふっとため息をついた後、灰色のセーラー服の女性に顔を向けて言う。
「なんとなくだけど、その可能性はあるとは思っていたわ」
灰色のセーラー服の女性はこちらに顔を向けて言う。
「フーン。じゃ、そういうことにしておいてあげる」
灰色のセーラー服の女性はまた紺色のセーラー服の女性に向き直り言う。
「アタシ、レナっていうのよろしくね」
レナと名乗った女性はこちらには顔を向けない。あくまで俺をのけ者にするらしい。
しかし、疑問に思うべきは、苗字ではなく名前を言った点だ。分かり辛い苗字だったりする場合もあるので、ないとまでは言わないが一般的ではない。フルネームを言ったうえで名前の方で呼んで欲しいというならまだ分かるが……いや、ここを出たらそれまでの相手と言う事を考えると、偽名という事も考えられる。
「挨拶は後にしましょうよ。全員が揃ってから挨拶したほうが手間が掛からないのではないかしら」
紺色のセーラー服の女性はレナの方を向き優しく微笑んで言った。
ガチャと音が鳴ってから新たなドアが開かれ、男が顔を出す。
「こ、ここは何処? 君たちは誰?」
男はそう言うとドアを閉めて張りのある腹を揺らしながらこちらに歩いてくる。紺ブレザーを着ていて、オタクという言葉が似合いそうな顔をしている。背丈は高い様で残念ながら負けている。
男の質問に答えようとした時、別のドアが開く音がして、全員で音のした方向を向く。少しだけ開かれたドアから髪の長い女性がこちらを覗いている。
「あの~」
髪の長い女性は、そう言いながら部屋から出てくる。背丈は平均より高めでやせ型の体に灰色ブレザーを着ている。知的で大人しそうな顔をしている。
「お、おうあ」
髪の長い女性が開けたドアにぶつかりそうになった男が驚き、それに驚いた女性が「ひゃっ」と声を上げる。
「あ、危ないじゃないか」
「ごめんなさい~」
男と髪の長い女性のやり取りに俺たちは微かに口元が緩む。
「い、いや。別にいい。それより出口を知らないか?」
男は俺たちの方に向き直りそう言った。
「今のところ誰も。ただ、あの両開きの扉は怪しい」
俺はそう言って両開きの扉を指す。この場にいる全員がその扉に顔を向ける。
「じ、じゃあ、そこに行こう」
男はそう言うと歩き出そうとするが、紺色のセーラー服の女性が制して言う。
「待ってよ、あの部屋からは誰も出てきていないから確認しましょうよ」
紺色のセーラー服の女性が指でドアを示す。俺たちは現在5人でドアは6枚、そして指差されたドアは恐らく未だ開かれていない、人がいる可能性のある部屋のドアだ。この場にいる全員がそのドアに向かって歩き出す。
紺色のセーラー服の女性がドアをノックし声を掛けるが返事がない。
ガチャガチャ。俺がノブを回そうとしたが鍵が掛かっていて回らない。作りが同じなら内側からしか鍵が掛からない仕組みになっているので中に人がいることになる。
「中にいるみたいだけど返事してくれないわ。どうしましょう?」
紺色のセーラー服の女性がそう言って俺を見る。
出てこない理由は既に死んでいるか、まだ目を覚ましていないか、人見知り等で出たくないかくらいしか思いつかない。死んでいるならこのドアは開かないので、出たくない人を如何にして出すかを考える必要がある。
俺は小声で「まかせろ」と言ってドアに向かって言った。
「この施設はもうじき爆破されるので早く脱出しなければいけないのだがここの部屋の人は何処へいったやら」
部屋の中からバタバタと物音がし女性の声がした。
「いまぁすいまぁす今出まぁす。おいて行かないで。いや、ドアが開かない。どうしよう」
こんな事態になって居留守を使うなんて……と思ったが、これ以上の意地悪をしてへそを曲げられても困る。
「そちら側から鍵が掛かっていると思いますので開けてください」
「ぁ。これかなぁ」
ガチャっと音がしてドアが開く。中から胸に大きな赤いリボンが特徴的なセーラー服を着た背の高さからするとまだ小学生くらいの少女が姿を現した。顔には焦りの色が見えるが俺の嘘のせいと考えると申し訳ない。
「ナンだ。同年代かと思っていたのに、お子ちゃまとはね」
不意にレナが呟く。今までが同じ年くらいの人ばかりだったので予測が外れた事には同意するが、当人を前にため息までつくことはないだろう。
「むぅ。これでも高校生なんですけど。それより早く逃げないといけないんじゃないの?」
「その事なんだけど嘘なんだよ。居留守されると困ると思ったので……」
俺の言葉に少女はドアを閉めようとするが、それを俺は足で止めてドアを閉められないようにする。
「嘘だけど本当にそうなる可能性がない訳じゃない。君だってここから脱出して日常生活に戻りたいだろう?」
少女は観念して部屋から出てきた。やれやれ人見知りというレベルではなさそうだな。
こうして俺たちは出会った。
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