部下と上司
camel
森/高層/リアル
電車で寝過ごした。
高層ビルの建ち並ぶ街を着くはずが、何故か窓から山が見えだしていたところからおかしかった。終点で降りたものの、高い建物はひとつもない。というより、建物がない。
改札を出ると、駅員がにこやかに「観光ですか?」と問いかける。「観光できますか」という言葉を飲みこみ、頷いた。
ヒールが土に沈み込む感覚は不快で、聞いたこともない地名も不快で、建物がないために抜ける青空も不快で、寒くもなく暑くもなくちょうどいい気候も何故か不快で、都会のオフィスカジュアルに身を包んだ私自身も不快に感じられる。くそと呟けば、道の端に何かの糞がある。不快感の連鎖は続く。
帰りの電車はまだ来ない。仕方なく、売店を覗くも道の駅に行けと淡白な地図の貼り紙があるのみだ。
道の駅なるものを目指したのが悪かった。よく考えたら、舗装されてない道から、道を選び、道の駅なんて見付かるものか。
ここはどこだ。森だ。名もなき森だ。正しくは地名を忘れただけの、森の中だ。
木漏れ日と、木々を揺らす風。ここはどこだ。笑えてきた。現実とは思えない。この土地だけ、文明を捨てたのか。毒づきながら、草を刈る老人を見付けた。
「ここはどこですか?」
「おらん家だ」
「広いお宅ですね」
「ありがとよ」
でこぼこのヒールの足跡を辿れば、元の駅に帰り着くだろう。しばし、森かと思われた庭を歩き、私は果てなき空を見上げる。
「道がない!」
私の魂の叫びは第一村人に届いた。
「失敬な!」
「……ということが、ありまして」
遅刻の連絡の後、午後には会社に辿り着いた。
「そこ、おらの地元だ」
上司の言葉がやっと私を現実へと連れ戻した。
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