盤上美女と漆黒男子(ゴッデス・ボーイとブラックガールズ)
有原ハリアー
プロローグ 突然の出来事
俺の目覚めは城の朝。
だが、何かがおかしい。
「あん? 何だこりゃ?」
目の前に見える二つの小高い丘。そして、有り得ないほどに高い声。
「おい、どういうことだよ?」
ベッドから起き、立ち上がる。そのときの体の反応が、やけに鈍い。
しかも体から、魔力が満ちる感触が無い。
(まるで俺の体なのに、俺の体じゃねえみてえだ……)
何が起きているかを確かめるため、全身が映る鏡の前に立つことにした。
そこには、絶世の美女がいた。いや比喩じゃなくホントに。
「な、なんじゃこりゃぁあああああああああっ!?」
俺はショックのあまり、部屋を全速力で飛び出した。
く、靴のサイズが合ってねえ……。
「ヴァイスすまん! 入れてくれ!」
詫びを入れつつ(聞こえない仕様なので意味無いが)、カードリーダーにカードキーを通して解錠する。
「入るぞー…………誰、お前?」
「おはよう、龍野君」
どんな女子でもなびきそうなイケメンがいらっしゃった。
「ヴァイス……お前も、か?」
「そうよ……そうなんだ。その様子だと龍野君も……姫も性別が入れ替わっちゃったみたいだね」
「誰が姫だ! つーかその顔と声で喋るな、気持ちわりぃ!」
「残念だな……せっかくこの機会を楽しもうとしていたのに」
「とにかく俺は解決策を――おっ、シュシュ…………」
「おはよう、
誰だこのイケメン。いや元がシュシュだとはわかっちゃいるけどさ、お前もお前で変わりすぎだろ。しかも姉妹(今は兄弟だろうが)だからか、結構ヴァイス――元がそうであろうイケメン――に似ているし。
「お前、シュシュだよな?」
「そうだ。そしておねえ……お兄様をたぶらかす魔性の女め、今ここで誅罰を下す!」
シュシュが剣を抜く。ブロードソードってとこだろう。
「うわぁあああああ!?」
俺は反射で魔術を行使――出来ない。
「おい、魔術は!? 使えねぇのかよ!?」
「残念ながら姫、私も試したけれど……ダメだ。さっぱり使えないのだよ」
チッ、かくなる上は――!
「三十六計逃げるに如かず!」
「シュシュ、抑えなさい!」
「離してくださいお兄様! クソッ、あの女が――!」
素直に解錠に応じてくれた八連のドア。
俺は開いたのを確認すると、すぐさま城内へ逃げ込んだ。
「ハァ、ハァ……ここまで逃げれば、しばらくは――」
やっぱり女の体だからか、昨日まで(男だったとき)より疲れる。
つーか……近くにトイレあるけれど……。確かめて、みるか……。
五分後。
俺は最早覆しようの無い事実に愕然として、女子トイレから出てきた。
「な、なんなんだよぉ……クソッ……!」
加えて気になるのは、ヴァイスの態度。
まるで、こうなることを予期していたかのようだ。
「チクショウ……俺はもう一生、女なのかよ……!」
「どうした、我が愛しの研究対象?」
突如、テノールが俺の耳に心地よく響いた。
「誰だ!」
振り向いて見ると、黒髪のミステリアスな男性。やっぱりコイツもイケメンかよ。
「私か? そうだな……元は崇城麗華だった者、とでも名乗っておくか」
「麗華!? お前まで……」
「朝起きたら男になっていた」
やっぱりそうか。
どういうわけか、入れ替わっているのは、ヴァレンティア王族の二人に限らねぇんだな。
「それよりも、今日こそは我が元に来てもらうぞ」
麗華が手を伸ばす。
俺は身震いし、反射で麗華の手を払っていた。
「触るな下郎!」
無意識下での声。俺が出すつもりの無い声。
「そうか……相変わらずだな、我が研究対象よ」
ヤバい。これはやっぱり……三十六計逃げるに如かず、だ。
俺は矢のように飛び出した。
「逃がすか!」
三分後。
どうにか逃げ切り、ヴァイスと合流した。
「ヴァイス、すまねえ。助けてくれ」
「姫の願いなら、喜んで聞き入れよう。だが一つ条件がある」
「条件?」
条件とは言うが、今までのヴァイスならそんなに俺にとって不利なものでは無い事ばかりだった。
多分今回も――
「姫の体を、一晩私が自由にすることを許してくれないか?」
俺は吹き出しちまった。下品なのはわかっていたが……。
何だそれ。つまりあれか、
そしてヴァイスから、麗華と同じ様な気配を感じる。
これ、「何が何でも我が手の
俺は疲れかけた体を無理やり奮い起こし、全速力で走り出した。
「逃がしはせん、姫!」
「だから姫はいい加減やめろ!」
逃げ続けること五分。
”撒けた”という確かな手ごたえを得られぬまま、俺は城の敷地にいた。
「姫、今晩こそ私と愛の誓いを!」
「あの女、見つけ次第オレの剣で……!」
「我が研究対象よ、逃げることは叶わぬと悟れ!」
ツッコミが追い付かない。
ヴァイスは愛の誓いとか言ってるが、これ絶対
シュシュは一人称が「オレ」になってるし、言ってること滅茶苦茶物騒だし。
麗華は心理戦仕掛けてくるし。このくらいならまだ何とか出来るレベルだけど。
どうなっちまうんだ、俺の貞操……!?
誰か、助けてくれ……ッ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます