木漏れ日の中 君は去りなん
間柴隆之
第一章
周りを背の高い木々に囲まれた、白い美しい城があった。
そこには、鮮やかな花が咲き乱れる正門から続く庭とは対照的に、緑葉樹に囲まれた裏庭がある。
その裏庭の大木の下、木漏れ日が降り注ぐベンチに青年が腰を降ろしていた。
膝に分厚い本を乗せてはいるが、添えられた長い指先は先ほどから動いた気配がない。
白いローブの肩から零れ落ちる薄い茶色の長い髪をかきあげることもなく、彼の目は足元よりもっと遠くをぼんやりと見ているようである。
風がさわさわと木の葉を揺らし、彼の髪を弄んでも、動くことのない姿はまるで彫刻のようであった。
そして、この葉のざわめきの途切れた一瞬の隙間に、彼ははっとしたように視線を上げた。
『・・・さま・・・。にいさま・・・』
声がした気がした。
聞き慣れた子供の声。自分を呼ぶ声。
その度に苦しくて、切なさが胸を押しつぶしそうになる。
遠い記憶が蘇り、彼が思わず目を閉じた瞬間、頭上から枝が折れる音と共に悲鳴のような声が聞こえ、膝の上に何かがどすんと落ちてきた。
「ディオ!・・・何をやってるんですか、貴方は!」
分厚い本の代わりのように彼の膝に乗っているのは、こげ茶色のチュニックを着た黒い髪黒い瞳の少年だった。
「ご、ごめん、シフォー・・・。昼寝をしてたんだけど・・・」
慌てて飛び降りた少年は、落ちた本を拾って青年に渡した。
「だからってなんでベンチの真上で寝る必要があるんです?」
険しい顔をして青年は本の表紙についた土を払う。
「だって、俺が木に登った時には誰も座ってなかったんだから。いいじゃん、昼寝くらいしてたって」
「そういう問題ではありません。・・・それよりこの時間は、貴方は剣術の勉強の時間では?」
「昨日先生が辞めちゃったんだ」
悪びれない物言いに、シフォーは眉根を寄せた。
「また嘘をつくんですか?」
ディオのこの手の言い訳はいつものことだったので、シフォーは今度もそうだと決め付けて言った。
「あのぅ・・・本当なんです、シフォー様」
気付くと年老いた婆やが、申し訳なさそうに揉み手をして二人の側に立っていた。
「どうしてまた」
「昨日のお稽古の最中に、ディオ様が先生にお怪我をさせてしまって」
「しばらく腕を使えないらしいんだ。だから・・・」
「・・・今回で四人目ですよね・・・」
シフォーは俯いて静かに額を押さえた。
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