蘇り転生の魔王、絶滅寸前の魔族を救う! ~ 見知らぬ百万の命より、輩(ともがら)を優先するのは当然だろう? ~

shiba

死因?それは強制転生です

「……スカーレット様、地下30階層が突破されました」

「そう、ギリアム卿は?」


「我が主は……討ち死に致しました、申し訳ありません、ご遺体を持ち帰る事も出来ずっ!」


此処は北部森林地帯に入り口があるダンジョンの最下層、謁見の間。そこには300年間、座る者の無い玉座が設置されている。魔王城陥落時に持ち出したものだ。


スカーレットは強く唇を噛む、尖った牙がその唇を僅かに裂き、血が滴るも気に留めない。自分が幼い頃におじ様、魔王レオンハートが勇者と刺し違えて300年、仲間を失う事には慣れたと思ったけれど…… 天狼のギリアムは幼馴染だ。


「この話、既にヴェレダには?」

「…… 怒り狂うヴェレダ様を一族総出で抑えております」


「彼女に伝えてください、卿の死は無駄ではないと。先ほど魔王の魂の呼び戻しに必要な、魔力が揃いました。それが卿の犠牲によるのは皮肉な限りです……」


この魔族に残された最後の生存圏であるダンジョンでは、彼女の術式により、敵味方問わず落命した際に拡散する魔力が聖杯に集められる。さきほど、強大な魔力が一気に注がれて来た事で、30階層の防衛に出ていた天狼の幼馴染みが死んだことは薄々ながら気づいていた。


一礼して下がる人狼の兵士を見送った後、スカーレットは謁見の間から王の寝室へと歩いていく。そこに変わらない姿で眠る自身の主を見た。かつての致命傷は既に治癒されているが、そこには魂が宿っていない。


「おじ様、先程、ギリアムが逝きました。彼や私の父母も既に亡くなっています、きっと貴方でしたら、悲しみになるのでしょうね…… 碌に皆を護れなかった私を叱ってください」


そっと、魔王の身体を起こして、その口元に聖杯をあてがい、中身を飲ませる。それは彼女の血を触媒として集められた奇跡を起こすための膨大な魔力だ。生き物は例え、死しても魂は輪廻の輪に戻る。その際に拡散する魔力を集め、彼女の血に凝縮させている。


「さあ、起きてください、おじ様」


……………

………


それは、徹夜で問題の見つかったシステムのバグを修正している時だった。ふいに誰かの声が聞こえた気がする。その直後に異常な睡魔に襲われて意識が朦朧としてくる。


「しまったな……もう若くないアラフォーのおっさんには徹夜はキツかったか?」


目頭を押さえて、何とか頑張ろうとするも眠気は堪える事が出来ない。


「ああ、これは無理だな。部長、すいません、復旧は間に合いそうにないっすわ」


そう呟き、机に突っ伏した。


微睡む俺の頭の中で、何故か“起きてください”との女性の声が聞こえる。


「いや、無理……」


だって、君の声を聴くたびに眠くなるんだぜ?

どうしろと言うんだ…… も、無理……


その日、東京にあるシステム開発系の会社のオフィスで一人の男の遺体が発見され、ニュースで大した扱いもなくにさらりと流れた。


“田中一郎(35)、が都内のオフィスで机にうつ伏せになったまま亡くなっており、過労死とみられます”


これは絶滅寸前、来年の春を迎える事ができないと言われた魔族を、強制的に転生させられたおっさんが救う物語である……

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