価値を生み出す感じ取る
「ミドリ君、ちょっと作ってみたんだけど何色がいい?」
「わ、わーっ! さとちゃん先輩すごいですー! じゃあ緑で。えっ、本当にいいんですか?」
「うん。ミドリ君の反応見てたら楽しくってどんどん作りたくなっちゃったのー」
「わー、ありがとうございまーす」
今日は合宿前最後の班打ち合わせ。そこでさとちゃん先輩が俺に手渡してくれたのは、手のひらよりほんの少し大きいサイズの座布団。ふかふかでかわいくて本当に凄いクオリティの座布団に、俺はすごいなーって感心するしか出来なくって。
「確かこれくらいの大きさだったかなって思ったからこんな感じにしてみたけど、小さかったり大きすぎたりしたら言ってね、また作るから」
「いえいえ、きっとこれっくらいでちょうどですー」
「しかしまあ、さとちゃんもよくやるねえ。石の座布団だなんて」
「あたしのイメージでは、パワーストーンとか水晶玉ってきれいな布で丁寧に包まれてたり、座布団みたいなのに置いてあるイメージだったから、つい」
さとちゃん先輩が作ってくれたのは、俺が家で大切にしてある石の下に敷く座布団でした。それと言うのも、6班の番組トークテーマに関係してくること。6班のトークテーマは自分の宝物に関すること。俺の宝物は昔拾った丸い石で。
俺の地元の長篠エリアは内陸だから海がなくて、昔から海っていうのは憧れで。親に連れて行ってもらった新鷺エリアの海って言うのかな、川との境って言うのかな、そこで拾った丸い丸い石がずっと宝物で。だって本当に丸くてぴかぴかなんだもん。
――という話をしたからか、さとちゃん先輩はそれを入れる巾着袋を作ってくれた。大学で浴衣を作るっていう課題があって、その端切れで。簡単に作っただけなんだけどーってさとちゃん先輩は謙遜するけど丁寧な作りでさ。
それで宝物が増えたなーって思ってたところにこの座布団ですよね! 家では飾っておくわけだし、巾着袋は要らないよねって。家で飾るときのことまで気を遣ってくれるとかさとちゃん先輩優しすぎますよね! 細やかな気配りは作る物からも現れてますけど!
「でもさ、どーせ飾るなら普通の石より翡翠の方が良くね? 翡翠もあるっつってたじゃんな」
「違うんですよゴティ先輩……確かに翡翠もあるんですけど、造形物としての完成度はあの丸い石の方が圧倒的に上なんですよ。宝石の価値とかはよくわかんないですけど、俺にとっては磨いてもいない翡翠よりは自然が長い時間をかけて磨いた石の方が価値が高いんですよ」
「ふーん、よくわかんねーけどそーゆーモンなのかね」
その海岸は翡翠がとれることでも少し有名で、実は俺はそこで翡翠も拾ってた。だけどやっぱり丸い石の方が見つけたときにふあーってなって、これは手元に置いておきたいと思って。ちなみにそれからは文鎮代わりに使ったり一応実用はしてきたから…!
建築の他には物作りの分野が好きで、民俗工芸品やハンドメイドの手芸展なんかも結構好き。そういう物を作る知識や技術のある人が本当に凄いと思う。だから俺からすればさとちゃん先輩は創造神みたいに映る。
あ、でも最近は音楽とかの芸術の分野でも表現できる人はすごいなーと思い始めている。これは完全に情報センターで先輩たちに感化された結果なんだけど。俺にはそういうのがないからこその憧れでもあるかな。
「青女の子たちよりミドリ君の方がリアクションいいからテンション上がっちゃって、ついつい作りすぎちゃうんだよね。こないだこんなに座布団ばっか作ってどーすんのってうたちゃんに呆れられちゃって」
「なんかすみません」
「ううん、今度何かのイベントで出すことにしたのー。使い道はこれにビビッと来た人に考えてもらうような感じで」
そして、この座布団の使い道を考えてみる。ペット用……としてはちょっと小さいな。コースター……としてはちょっと安定感が。うーん、やっぱり石の座布団くらいがちょうどになっちゃうのかなー。
「さとちゃんさ、これを売るとしたら売値はいくらになんの?」
「200円くらいかな」
「えーっ!? もうちょっと行っていいと思いますよ!」
「でも使ってるの端切れだし、綿も新しくないし」
「なんかさ、マウス使うときの手首クッションに良さそうじゃねって思ってさ」
「当ててみる?」
「あんがとさん。おー、いい感じ!」
さとちゃん先輩の座布団にもいろんな使い道が生まれそうだ。物に対する価値はそれを見る人が決めるというようなところがあるけど、人が言うそれを理解は出来なくても否定はしない人でありたいなと思う。
「でも、さとちゃん先輩は本当にすごいですよねー……」
「ナニ、ミドリさとちゃん煽てて乗せようとしてる? いやー、悪い男だなー」
「わーっ! そういうんじゃないですー!」
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