懐かしの遊び方

 高校の同級生である川崎から連絡が入り、盆で仕事が休みだからという理由で遊ぼうと誘われる。どこへ行くとか何をするとかいう具体的なことは会ってから決めるのが基本で、まずは指定された場所へと向かうのだ。


「リンちゃんイエ~イ、おひさ~」

「相変わらず珍妙なノリだな」

「さっ、何して遊ぶ?」


 高校時代は馬鹿で通した川崎拳悟も現在は美容師として社会へと出ている。美容師と言う割に自分の髪は高校時代から何ら変わりなく、ボサボサの長髪を束ねているだけだ。いや、切るのが面倒で髪を束ねているオレは人のことを言えんが。


「それはいいが、オレは腹が減っている」

「いいねいいね、何か食べよっか」

「あまり待つのも面倒だからな、さっと食える方がありがたいが」

「あっじゃあそこに入る? リンちゃん牛丼とかでいい?」

「ああ、構わん」


 通りがかった丼屋に入り、適当に注文をすれば間髪置かずに物が出てくる。オレは牛丼にネギと生卵が乗った物と、川崎は大盛りのカレーを頼んだ。丼物など久し振りだ。と言うか、あったかい物を食うのが久し振りだ。


「うーん、どこ行こっか、何しよっか」

「それを考えてから遊ぼうとはならんのか」

「ならないね。基本現場でのノリだし。あっ、さすがに決めるときもあるよ? 花火やりたいなーとか海行きたいなーって思うけど、花火に至るまでとか、海で何をするとかはやっぱノリだよね」

「まあ、それがお前のノリなのだから一向に構わんのだが」


 川崎のノリと勢いに流されるのもまあ悪くはないし、どこへ行くか、何をするかという目的を決めてもらえるのはラクでいい。それに、オレの気分にも川崎は柔軟に乗ってくる。そういう対応が出来るから友人が多いのだろう。コミュニケーション能力に関しては前々から本当の馬鹿だとは思っていた。ここでは、いい意味で。


「そう言えば今越野帰って来てんだよねー。呼んじゃえ」

「ほう、越野か。懐かしい名前だな」

「リンちゃん越野と絡みあったっけ?」

「2・3年の時に同じクラスでな。まあまあ話す機会はあった。数学だけはなかなかアイツに勝てんでな」

「へー、リンちゃんでも勉強で勝てないとかあるんだね。意外~」

「オレ様は今世紀最後の天才ではあるが、テストで学年1位などは取ったことがないし、言わば無冠の帝王としてだな」

「あっもしもし越野~?」


 話は遮られたが、大したことのない話だから特に問題はない。川崎が越野と話している間にオレは飯を食う。飯を短時間でかき込むのは情報センターで鍛えられている。利用者の来ない間を見計らって、人の目を盗むように飯を詰め込み、流し込むのだ。当然、そんな食い方が主となるセンターでは熱いものなどそうそう食えん。


「えー、マジでウケる! それ見たいんだけど! あっ、こっち今リンちゃんいるんだけどー、うん! うん! リンちゃんもそーゆーの嫌いじゃないし持って来ちゃえば? 今? 花栄の地下。牛丼食べてる。あっ、って言うか越野の家行く? あははー、それはさすがにね~って、えっ、いいの? マジで? 行く行く! はーい、了解ー」


 何か電話越しに話がえらく進展したようだ。黙々と飯を食うオレを後目に話を進める川崎は、これからの予定を越野と飛躍させていくのだ。と言うか、越野の家に行くと言ったか?


「リンちゃん! 越野の家でゲームしよう!」

「構わんぞ。むしろゲームであればオレの得意分野だ」

「何かねー電話したら越野がさー、マイクラで巨大輸送システム作ってるって言うじゃん? ウケるーと思って」

「ほう、マインクラフトか」

「越野のマイクラすごいよ、長期休みで見る度すげー進化してんの。あっ、越野の家に行く前に俺の家寄っていい? スイッチのコントローラー取ってきたいし。あと、盆休みの家にお邪魔しちゃうし手土産買ってこうか」

「そうだな。簡単な菓子折りなどでいいだろうか」

「いいと思うよ」


 飯を食い終わり、考えるのはこれからのこと。手土産を用意し、川崎の家に寄り、自分たちが飲み食いするつまみなどを用意して越野の家へ。と言うか、大学生になってまでそんな遊び方をするとは思わなかった。一人暮らしの部屋ならともかく、自宅で。


「そうだ、バイト詰めだろうけど高崎にもメールしとこーっと」

「ほう、高崎か」

「リンちゃんと高崎って絡みあったっけ?」

「直接と言うよりは某バカップルの繋がりで――」

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