世の中平等には出来てない

「あー、面白くない! 世の中平等には出来てないなあ!」


 部長が荒れている。今に始まったことじゃないとは言え、早くこの不機嫌の波が去ってほしい。部長が不機嫌な理由は明らか。朝霞班のステージがそれらしい形になっていたからだ。

 今日に至るまで、部長は朝霞班のステージが不発に終わるよう……厳密には、枠さえも与えないようにするための妨害行動に終始してきた。その妨害行動は部長だけでなく日高班の全員が巻き込まれている。

 ただ、枠は監査が班の実力を理由に2日で1時間ずつ、計2時間を与えた。部長は朝霞班にそれだけの枠を捌けるはずがないから泣いて返してくるという目論見だったそうだが、見事なまでに外しまくった。

 それならばと所沢を送り込み、朝霞班の小道具類……出来れば高そうな物に対する破壊活動に出たものの、それすら逆手に取りやがったのだ。そしてブースに侵入されたことにも気付かれたのか、朝霞は深夜のブースに張り込んでいたとか。

 結果として、部長の妨害行動はほぼ失敗に終わったと言うか、そもそも朝霞は部長のことなんか視野に入れていない。興味がないのだろう。それもまた部長が荒れる原因で、その害を被るのは俺たち班員だ。終わることのない八つ当たりがまた始まる。


「おい、お前。どうして朝霞班を止めなかった。会場を見回ってたんだろう」

「朝霞さんを見張ってはいましたが、途中からは俺が見張られる側になってしまい派手な行動は出来ませんでした」

「貴様…! 口答えをするな!」

「所沢、誰がお前を見張ってたんだ。朝霞か?」

「いえ、顔を見たわけではありませんが、あれは山口さんでしょう。深夜の部室で朝霞さんと対峙した俺を拘束した人とも同じ声でした」

「……そうか、まあ、洋平なら仕方ない」


 部長は洋平に対して甘い。他の誰に対しても高圧的で傲慢な態度だけど、洋平に対しては全く違うのだ。洋平は朝霞班に好き好んで居る変人だけど、確かにいい奴だ。朝霞班じゃなきゃもっと日の目を浴びていたに違いない。

 洋平を日高班に引き抜こうとしたことも数知れず。ただ、班異動届がネックとなって実行には移されていない。それでも部長は洋平と顔を合わせればうちの班に来いと勧誘を続けている。尤も、断られ続けているが。権威や部政には興味がないのだろう。


「部長。ところで」

「何だ、この俺に指図する気か」

「いえ。昨日今日と日高班のステージとして発表した作品が、過去の台本の切り貼りで書かれた物であるのがバレているということだけお伝えしておきます」

「俺がやったことじゃないから何でもいい。一応聞くが、誰かに何か言われたか」

「見張り中に……あれは山口さんですね。これは本来自分のやるはずだった本だと」


 所沢に、台本を切り貼りするなら一応没になった本か今の3年が知らない本にしておけとは指示をしたが、よりによって朝霞班だったか。洋平にバレたということは、朝霞にも伝わっているだろう。


「他には」

「朝霞さんはとうにこのレベルを通り越している。このレベルで満足なら好きにすればいいと言っていました」

「所沢、口が過ぎるぞ」

「他にはと言われたので」

「あー、面白くない。朝霞班どころか他の連中まで普通にステージをやってやがったじゃないか。事故も起こらなかったし。俺が面白くないのに他の奴がへらへらしてるのがおかしいんだよな。世の中平等には出来てない。その辺に獣でもいないかな、蹴飛ばしてやる」


 これ以上は何を言っても無駄だろう。部長は自分以外の奴が楽しそうにしているのがとにかく嫌なのだ。何においても自分が一番でないと嫌で、他人の苦しみを見て楽しむという悪い趣味をしている。

 反体制派は部長に対する敵意を剥き出しにしている分部長も何をしてもいいと思っているのだろう。そして幹部寄りの連中は部長の機嫌を取ることに終始する。鳴尾浜は世話も要らないし争いもしませんという逃げのスタンス。

 そして朝霞だ。朝霞は本当に部長に興味がなく、バカみたいにステージのことばかり。部長は朝霞が1年の頃からプロデューサーとして部で名前が通っていたのが気に入らないのだ。自分は上から押さえつけられていたのにという話は何度も聞いた。

 洋平を朝霞班から引き抜こうとするのも朝霞に対する嫌がらせだろう。……という風に最初は思ってたけど、どうやらそれは違うらしくて、単純に部長が洋平を手元に置いときたいというだけの理由だと知って拍子抜けしたこともある。


「あー、面白くない。そうだ、飲みに行こう。おいお前、金を出せ」

「まさか、部費からですか」

「この部は俺の物だ。つまり? 金なんか、虫けら共から取ればいいんだ。何も1人1万よこせとは言わないんだよ」

「……須賀班以下に対する部費の追加徴収ですか」


 世の中平等には出来てない。部長を見ていると本当にそうだなと思う。そして俺はこれから引きずられて行く飲み屋で頭からビールかチューハイをぶっかけられて浴びることになるのだろう。本当に、どうかしている。

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