そっかー、サッカー

「菜月先輩ッ! サッカーが盛り上がってますよッ!」

「奈々は元気だなあ」

「野坂先輩ッ、サッカーが朝の3時からやるんですよッ! 野坂先輩ならオンタイム観戦余裕っすよねッ!」

「へー、そう」

「ええー……先輩たち関心薄ー……」


 菜月さんと野坂に素っ気なくされて奈々がしょんぼりしている。仕方ないね、世間はワールドカップで盛り上がっているかもしれないけど、MMPじゃそんなこと関係ないからね。先輩を含めても興味なさそうな人の方が多いくらいだろうからね。

 だけどそんなことはお構いなしに、奈々は一緒にサッカーの話が出来そうな人を探し回っている。それを無駄な努力だと教えてあげないのは残酷なことだろうか。何度も言うけど、MMPにそれは期待出来ないんだよ。


「えっと、菜月先輩、ワールドカップに興味ないですか…? 決勝トーナメントに進んでますよ…?」

「それより今後チェアーズがいかに首位をまくっていくかの方が大事だな」

「うっすうっす、野球っすねッ!」

「むしろ奈々、野球はどうした。交流戦を経てマ・リーグは面白くなってきるじゃないか」

「野球も見てますけどッ! って言うか前のカードでウチは勝ち負けはともかくチェアーズにボコボコにされましたけどッ! サッカーは……」

「この手の行事や作品をスルーして非国民扱いをされることにはすでに慣れている」

「うっすうっす」


 国民が盛り上がる作品をスルーする菜月さんを非国民扱いするのは主に僕だね。トトロすらちゃんと見たことないとかお前どこの国の帰国子女だって感じだ。カレパの時に英才教育をしてやろうと思っても拒否しやがるし。人の善意をはねのけやがって。


「えーと野坂先輩は……サッカーは……」

「勉強してて普通に見てなかったな」

「うっすうっす、学生の本分っすねッ!」

「俺も菜月先輩と同じく、サッカーよりも野球の方が。あとウチも先日チェアーズにボコボコにされましたよね」

「ですよねッ! 知ってますッ! こーた先輩ッ!」

「私にはサブカルの生放送の方が楽しいですし」

「圭斗先輩は……」

「そもそもスポーツに興味がなくてね」

「えっ、そんな……楽しいですよサッカーも」


 それをMMPに期待する奈々も奈々なのだけど、そんないたいけな1年生に対して「次は見てみようかな」とかお世辞でも言えないラブピ連中であった。僕も人のことは言えないのだけど。サッカーが好きなヒロや気の遣えるりっちゃんがいなかったのが運の尽きだね。

 奈々がしょぼくれているのを後目に菜月さんと野坂は野球の話を始めてしまったし、サッカー知識と興味が皆無の僕と神崎では奈々の相手もしてあげられない。これ以上奈々が悲しむのはかわいそうなので、本格的にヒロかりっちゃんの到着が待たれる。


「楽しいんだろうなということは否定しないけど、思い入れが薄くてあまり盛り上がれないと言うか。まあ、その辺は人それぞれということで納得してくれないか」

「菜月先輩がそう言うなら~……」

「これがWBCだったら一緒に盛り上がれたんだけど。少なくともうちとノサカとりっちゃんは釣れたはずだ」

「野球の季節に期待ですねッ!」


 しかし奈々に対する菜月さんの神通力だ。初心者講習会を経て1年生の間で菜月さんは神とまで呼ばれるようになっているそうだから神通力でほぼほぼ間違いないんだろうけどここまでか。


「しかし、サッカーを見ないからと非国民扱いされる意味もわからないぞ」

「一方その頃緑ヶ丘では」

「圭斗、物騒なナレーションを入れるな」

「だけど、IFサッカー部とかいう派生サークルが覇権を握っているそうだよ。何でも、その部長が緑ヶ丘の昼放送を乗っ取ってサッカーについて熱く語り始めたとか」

「ええー……ミキサーのはずじゃなかったか…?」

「ミキサーのはずなんだけどね」

「まあ、元々緑ヶ丘は野球よりサッカーだとは知ってたけど」

「ということだからお前たちも、ミキサーとは言え喋りたいことがあれば存分にトークしてもらって構わないんだよ」

「うわっ、何か飛び火した!」

「飛び火しましたね」


 緑ヶ丘とかいうよその国ではサッカーについて熱く盛り上がってるそうだけど、ここはあくまでラブ&ピースの向島。残念ながらサッカーで盛り上がることは大変難しいだろう。だけど世間での盛り上がりもそのうち沈静化するから、慌てて追いかける必要もない。楽しみは個人の興味とペースでいい。


「ところで圭斗、思い出したんだけど」

「ん、何かな」

「いや、夏合宿の班割りがここにあるだろ。奈々がサッカーの話をしたければ、夏合宿の班打ち合わせで喋るといいんじゃないか?」

「……いや、奈々はそこまでガチではないんじゃないかな?」

「あ、えっと……うちはにわかなので……ガチな人にはついてけないっす、うっすうっす」

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