romance is still early

「――ということが新歓でありまして」


 えぐっ、という2人分の声が揃い、改めて目の前のステーキランチに向き合う。授業の合間にやってきたのは、夜はお高くて入れないけどステーキランチが安価で美味しいと評判の店。

 一緒にやってきたのは4年生の先輩方だ。MMPの前代表会計の村井おじちゃんと、前総務の掛川麻里さん。僕はこの二方に良くしてもらっていて、よく3人で下衆な話や猥談などをして楽しんでいる。


「いや、それはアカンヤツですよ。野坂の様子は?」

「理性を保ってはいたようですが、かなり必死でしたね」

「お察しします。でも、胸と太股はアカン。それでなくても菜月って基本ショートパンツじゃんな」

「体育座りであればほとんど生脚ですね。生ももと言うべきでしょうか」

「完全にアウトー!」

「そうだよねえ」

「そう思いますよね麻里さんも」

「疑似パイズリと素股みたいなモンだしねえ」

「ちょっ、お麻里様。いい店で出す単語ではないです」


 とまあ、こんな具合に僕たちは日頃からホレたハレた寝た寝取られた出来た堕ろした何だのという話や人間関係のアレなことなんかをきゃっきゃとお喋りしているのだけど、まあ、アレですよね。一応高級なお店なのでね。

 そりゃあ現場にいた僕だってずーっとそんなことを思ってましたよ? それでも一応直接的な単語を出すことはこれまで控えていたワケで。菜月さんのことをそういう風に見たくないというのもありますし。それをこの人は躊躇なく言いやがるのだ!


「で、毎回のパターンで2次会行くにしても帰るにしても菜月と野坂ってべったりなんでしょ?」

「べったりですね、お前らどこのバカップルだよってくらいには」

「野坂にはキツいわなあ」


 ちなみに、野坂の片想いはMMPの一部メンバーを除いて完全に筒抜けになっているし、インターフェイスでも常識扱いになっていたりする。気付いてないのは菜月さん当人と、りっちゃん以外の全員か。


「マーさん、野坂の状況に身を置いたとする。好きな子がお酒飲んでぴったりくっついてきてて、腕をとって体育座り。腕は胸と太股に挟まれる」

「村井さん、腕を取られたまま上目遣いで見上げてくる好きな子にアイスをあーんで食べさせてあげてください。うっすら上気した頬、潤んだ瞳、それから」

「えっ圭斗お前条件足す?」

「ちゃんと部屋まで送ってあげて下さいね。本人の趣味で電気はオレンジ電球1つの暗さです。もちろん何もしてはいけません。ちゃんと手を繋いで寝落ちするのを見守ってあげてください」

「生殺しじゃねーか! お前俺のこの悶々としたヤツはどうしろと!」

「――という状況に置かれたのが先日の野坂です」

「いや、ねーわ。アイツ何なの? 性欲ないの?」

「ある方だとは思いますよ、普段の下ネタを聞いている限りでは」

「じゃ何で何もしねーんだよ」

「菜月さんのことが大切だからじゃないですか?」


 もちろん、理性か本能かで言われれば本能のままに生きる僕からしてみても「その状況で手を出さないなんてあり得ない」の一言に尽きるのだけど。いくら好きな子が大切でもその状況なら最低でもコミュニケーションくらいはしておきたいじゃないか。


「まあ、圭斗さんも最近ご無沙汰だよね」

「おわかりになられますか」

「女の子を触るモードじゃないもんね。見てわかるよ」

「僕のことはともかく、麻里さんから見た菜月さんの無防備さは」

「まあねえ、大問題だとは思うけど、高崎と野坂が襲わないから危機感を持たないっていうのがアタシの持論だからねえ」

「とか言ってお前菜月に手を出したらソイツ殺すんだろ?」

「殺すよね」


 そうなんだよなあ。菜月さんにはお麻里様というモンペがついてるからなあ……。


「でもさ、言って菜月も最近はそこまでぐだぐだにならないじゃんね、飲んでも」

「そうなんですよね。それも麻里さんの教育の賜物です」

「でも高崎と野坂にはベタベタなんだから、そういうことじゃん。気を許してる」

「まあ、言ったら難ですが、僕の見解では彼女はその2人からなら手を出されても拒否しないと思いますよ」

「きゃー圭斗ふけつー」

「きゃーさすが圭斗さん、愛の伝道師だけあるわー」

「アンタらには言われたくないわ!」

「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」

「圭斗マーさんうるさい」

「すみませんでした」

「それはそうと、野坂の冷やかしと、三井のイキりを確認するのと、奈々が可愛いかつ面白い情報を持っているのでぜひ一度サークルにいらしてください」


 結局ここがいいお店だということを忘れて普通にいつものように会話をしてしまったので、反省。

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