outside approach

「ん」


 ピロンと通知が来たかと思えば、菜月だ。風邪をひいて起きられそうにないから今日のサークルは休むと。僕からすればとうとうこのシーズンがやってきたねという感じだし、特に驚きはない。わかりました、お大事にとだけ返信する。


「本人の予告通りだね」

「予告ですか?」

「先月に、君でもまだちゃんと授業に出ているんだねと菜月を小馬鹿にしたんだけど、この辺りに絶対やらかすから貯金を作ってるというようなことを言っていてね。彼女の言っていた“この辺り”というのがまさに今週のことだよ」

「なるほど。確かに、土曜日からそんな感じではありました」


 土曜日にあった昼放送の収録こそ大した影響もなく行えたようだけど、どうやらその後で風邪が進行したらしい。1週間もあれば治るだろうけど、例年彼女の風邪はノドがやられて咳も酷い。今年もきっとそうだろう。


「土曜日からその気があったんだね」

「はい。それなのに、俺のことを気遣っていただきまして」

「対策委員の関係かな?」

「対策委員の現状や俺の思いなどを聞いていただきました。それで、せめてもの気晴らしにと「お前のしたいことをしよう」と」


 三井が対策委員を荒らし回りやりたい放題している現状で、一番追い詰められていたのが対策委員議長の野坂だ。菜月は前議長として議長の苦しみも理解し得るし、番組の相方として、野坂の一先輩として手を差し伸べたんだろうね。


「それで、お前は大丈夫なのか」

「はい。ご心配おかけしました」

「講習会は」

「もう今週末ですし、いつまでもうじうじとはしていられません」

「定例会議長として聞くよ。現状は、どうなってる」

「三井先輩は講師としてプロの人を連れてくるの一点張りです。そのプロの人が誰なのかも教えてもらえていません。三井先輩は講師候補の先輩方に対する誹謗中傷に終始していますし、つばめとは一触即発です。それで、高崎先輩をディスられた果林がとうとうキレて「そこまで言うならプロとやらを連れて来い、その代わりこっちの要求することからひとつでも外れたら即打ち切るし謝礼も出さない」と宣言してしまいまして」

「もし打ち切った場合、講習はどうするんだい?」

「果林が猛特訓しているそうです」


 とんでもない話になっているなと思う。三井の話のベースは自慢話だけど、自分や上げたい対象を上げるだけでなくその他の対象を蹴落とさないと気が済まないというのが面倒なのだ。みんながみんな「はいはい」と三井の話を受け流せるというワケでもない。

 お前がそこまで言うなら高崎を出すまでもないとキレた果林。三井の売った喧嘩を正面から買った結果、この話には関係のない朝霞君のプロデューサーとしての実力までバカにされてキレたつばちゃん。男子は女子が三井とやり合うのが怖くて引いているらしい。


「俺も三井先輩があまりに支離滅裂なことをおっしゃるのでついお前の目は節穴か的なことを言ってしまいまして……」

「いや、お前には言う権利があるし実際節穴だ」

「ですが、一応は先輩なので」

「ん、MMPではそうかもしれないけど、インターフェイス的にはただの3年よりも対策委員の議長の方がその力は強いよ。野坂、お前はもっと堂々としてていい。と言うか、女の子たちが頭に血が上っている以上、お前が最後の砦として毅然としていなければいけないんだ。お前が議長として発した言葉にこそ効力がある。お前がプロ講師を認めると言わない限り、アイツの行動はただの暴走だ」


 定例会でも対策委員でも、トップであるということはそれなりに責任があるということだ。議長がこう言ったから定例会は、あるいは対策委員はこういう考えですよと代表される。今回の場合でも、対策委員の議長がお前などお呼びでないと再三言っているにも関わらず介入し続けて迷惑をかけている三井が論外なのだ。


「野坂、これ以上何かあれば僕に言うんだ。定例会案件にするよ」

「ありがとうございます。ですが、もう少し自分たちで頑張ってみようと思います」

「ん、そうかい」


 僕が対策委員にどのように力になれるかはわからないけど、僕にやれる唯一にして最大の方法が、定例会を動かすということだ。彼女のように隣で寄り添い、癒すことは出来ないけれど、彼女とは違うアプローチで僕も力になろう。

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