初夏の風は対岸のもので

「あ、何か来た」


 サークルまでの間にある空きコマに、ヒビキと坂の下のカフェでお茶をして。パンケーキを食べていると、ヒビキのスマホに通知が入る。


「どうしたの?」

「んー、何か五島クン。でも何だろ、ファンフェスは終わったのに。対策委員絡みだったら大体の連絡はKちゃんなんだけどなー」


 ヒビキは今年の初心者講習会でアナウンサー講師としてお声がかかったようだった。今の4年生が対策委員だった代から始まって、今年で3回目になる講習会では、講師を3年生にお願いして、インターフェイスでやるラジオの基礎を教えてもらうことになっている。

 毎年、アナウンサー講師とミキサー講師、それから全体講習をやる講師の3人がいるような感じで、アナウンサー講師はインフォメーション放送の技術が高いという理由で青女から選出される傾向にあった。で、今年はヒビキが担当することになったんだって。

 ちなみに、全体講習を担当する講師は高崎クンが、ミキサー講師は伊東クンっていう、極めて順当な選出の仕方だったなって。でも、最近のKちゃんの様子を見てると今年の対策委員もなかなか大変そうだなと思う。去年とはまた違う種類の苦労があるそうで。


「え、なにそれ」

「どうしたのヒビキ」

「何か、対策委員の会議に三井クンが乱入してるんだって最近。それで、何かプロのラジオパーソナリティー? っていう人を講師に勝手に呼んでるらしくてアタシたち学生には降りてもらうように言っとかなきゃ、的なことを言ってたみたい」

「三井クンが勝手に言ってるんだよね?」

「そうだね。で、三井クンがそんなことを言って来てもそれは対策委員の意思ではないし、これからもそんなことがあるかもしれないけど自分たちは先輩たちに講師をお願いしたいと思っています、って書かれてる。で、高崎クンとカズにも同時送信されてるね」


 そのメールを送ったのが議長の野坂くんや委員長の果林ちゃんじゃなくて五島くんだっていうのが少し気になったけど、対策委員が三井クンに荒らされているとすれば、自由に動けるのは逆に三役的な役職じゃない子だろうなって。もしかすると、五島くんの機転だったのかもしれない。

 そしてアタシは前対策委員だけにそのメールに関して少し深読みをしてしまう。文面と言うよりも、その行為に。講師候補の面々は、講師をお願いされるだけあってそれなりにインターフェイスでも名前が通っているし、ヒビキや伊東クンは定例会三役という立場がある。


「もしかしたら、救援要請かも」

「救援要請?」

「定例会でも状況をわかってて欲しい、みたいな」

「そうかな」

「考えすぎかもしれないけど」

「まあ、定例会には伝わるよね。カズにも同じメール行ってるし、圭斗が状況わかってないはずないだろうから」


 アタシたちはあまり定例会を信用して来なかったと言うか、頼ることをしてこなかったけど、今年の定例会は対策委員を助けてあげて欲しい。と言うか、2年生で構成される対策委員が3年生に荒らされてるなら、3年生もいる定例会で何とかして欲しいと思う。


「ヒビキ、対策委員の子たちをお願いね」

「任せといてよ。定例会三役敵に回して無事でいられると思うなってーの」

「でもさ、その、プロの人って誰なの? 誰でも知ってる人?」

「何かさ、Kちゃんの話ではそれが誰かも教えてもらえてないみたいなんだよね」

「えっ、その人が本当に講師をやることになってたとして、打ち合わせとかって。あっ、でも講師はヒビキたちか」

「アタシたちはそれぞれちゃんとやってるよ。アタシはKちゃんや果林ちゃんと何回も話してるし、カズもきっと野坂クンや五島クンと打ち合わせてるよ。でもプロ講師って人とは何もしてないと言うか、それ自体三井クンが勝手に言ってるだけだからね」


 ヒビキはあくまで議長が言ってこない限り講習会に関する件でスタンスを変えることはないよ、とこれまで通り準備を進めることを再確認してパンケーキの最後の一口を頬張った。うん、動じてない。さすがヒビキ。


「ただ、この件で野坂クンが結構消耗してるっぽいんだって。ほら、大学でも三井クンと顔合わせるし」

「あー、しんどいねー。向島さんのことだし、野坂くんのケアは菜月ちゃんが何とかしてくれるといいんだけど」

「そうだねー。でも、野坂クンなら菜月から励まされたら一発で回復するよ!」

「だよねー。野坂くん、片想いが報われるといいよね。真面目ないい子だし」

「ホントだよねー。って言うか菜月が鈍いんだって!」

「でも、菜月ちゃんは高崎クンともいい雰囲気だから……」

「と言うか、高崎クンとくっつかないとヒメとかいう過激派が怖いとも言うかな」

「あ、そうだヒメちゃんが……」

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