脇道のサプライズ

「いやあ、突然ごめんね沙都子」

「直、アンタホントに頼む気?」

「1年生の子たちと3年生の先輩の様子を見てたら、ボクは話してみる価値があると思うんだ」

「ったく、好きにしなさいな」


 何が何だかわからないと言った様子で沙都子はきょとんとアタシたちを見ている。今はもう来週末に迫った植物園ステージに向けた詰めの話し合いという体で2年生の3人が集まったものだとばかり思ってるんだと思う。

 そのステージは今のところ順調に進んでいて、ほとんど計画通りに行っている。台本に沿った練習も出来ているし、衣装も小道具も進捗は良好。直前の日曜日はもしかしたら休めるかも、という余裕まである。

 アタシと直はその日曜日についての話をするために集まっている。沙都子はステージの話だと思っているようだけど。来週の日曜日、20日は沙都子の誕生日。時間に余裕があるならパーティーをしようと沙都子を除くみんなで話し合って決めたまでは良かった。


「えっと、直クンの衣装を作るみたいなことかな」

「作るのは正解だけど、作ってほしいのはボクの衣装じゃなくてケーキなんだ」

「ケーキ? いいよ、どんなケーキがいい?」

「沙都子が好きなケーキを作って欲しいなと」

「直クン、それはちょっと困るかな。やっぱり、食べてくれる人が好きなケーキの方がいいと言うか」

「……啓子、どうしよう」

「アンタが言い出したんだから自分で何とかしなさい」


 事の発端は沙都子の誕生パーティー開催会議でのこと。誕生パーティーをやるからにはケーキは必須だという話になった。それに対しては全員で「そうだねー」とまとまって、それじゃあどこのお店でケーキを買おうかという話になるかと思うでしょ。

 直が唐突に「久々に沙都子のケーキが食べたいな」と言い出した。確かに4月にあった紗希先輩の誕生日も沙都子が忙しくてお店のケーキでパーティーをやったけど、沙都子を祝おうって言ってるのに沙都子にケーキを作らせるのかと。

 祝う相手に作らせるのは少し違うんじゃないかと思ってアタシは直と意見を交わしていた。その間に、こんなときには沙都子がケーキを作って来てくれて、という話を3年生の先輩が1年生たちにしてしまっていたのだ。すると始まるのは「さと先輩のケーキ~」の大合唱。

 百歩譲ってケーキを作ってもらうのはいい。じゃあ、何のために作らせるのかという話が始まる。あくまでも沙都子の誕生パーティーのためのケーキであって、そのパーティーはみんなで「サプライズにしようね」と決めた物。目的を言わなきゃケーキを作ってくれなんてそうそう言えなくない、とまた始まる論争。

 結局アタシは頼むなら自分で頼みなさいと直を突っぱねて現在に至っている。同席しているのは、直は相手の様子を窺おうとし過ぎてなかなか話の本筋に入れない癖があるからだ。回り道しすぎると言うか。


「えっと……ステージの準備に余裕があるから、今度の日曜日は練習とお茶会をしようっていう話になって」

「あ、そうなんだ。えっ、あたし聞いてないよー!」

「ごめん、沙都子は衣装作ってくれてたし、みんな大道具作りでバタバタしてて連絡し忘れちゃったのかな、あはは」


 直のヘタクソな愛想笑いに合せるように、沙都子もそうなんだ~と納得はしている様子。さて、それからどうする。


「えっと、それで、アフタヌーンティー? みたいに出来たらなーと思って、えっと、午後の紅茶的な何かそんな優雅なお茶会もいいねって、あとほら1年生の子たちはまだ沙都子のケーキを食べたことがないしボクもバレンタインのチョコがやっと抜けて甘い物を食べられるようになって、ねえ!」


 直は変な早口だし話が脱線してるような気がしないでもない。ほら、沙都子もぽかーんって感じでワケがわかってない。


「えーと、直クン?」

「直、下手すぎ」

「これ、事情はKちゃんに聞いた方がいい感じかな」

「はーっ……掻い摘むと、お茶会ってのは沙都子の誕生会ね。だからケーキは沙都子の好みで作ってもらえば大丈夫、的なことを直は言いたいんだけど、アタシは祝う相手に作らせるのはどうなのっていう派閥ね」

「え、あたしの誕生会? わー、嬉しい。張り切って作っちゃうね!」

「あ、作る路線で行くんだ」

「だって、あたしのケーキが食べたいってそんなに思ってもらえてるって本当に嬉しいから」

「ゴメン沙都子、内緒にしてて」

「うん。あたし、びっくりするの苦手だから言っといてもらった方が助かるな」

「あと、啓子は説明ありがとうございます」

「ホントに」


 結局、サプライズのはずだったパーティーにサプライズ要素はなくなり、当日は沙都子の作ったケーキでそれらしいお茶会が開かれるんだと思う。と言うか、祝う相手に作らせるのかとは言ってたけど、アタシも沙都子のケーキは食べたかったから。


「あ、そうだ。衣装合わせであたしから2人にプレゼントがあるんだ」

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