pieces or scraps

「そろそろ番組のことも考えないといけないね」


 圭斗が突然真面目なことを言い始めた。いや、放送サークルなのだから番組のことを考えるのは大事なことだし何も間違ってはいないんだけど。

 放送サークルMMPでは、通年の活動として食堂での昼放送をやらせてもらっている。昼放送は、昼の12時20分から50分までの30分番組だ。合間に学食のフェア情報などを織り込みながら、基本的には自分たちの企画番組をやっていくというもの。

 この放送は事前に収録した物を放送するという形を採っている。去年の春までは生放送でやってたんだけど、夏休みの間に食堂の機材が変わって生放送が出来なくなってしまったのだ。以来、収録形式を採用した。


「昼放送のペア決めとかか?」

「それもだけど、昼放送以外に何かひとつ作りたいなとも思ってるんだよ」

「ああ、なるほど、一理ある。何かやんないと昼放送以外に何もしてないサークルになるもんな」


 ――というワケで、本来昼放送の方が急ぎの用事であるにもかかわらず、始まったのは昼放送でない番組企画案の大喜利だ。MMPのスタイルは、とにもかくにもアイディアを出していくこと。それらしく言えばブレーンストーミング、実際は大喜利だ。

 大喜利と呼ばれる理由は、真面目なブレストと言うよりは悪ふざけの塊のようなアイディア、もといボケばかりが飛び交うからだ。先代MMPが悪乗りのムライズムという風土だったから、そんなような空気が引き継がれてるんだな。


「せっかくスーパーファミコンがあることですし、ゲーム実況をしましょう」

「ラジオでか」

「プレイヤーと実況解説を分けるなど」

「状況を事細かに説明する能力が問われるね」

「ラジドラはどうでしょうか」

「台本は誰が書くんだ」

「ん、それは菜月じゃないかい?」

「完全に人任せじゃないか」

「敢えてのロケに出るなど」

「ロケ?」

「お散歩番組的な」

「ああ、なるほど。コストもかからないし即興でも何とかなるからね」


 やいやいと、好き勝手に発言が飛び交うのをうちはホワイトボードに書いていくのだ。何がどう使えるかはわからない。一見これはないだろうという意見も全部拾う。大喜利の書記は聴力と筆の速さが問われる仕事だ。


「散歩、悪くないね。それで神崎、どこを巡るんだい?」

「その辺で良くないですか。犬の散歩コースになるくらいですし」


 何か、散歩番組路線が濃厚になってきたような感じだ。実際に歩きながら録音をして、撮って来た物を編集、その上からナレーションを被せる形でどうだろうというところまで話が進んで来た。歩く人とナレーターを分ける、ナレーターの台本はうちが書けなど、これまでに出たネタをちょこちょこ拾っている。


「ん、とりあえずブラケイト路線で行くことになったワケだけど、ナレーターはどうする?」

「三井でいいんじゃないか? アイツはナレーションならそこそこ雰囲気あって上手いし」

「そうか、じゃあそうしようか」

「隣を歩くアシスタントはどうしよう」

「とりあえず、女の子がいいね。奈々、僕とお散歩しようか」

「行きますッ!」

「収録と編集などは2年生に頑張ってもらうとして」


 思いがけず散歩番組の話が盛り上がったところでふと気付く。本来やらなければならなかったのはこんな、いつでも出来る番組の話ではなく5月開始だと決まっている昼放送の話ではなかったのかと。


「ん、これなら面白い感じになりそうだね」

「圭斗、忘れかけてたけど昼放送の話はどうした」

「……みんな、履修登録を今すぐ出そうか?」

「まさか今からペアを決めるつもりか」

「ん、決めないともう日がないからね」


 現在時刻は午後6時。かれこれ2時間は恐らく最終的にやりもしないであろう散歩番組の妄想に費やしていたことになる。サークルが終わるまではあと1時間。果たして、ペア決めは間に合うのか。


「ところで、ペアを組んだことがあるとかないとかは無視して決めるよ。無視をしないとペアが組めない」

「了解」


 ファンフェスのように、まーた定例会議長サマもとい圭斗の独断と偏見によるペア決めが繰り広げられるのか。まあ、何でもいいんだけど。

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