メリーさん リターンズ

 俺が病院から退院した後のことだ。俺のスマホに電話がかかってきた。

「私、メリーさん。今駅前にいるの」

 電話代が馬鹿にならないんだぞ、と怒ろうとすると、

「あなたのメールアドレスを教えて」

 メリーさんも考えたものだ。俺は素直に教えた。すると電話はすぐに切れた。

「…で、俺たちが集められたというワケだな?」

 俺の家には、勇気あるカゲト、金あるランドウ、嘘あるホムラがいる。

「メリーさんには悪いが、ここで正体を暴かせてもらおう」

「楽しみだわ!」

 俺たちはやる気だ。問題はメリーさんがこれに気がつかないことなんだが…。

 いや、大丈夫。この時のために3万円もした大きめのフランス人形を買って、大学の倉庫にこっそり置いて来たのだ。来ない理由がない!

 数分後、メールが来た。

「わたしめりーさんいまこうえんまえにいるの」

 そのメールを見た俺たちは大爆笑した。

「メリーさん、携帯、初心者過ぎる!」

「カナ変換もできないのかよ!」

「これなら電話の方がまだましだよ~」

 俺は「悪霊退散」と彫られた金づちを握っていたのだが、馬鹿らしくなって手放した。

「返信、しておくかい?」

 しかし、また逃げられても困る。だが数秒後、

「わたしめりーさんめーるとどいてるかどうかかくにんしたいからへんしんちょうだい」

 とメールが来た。変換できなくても、打つのは速いな…。俺は「問題ない」と返信した。

 その後も何度もメールが来た。

 ついにあと少しで俺の家。俺はカゲトたちに隠れるよう言い、玄関の鍵をワザと開けて待った。

 ピンポーンと、インターフォンが鳴った。それに出ると、

「私、メリーさん。今あなたの家の前にいるの」

「玄関は開いてるんだ。早く上がって来いよ」

「いいの? じゃあ、遠慮なく」

 玄関が開いた。家に入って来たのは、俺が捨てたフランス人形。これが今回のメリーさん。

「見ぃつけた」

 メリーさんが前進する。俺は、見て見ぬフリをした。

「よくも捨てたわね!」

 割とお怒りである。だが、

「もらったぁ!」

 隠れていたカゲトたちが一斉に飛び出し、縄でメリーさんを縛り上げた。

「作戦通りだ。メリーさん、確保!」

「く、悔しい…」

 さて、捕えたメリーさんをどうするか。野放しにすると性懲りもなく俺の家にやって来るしなあ。

「近所の寺に預けたら? 供養して下さいって」

「この場で叩き割ろう」

「呪いの人形ってテレビに宣伝すれば、出演料もらえんじゃね?」

 だが俺は、縄で縛られたメリーさんを見ているとなんだか悲しくなってきた。

「解いてやれ。家で飾っておこう。もとは、俺が買った人形なんだからよ」

「本当に? またお寺に持ってたりしない?」

 前にもらった紙は確かに即日寺送りだったが、そんな事はもうしない。

 俺たちは部屋の一部を片付けると、メリーさんの人形をそこに飾った。

「これ、やるよ。俺からのプレゼントだ」

 俺が高校時代に使っていたガラケーをメリーさんの側に置いた。


 結局メリーさんの正体って、何なんだろうな?

 昔上映された「学校の怪談」では、まさかのスイカだった。今回のは、俺が買って直後に捨てた人形だったけど。

 そもそも、携帯をどうやって手に入れるんだ? メリーさんが携帯会社と契約できる気はしない。身元不明の幼女か幽霊か人形が、営業所にきてお金も払わず「携帯下さい」って言ってきたら、店員も困るだろうし。

 ここでメリーさんの起源について、俺がある説を提唱したい。

 それは、「携帯を持っているとメリーさんから電話がかかってきて危ない」と親が子供に言って、携帯を諦めさせた。

 どこか聞いたことがある? そりゃあるよ。だってまんま口裂け女の起源だもの。

 どうも、「○○がいるから危険」系は、親が子供に諦めさせるための口実にしやすいんだろうに。だからメリーさんの起源に口裂け女の説が適応できるんじゃないかって俺は思う。あと、メリーさんの場合、捨てた人形が正体なら、ものを大事にしなさいって忠告にもなる。

 俺の言うことが嘘に聞こえる? でもいいんだ。それが都市伝説ってヤツなんだ!

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