ミミズバーガー

 俺が大学1年生の時の話だ。

 国立の大学に現役で合格・実家暮らしと、どう見ても経済的に困っている様子がないにも関わらず、親がアルバイトをしろって言った。

 仕方なく俺は駅前のファーストフード店でバイトをした。

 レジ打ちしたり、商品運んだり。時にはフライドポテトを揚げた。

 しかしどういうわけか、ハンバーガーだけは任されることがなかった。

 一番気になったのは、ハンバーグの出どころ。アルバイト店員は立ち入り禁止の扉があり、ほとんど店長が出入りしていた。

 人間って睡魔と好奇心には勝てない。俺はこっそり入ることにした。

 その扉をくぐると、地下に続く階段が現れた。ここで引き返したら俺の肝っ玉は商品のチキン以下。もちろん降りる。

 降り切ると、今度は飼育室と書かれた扉。迷わず開く。

「……?」

 そこはいくつか棚があって、プランターが何個も置かれていた。そのプランター、土は入ってるのに、植物は一本も生えていない。

 何だコレはと思って、土に手を突っ込んでみた。そしてちょっと掘る。

「…………!」

 思わず叫びそうになったので、もう片方の手で口を塞いだ。

 ミミズだ。大量のミミズが、プランターで飼育されている…!

 気持ち悪すぎて吐きそうになったが、奥に調理室と書かれた扉があった。ここでも先に進むことを選んだ。

 扉の向こうから機械音がしたので、誰かいるなと俺は思った。だから扉を音を立てずに開けた。

 店長がいた。ミンチマシーンの前で、ボウルを持って立っている。そして次に、信じられない行動に出やがった。

 ボウルには大量のミミズが入っており、それを全てミンチマシーンに突っ込んだのだ。

「うお」

 俺は声を出してしまった…。

「見たな…?」

 無駄にドスが聞いた店長の声。しかし、店長はやさしく教えてくれた。

 ハンバーグには牛肉を使わなければいけないことはわかっている。だがコストを少しでも下げるには、牛ではなく食用ミミズの肉を使うしかないとのこと。

 俺はその日のシフトが終わると、バイト代が入った封筒を手渡しされた。

「君はクビだ」

 まあ立ち入り禁止を破ったんだから当たり前だろう。同時に、バイト代の封筒よりも厚い封筒を渡された。口止め料。俺はすぐに理解すると、二度とこの店に来ないと決めた。


 さてこのミミズバーガー、実際には存在しない。だから安心して、目の前のファーストフード店に足を運んでくれ。

食用ミミズは一応、本当にいる。釣り人に需要があるらしいから、そっちの方面で使われているようだ。

 しかし、驚いたことにこのミミズ、高額だ。

 ミミズの養殖なんてほとんど行われていないから、必然的に値段が高くなるのだ。どれくらいかって? 同じ重さの高級牛肉並みだ。これではコスト削減どころか、赤字倒産しか見えてこない。店長、合掌である。

 仮に養殖できたとしよう。ミミズから土を吐かせるという、細かい下ごしらえをしないといけない。これも手間でしかない。

 最大の難所が、不味いというところ。これは恐らく、未来永劫クリアできそうにない。

 ミミズの名誉(?)のためにフォローしておくと、高たんぱくで栄養があり、漢方薬として使われている。食用以外には、土を綺麗にしてくれる。

 もし周りにミミズバーガーを信じている人がいたら、その人はミミズだけに何も見えてないんだと思う。

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