第19話 おっさ(略 ですが研究にはお金(スポンサー)がいるのです


 ロメリオの商店に着くなり驚いた。小型の宮殿か何かかと言いたくなるほどの威容である。よく考えたら研究所もあまり規模変わらないのだが、商店儲かるんだなぁと呆れるしかない。俺の隣でクリスも驚きを隠せないようである。


「うっわぁ……おっきいです……」

「クリス、なんか言い方が変になってないか?」


 聖剣の冷たいツッコミを聞き流しつつ、案内されるまま中に入る。王宮より調度品豪華なんじゃないのかここは?廊下の色あいはシックな色合いだが、照明(これも王宮より明るくなっている)のおかげで暗さを感じさせない。


「お疲れでしょう、まずはお身体でもお流しになりますか?」


 流す?風呂でもあるのか?


「うむ、ではロメリオ、先に入るぞ。ほらクリスも」

「えっえっ……ちょっと……」


 クズノハが呆然としていたクリスを風呂に連行する模様だ。きちんと洗ってもらうといいよ、特に髪とか。


「驚いたな。風呂とかあるのかここは」

「風呂というより、掛け流しですがね」

「掛け流し?」


 いまいちピンとこないな。なんのことを言っているのかわからない。気になるから見て見たいが、二人が風呂に入っているからさすがに見れない。風呂の近くをウロウロしていると。


「……覗きは禁物ですよ」

「違う違う。掛け流しってのがなんなのか気になって仕方がないんだ」

「それなら二人が出たあと入られます?私も一緒に……」

「一人で入りたいから勘弁な」


 小さく舌打ちするロメリオを横目に二人が上がってきた。しかしそれネタでもヤダぞお前。だいたい妻帯者だろお前。あれ?


「クリス?髪の毛どうなってんの?」

「えっ?これですか。クズノハさんに洗われたらこうなりました」


 すげぇサラサラになってる。ストレートになってるみたいだ……。


「クズノハさん、どういう成分だこれ。後で聞かせてくれ」

「……興味を持つところがおかしいだろ」


 うるせぇよ聖剣。あんだけの癖っ毛がこんなにサラサラにってちょっとビビるわ。それより風呂だ風呂。掛け流しとやらを見てみるぞ。……ってこれ


「シャワーだー!」


 そんな驚くようなものでもないのかもしれないが、この全然技術的には現代地球に遠く及ばない異世界にシャワーが忽然と存在したらびっくりはする。


「どういう仕組なんだこれ?」


 2つの蛇口の周りを見たり、椅子に乗ってお湯を、そう、お湯が出るのだ!ともかくお湯を出す仕組を調べてみているが……外から見ただけではよくわからない。あとで2人に聞いた方が早いだろうな。


 風呂から上がるとマッサージチェアでクズノハが変な声を出していた。老人かよ。いやそれよりマッサージチェアがあるのが驚きだが。


「おう、長湯じゃったな」

「別にそうでもないんだがな。あの掛け流しの仕組が気になってな」

「何、大したもんじゃないわ。水源から管をつないで圧を魔力でかけ、水温を計って火魔法魔道具で作った湯と混ぜとるだけじゃ。湯温調節は鏡からできるぞ」


 温度安定すらさせてるのかよ!オーバーテクノロジーにも程がある。しかも鏡がタッチパネルかなんかとは……。


「旦那様、奥様。そろそろ夕飯のご用意ができました。……こちらのお二人が」


 メイドと思しき女性がやってきたが……あれ?耳が?


「耳が4つ……だと?」

「わしの眷属のサユキじゃ。わしも隠しておるが」

「えっ?動物の耳みたいなのがありますよ!?」


 クリスのいうとおり、クズノハが髪をどかすと頭に動物の耳のようなものが現れた。その位置に耳があったら大脳のサイズが小さくならないか!?


「これ、本物の耳ですか?」

「動物の耳のように見えるが耳ではないな。ある意味わしらの本体じゃ」

「本体」

「脳に直結しここまでの生き様を遺したものよ」


 ケモ耳型外付け記憶装置か!この世界には、どうも俺どころじゃないマッドサイエンティストが過去にいたのだろうな感をひしひしと感じる。いいなぁ俺もやりたい。俺は違法ダウンロードだが。


「奥様」

「うむ。立ち話もなんじゃ。みなで食べるとしようか」

「ではこちらに」


 食堂に案内されると、並んでいるメニューにまた驚愕する。地球でも見たことがない手法の料理だ。何の料理の進化だか見当がつかないものまである。まるで絵画か彫刻かのような料理まであるぞ!


「これ食べられるんですか?」

「どう思われます、勇者様」


 クリスが恐る恐る明るめの茶色の鳥のオブジェにスプーンを当てる。柔らかい感色なのだろうか、あっさりオブジェにスプーンが沈み込む。一部をとって口に運ぶ。


「何ですかこれ!柔らかくて口の中でスゥ……っと溶けていきます!しかもこの味まるで鳥肉のスープ……違う!それだけじゃないです!何だろうこれ!ポーションに使ってる香草ハーブ!?」

「お気に召したようで何よりですね」

「よかったわい」

「俺も食ってみるか」


 最初以降黙々と食べ続けるクリス同様、俺も次々出てくる料理に驚かされ続ける。どうも3Dプリンターかそれに類する技術を使っているんじゃないかという気がする。


「わしらの時代では昔の料理だったんじゃが、気に入って何よりじゃ」

「これが昔の料理って、あんたらどれだけ未来に生きてるんだよ」

「たまにお前古代人みたいなこと言うな」


 そういう聖剣もそうだが、オーバーテクノロジーの時代の連中からしたら俺は原始人みたいなもんかもしれない。クリスやアランなどからしたら、どっちも似たようなもんかも知らないが。


 様々な料理に色々と驚愕しながら、食後のお茶をしつつだべることにする。


「ふぅ……ご馳走さまでした。こんな美味しいもの王宮でも出してもらえませんでした」

「そうだな。美味しすぎだろ」

「大したものではないんじゃがのう」

「ところで、聞いていいならだが、この商店、一体何を売ってこんなに儲けたんだよ」

「そうですね……それの説明に至る前に、ちょっと問いかけですが、人間に必要なものは何でしょう」


 変なことを言い出したなロメリオ。クリスが指折り数える。


「えっと、衣食住ですよねまずは。食べ物、着るもの、住むところ。これらはどうしても必要です」

「そうですね。我々はそのひとつを主な商品として扱っております」


 ここまでこの商店で全て驚かされ続けてたが、逆に考えてみるとだ。驚かされていたものは売ってないだろうな。もし売ってたらその商品を見ないはずはない。だとすると……


「……服か?」

「ご明察じゃな」

「ロメリオ商店では、主に繊維業とそれに関する商売を行なっております」

「何しろこの世界ではロクな服もなかったからのう。わしが復活してからまず思ったのはそれじゃ。かわいい服がない!」

「全くです奥様」


 サユキ、ここだけは口にしたかったんだな。そんなにひどかったのか。


「そんなものですか?」

「そんなもんじゃ!お前は女なのにこだわりないのかクリス!」

「別に……」

「ダメじゃダメじゃダメじゃ!おうヒラガ!ちょっとクリスを借りるわ」

「目的によるが何をすんだよ」

「かわいくこーでぃねーとじゃ!!」

「えっ」

「いいぜ。たまにはいいんじゃないか?」

「えっえっ……?」

「せっかくいい素材ですのに……ねぇ奥様」

「うむ。よし行くぞ!」


 こうして首根っこ掴まれる勢いでクリスはクズノハに連行されてしまった。そんな売られて行く仔牛のようなかわいそうな目をすんじゃないクリス。


「いいんですか?」

「いいと思うぞ。クリスにも人並みの幸せを目指して欲しいからな」

「勇者様、おきれいにすれば引く手あまたになりますよ。手をこまねいていては」

「いいんじゃないか?それがクリスの幸せになれば」

「やれやれ」


 何が言いたいんだか。


「ところでロメリオ。繊維業ということだが、大量の糸はどうやって手に入れている?」

「魔導機械紡績によるものをクズノハが再現したのですよ。自然界の魔力を元に植物を材料に糸を作る。まずはここがはじまりでしたね」

「セルロースか……それだと庶民向けだな」

「はい。その他に高級素材として採糸巨蟲グランシルワームを使っております」


 採糸蟲シルワームといえば地球のカイコのような生物で、糸でマユを作るやつだが、グランシルワームとは初耳だぞ。


「どんなやつだそれ」

「人よりも大きな蟲ですよ。動物並みの知能もあって糸で何かを作るのが好きなんですよ。寿命も長いんで使い勝手がいい生き物ですね」


 そんなのいるのか。ファンタジーいい加減にしてくれ。


「自発的に作るのか!?凄いな」

「簡単なモノなら作ってしまっていますね。無縫衣作れるので教会にも感謝されています」

「無縫衣かよ……別の意味でモンスターだな。飼育は大変なんじゃないか?」

「そうでも無いですね。基本植物食ですし。知能がかなり高いおかげで、問題があったらこちらに伝えてくれますし」


 とんでもない生き物だな。あまりに人間に都合が良すぎる。ということはおそらく……。


「ん?そういえばクリスはどうしたんだ?」

「髪もセットしとらんしメイクもほぼなしで服着せただけじゃが、大したもんじゃ。きちんとしたらどこかの王室の姫さまと思われるかもな」


 連れてこられたクリスは、どうやらロメリオ商店の服を着させられたようだ。確かに普段からするとどこかの姫様のようである。……この世界の服というよりは地球の服に近いか?淡いピンク系の色あいに、白の刺繍は鳥だろうか?女性ものの服についてはよくわからんが、パーティドレスのような感じだ。クリスは少し頬を染めている。正直なところ……。


「普段もいいけどこういうのも似合うんだな」

「えっ……なんだか恥ずかしいです……」

「何を恥じることがある。ほら胸を張れ。堂々とする」

「……ちょっと胸元キツイんですが」

「おっと、それはすまぬ」


 胸元が開いているわけではないから逆にキツイのか。


「その服はクリスにくれてやろう」

「えっ!そんな!こんな高価そうな服はちょっと」

「そしてお主にはこれじゃ」


 クズノハが俺に何か箱のようなものを渡してきた。おいこれ前に、よその店で生物種の鑑定に使ってたヤツじゃねぇか。なんでくれるんだよ。


「こんな高いもんくれるってなんでだ」

「お主に頼みがあるからな」

「なんだよ」

「お主は生物の遺伝子を操作することができるんじゃろ?」

「……できないぞ今は」


 どこで知ったんだそんなことを。確かに遺伝子操作ができる可能性はあるにはあるが。


「そしてお主がこれを欲しがっておるのも聞いておる」

「それはそうなんだが」

「そこでじゃ。遺伝子を操作した結果生み出される産物をわしらのところで売れないかとな。独占的に」


 そうきたか。今の所金に困ってはいないが、金はあっても困らないな。しかし……


「悪い話ではなさそうに聞こえるが、独占させるわけにもいかんな。それで自由に研究ができなくなると困る」

「なんじゃ、そんなことか。研究を自由にしてもらうのはお主の自由じゃ。むしろお主、仮に何かいいもの作ってもそう高くは売れまい。販路もなかろうが」

「今の所は魔王討伐の道中、魔王軍幹部とか襲ってその財宝奪ってたがな」

「山賊か。山賊まがいのことより研究せんか」


 そりゃそうだ。しかし大店のパトロンか……どうなんだろうな感は否定できない。昔の研究者にも多くいそうではあるが。企業の食客。


「わかった。それを決めるかどうかはまだわからんが、ひとまずありがたくいただいておくぞ」

「それなら構わん。持っていくがいい」

「クリスの服も構わんな」

「そんなケチケチしたことは言わぬわ。可愛い女の子は正義じゃろが」

「……その通りだ!クズノハ、前の発言はすまなかった」

「わかってもらえたら何よりじゃ聖剣よ」


 クリスが真っ赤になっている。みんなもっと褒めてくれていいぞうちの従業員。


「ところで聖霊さまの居場所を見つけないといけないのですよね。うまくいきそうですか」

「それがわかれば苦労はないんだよな」


 思い出したようにロメリオが地図を持ってきている。そして机に広げ始めた。


「歴史書と地図を合わせて、さらにそれを重ねるとですね」


 机の下が突然明るくなった。紙をペラペラとめくって行く。


「動いて……いる?」

「動いているというより周りの環境が変わって地図上の位置が変わったんだろうな」


 ペラペラめくり続けていくうち、目印はあるところに行き着いた。


「おい……これは……」

「火山ですね……」


 急激な地殻変動で火山に飲み込まれてしまったのだろうか。火山灰ならまだいいが溶岩だとあかんヤツだ。ひとまずその付近に行くしかないが、本当に見つけられるだろうか聖霊。

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