第68話 食事が始まる
シンジは、グラスの中の液体に口を付ける。
その液体が、何の果物で出来ているのかを容易に想像させる香りが鼻を抜けていき、同時に、発泡した液体がシンジの口を刺激する。
その刺激に負けない程の強烈な甘さが、口を覆っていくが、なのに、あっさりと飲めてしまえるように調整された酸味。
奇跡のバランス。
シンジは、その液体が何なのか、察した。
「……ファ○タかよ!」
その中身は、グレープ味の、炭酸飲料だった。
シンジは雰囲気的に、中身はお酒だと思っていたから中々拍子抜けである。
「俺これ好きだし。お酒苦手だし」
コタロウは、おいしそうにファ○タを飲んでいる。
「……まぁ、いいか。一応、ここ学校だしな」
「シンジは、カフェで飲んでたみたいだけどね」
「ぶっはっ!」
シンジは、口に含んでいたファ○タを吐き出す。
「……見てたのか?」
「ああ、連れてきた死鬼の女の子に女体盛りをしているところから、3日目の、カフェに置いてあったお酒の力を借りて、死鬼の女の子に出来る限りのイタズラをしようとしたモノの、途中でヘタレてほとんど何も出来なかった所まで」
「いやぁああああああああ」
シンジが叫び、コタロウの口をふさぐ。
「言うなぁあああああ」
「もうほとんど言ったし。けど、あそこまでしたら、ティッシュじゃなくて、もう女の子に……」
「やーめーろー!」
友人に、性的な行為を見られる事ほど、恥ずかしい事はない。
男の子は、意外と繊細なのだ。
「……マジでお前の技能何なんだよ。監視もしてたのか」
コタロウに、もう3日目の酒池肉林の話はしないと言う約束をさせて、シンジは、自分のイスに戻った。
「まぁ、それは後でのお楽しみ。先に、俺が勇者と呼ばれるようになった話からしようか」
コタロウが、前菜のトマトを口に運ぶ。
「聖天の王国アツキ」
トマトを飲み込んだコタロウが、言った。
聞き覚えのない国の名前。
「天使を名乗る、翼が生えた人々の国。5年前に俺はその国の奴らに勇者の一人として召還された」
料理を口にしながら、コタロウは語る。
「よくある話だよ。凶悪な魔王が世界をメチャクチャにしようとしているので、異世界から勇者を召還した。俺の時は4人……いや、3人か。他にも巻き込まれた人が異世界に散らばっていたみたいだけど、正式に勇者と言われていたのは、3人だな。偉そうに、低姿勢で言っていたよ。勇者さま助けてください。魔王と、その配下である魔人を倒してください。お願いしますってさ。まぁ、そんなお話」
シンジも、コタロウの話を聞きながら、料理を口に入れる。
花のような香りのするトマトに、果実のようなオリーブオイル。
嗅いだこともない臭いのするチーズの組み合わせは、食べたことがない味だが不思議と美味しい。
食欲も湧いてくる。
次々と、口の中に運んでしまう。
「ちなみに、魔人ってのは、人に獣の耳やしっぽが生えていたり、肌の色が青とか赤かったりする人たちでさ。シンジが戦ったハイソみたいな感じかな。強い人たちだったよ」
シンジの脳裏に、猫耳が生えた、美少年の姿が思い返される。
シンジは彼に腕を切られ、腹をえぐられ、足を切り落とされた。
あんな奴らとコタロウは戦ったのだろうか。
「まぁ、そんな奴らと戦う見返りに、色々もらえたさ。富、名誉、力。綺麗な女の子。12人、いたかな。上は20~下は一桁の女の子たち。ちょっと言えば、簡単に股を開いて色々やれたよ。天使なのにね」
コタロウは笑っていたが、
軽蔑。
そんな目をしていた。
「そこまでしてもらったから、協力はしたさ。他の一緒に召還された二人の勇者と一緒に魔王を倒した。ほとんど俺が一人でやったんだけど……とにかく、魔人を退け、魔王を倒した。そして……」
コタロウは、顔を伏せて、上げる。
「アツキをメチャクチャにした」
悪巧み。
それが成功したのだと、その笑顔でコタロウは言っていた。
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