第8話
「これはそのままじゃ食べられん――水に曝して多少なりとも塩分を落としてやらないとな。そのまま食べたら体を壊す」
ライがそう返事をしたところで、先ほど地下牢にライを呼びに来た熊の様な巨体の兵士が後ろからその樽を取り上げた。振り返るライの背後で、両肩に樽を担いだ兵士がにかっと笑う。
水が入っていた樽は、別な兵士がふたりがかりで焚き火に向けてぶちまけている。水しか入っていないので棄てていっても問題無いはずだが、まあなにかしらの使い道があるのだろう――燃料とか、あるいはバスからこの砦に来る途中に川があったのでそこで水を汲むためのバケツ代わりとか。
使えそうなものはすべて略取していくつもりらしく、たいして残っていない未使用の薪も兵士のひとりが紐で括って片手でぶら下げている。
ライは拳の甲で熊の様な大柄の兵士の胴甲冑を軽く小突くと、あの紺色のドレスを身につけた美少女と褐色の肌の少女がそれぞれ馬に乗っているのを確認してから兵士たちに彼らの言葉で声をかけた。それから康太郎たちのほうに視線を向けると、かたわらの巨人のごとき若者を親指で指し示し、
「出発する。おまえたちのあとに彼が続く――遅れるなよ。遅れる様なら声をかけろ」 そう告げて、自分が先頭に立つつもりなのか歩き出した。
§
アーチ状のトンネルをくぐって砦の外に出ると、防塁の瓦礫の山を越えた冷たい風が横殴りに吹きつけてくる。フードがバタつくのが不快で、ライは小さく舌打ちを漏らした。
防壁という遮蔽物のあった砦と違い、常に南から強風が吹いている高台を横風に煽られながら東進するのはなかなかに体力がいる――別に颱風並みの強風というわけではないが、それでもそれなりに体力を奪われるだろう。風が冷たいので、風速冷却による体温の低下も問題になる――ライがひとりでやっているぶんには、別に気にならないが。
特に馬上にいるリーシャ・エルフィやメルヴィアにとっては軽装も相俟って
アーランドの制式装備品の矢筒はわざとそのまま置いてきたが、
別に日本の自衛隊の様に装備品の管理が面倒なわけではないが、失くせばやっぱり文句を言われるし、最大の問題として叛体制派の手に渡ればテロとプロパガンダに利用されかねない。
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