第2話

 

   §

 

「そうだ。俺がに来てから五年――時間経過で言えば、もう少し長いか。でも、まあそんなものだ」 不破康太郎の返事にかぶりを振り振りそう返答を返してから、ライは片手でがりがりと頭を掻いた。彼はとりあえず出てきたらどうだと適当に手招きしつつ、

「俺は平成三十年、五月二十七日にへ飛ばされた――今からまる五年も前の話だ。おまえたちは?」

「俺たちは三十年の六月二十三日だ。京都に修学旅行に行くのに、高速道路を走ってる途中だった」 康太郎の返事にライはそうかと小さくうなずいて、

「なるほど。今のところ、俺が出くわした奴らは俺も含めてみんな移動してるというわけだ――しかも時期はばらばら。なにか意味があるのかね」

 ライがそんなことを口にして、適当にかぶりを振る。

「ばらばら?」

「さっきも言った通り、俺はおまえらと同じ平成三十年から五年前のこの世界に飛ばされた。おまえたちはごく最近だろう――この場所に飛ばされてから何時間経過してる? いいところ一両日中か」

「ああ、今日の昼間だ――時計で見る限り十二時間ほどかな」 ライは康太郎の返事にうなずいて、

「ほとんど変わりない時期から、かたや五年前かたや五年後だ。おかしな話さ」

「なあ、俺たちはどうなるんだ?」 仲間を牢獄から出す作業を終えた相良幸一の質問に、ライがそちらに視線を向ける。

「さあな――エルンから地球に戻る方法は無い。正確に言うと、あるのかもしれないが見つかってない――なんらかの方法で生き延びる算段を立てるしかないだろうな」

 そう返事をしたとき、斜面の上から兵士がひとり姿を見せた――前時代的なことに熊の様な巨体を鈑金プレート甲冑メイルで鎧い、派手な黄色の外套マントを羽織っている。おそらく光沢を抑えるためなのだろうが、甲冑の装甲板も外套も万遍無く土をなすりつけられて薄汚れていた。

「ライ」

「ジ」 身長二メートルを超える恵まれた体格の兵士に呼びかけられて、ライがそちらに視線を向ける。

「ズジャヤ、ガラ?」

 巨漢の兵士がライのかたわらに歩み寄って何事か耳打ちすると、ライはうなずいて康太郎に視線を向けた。

「そこの。康次郎の兄貴、ちょっとこっちへ来い」

「え?」 いきなり呼ばれて、康太郎は思わず自分を指差した。

「おまえ以外にあいつの兄貴はいないだろ。おまえたちの仲間の墓を建ててるが、名前がわからん――墓碑銘を刻まなくちゃならんから、ちょっとついてこい」 ライはそう言って、地下牢獄に降りるための斜面を登り始めた。従わないと首根っこを引っ掴んで連れて行かれそうな感じだったので、素直に彼について斜面を登る。

 さいわいなことに砦を占拠していた賊たちはすでに全員死体を片づけられたらしく、そこかしこに血痕は残っているものの屍は見当たらない。

「ここにいた奴らはなんだったんだ?」

「このあたりを統治する国の王女を攫ったテロリストだ。もう皆殺しにしたがな」 歩きながら口にした質問にそう返事をして、ライは向かって左側の入り口から康太郎を砦の敷地の外に連れ出した。

 登りきると、視界がだいぶ明るくなる――賊たちの焚いていた焚き火がまだ燃えているというのもあるが、防壁の一部が破壊されているからだ。

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