第24話
*
目的地になる砦は、水源地から西に向かって流れる川を越えてさらに数キロ――しばらく進むと緩やかな登りになる。登りきればエルトフラン山脈に沈みかけた割れ月が視界に入ってくるだろう。実際に沈むのは十日くらい先だが。
奇妙なことに、ちょうどこの緯度あたりを境に土地全体がなだらかな傾斜になっているのだ。高低差四百メートルほどの勾配を登りきるとそのあとしばらくは鉋で削ったみたいにほぼ平坦な平地が続き、二キロほど先で今度は
斜面に到達すると、樹海の植生は完全に途切れる――地上からの垂直の高さが百数十メートルを超えると木々の枝葉に日照が遮られなくなって日当たりがましになるからだろう、鳥の糞に混じっていた種が発芽して成長した若い樹木が思い出した様に生えてはいるものの、樹齢数百年では到底きかないであろう巨木はまったく生えていない。
逆に樹海の中では、若木というのはまず見かけない――水や養分、気温は別として地上にほとんど光が届かないからだ。日陰を好む樹木というのが無いわけではないが、まあ限度というものがある。
風を和らげる遮蔽物が無くなると、斜面の上からは南風が吹き下ろす様になる――ライの知る限り、この高台を越えて吹いてくる強い南風は絶えたことが無い。
「言い伝えでしかないんですが――」 歩きながら、ガラが話を続ける。
「エルトフラン山脈を越えて
という説明は主にメルヴィアに向けたものだったしライにとっては既知の話ではあるが、なんとなく連想するものがあったのでライは相槌を打った。
「万里の長城みたいなもんか――たしかに、断面形状を想像すると防壁とか堤防みたいな形してるよな」
「じゃあこの斜面を登った先の高台を東西に探索すれば、ほかにも砦が見つかるのかな」
「かもしれません」 メルヴィアの口にした疑問に、自分でここまで来たことの無いガラが自信なさげに返事をする。ふたりそろって先頭を歩くライの背中に視線を向けてきたのがわかったので、
「例の砦を中心に東西それぞれ六十ファード(一ファードは約七百メートル)には、それらしいものは無かったぞ」 肩越しに振り返ったライがそう返事をすると、メルヴィアは軽く首をかしげた。手触りのいい黒髪がひと房、肩からこぼれ落ちる。
「そうなの?」
「ああ――塁壁が崩れた様な煉瓦状の石の山はあったから、拠点はともかく塁壁があったのは信憑性がありそうだけどな」
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